俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第48話 種明かしは基本まで



 ギルドマスターとの試合が終わり、門真君達から物凄い賞賛と、激しい質問の雨に晒された俺は、のらりくらりと追及をかわした後、無理矢理訓練を再開させていた


 視線の先では、黒澤君VS天貝君、門真君VS京極君と夜菜ちゃんという組み合わせで試合が行われている。


 天貝君は黒澤君相手に苦戦しているが、これは相性の問題だろう。
 天貝君はテクニカルな攻撃が特徴だが、如何せん力が足りない。黒澤君の力押しには少し厳しいところがあるのだろう。


 一方で門真君はやはりこの10人の中でも別格で、京極君と夜菜ちゃんを相手に互角に立ち回っていた。


 門真君はどうやら自力で攻撃と魔法の同時進行を会得しているようだった。それだけで充分なアトバンテージを獲得していて、京極君と夜菜ちゃんを相手に互角の戦いを演じられているのもそれのお陰だろう。


 「ふ~む、ヨルナちゃんはまだ完全な無詠唱は会得できてないか……」


 隣で難しい顔をしながらギルドマスターが口を開く。俺も今は単なる傍観者となっているので、ギルドマスターの隣に座っている状態だ。


 「こればっかりは感覚ですからね。普通は時間をかけて慣れていくしかないでしょう」
 「……まるで普通じゃない方法があるような言い方だね」


 特に意図した訳では無いが、ギルドマスターは俺の言葉を詮索してきた。
 もちろん方法を教えるつもりは今のところない。教えたところで出来るわけがないからだ。


 「無詠唱での複数発動を会得した勇者も、前半組に居ましたよ」
 「あー私は何も聞いてない! 無詠唱で複数発動なんていう高等技術を、たかが数時間で覚えさせるとか意味わからないことは聞いてないから!」


 代わりに、取り敢えず結果だけを伝えてみると、ギルドマスターは大袈裟に耳を塞いで聞こえていないことを主張してくる。


 「貴女は子供ですか。それ、実際なんの意味があるんです?」
 「私は聞いていない、という事実が大切なんだよ」
 「そんなもんですか」


 恐らく政治関連なんかは、そういうこともあるのだろう。重大な秘密や出来事は、聞こえていたとしても聞こえていないフリをした方が良いこともあると。
 それを今やられても困るだけだが。


 「実際君が言ったことはとんでもない事だからね? 幾ら教え子が勇者でも、たかが数時間で無詠唱を、しかも魔法を同時に発動させるようにするとか、普通無理だから」
 「そうかもしれないですね」


 曖昧に同意しておくも、ギルドマスターからはジト目を向けられるだけだ。
 ギルドマスターは、「はぁ」とこれ見よがしにため息を吐き、ふと、思い出したように呟いた。


 「そういえばトウヤ君。君は試合中に色々なことを見せてくれたわけだけど……種明かしは希望できるかな?」
 「そうですね……ものによりますかね」


 ギルドマスターにそう言うと、「それくらい分かってる」と笑われてしまった。
 念のために言っただけなのだが、俺は何となくむっとなった。


 「例えばほら、素手で雷を防いだやつは? あれはどうやって?」
 「あれは魔力で手を覆って、それで防いだだけです。頑張ればギルドマスターでもできますよ?」
 「……最上級魔法を魔力の防御だけで完全に防ぐのは無理だと思うんだけど」


 引き攣る顔は、恐らくこの後の質問でもあることだろう。何となくギルドマスターを不憫に思いながらも、俺は先を促した。


 「じゃあ『堕点風流ダウンバースト』……風の魔法を使用した時や氷の魔法を使用した時に、何も変化しなかったのは? 服が乱れたり凍ったりしてもおかしくないと思うんだけど」
 「それは秘密です。言ったところで出来ないと思うので」
 「……その一言は余計だよ」


 正直に告げただけだが、まぁ確かに見下してるように聞こえるよな。


 ちなみに『堕点風流ダウンバースト』で服が乱れたり、『絶対零度アブソリュートゼロ』で凍ったりしなかったのは、前に飛鳥ちゃんの魔法を防いだ時と同じことをしただけだ。
 自身の周りにギルドマスターの魔力に同調させた魔力を満たすことで、ギルドマスターの魔法の影響が及ばないようにした。
 俺の方が魔力の質やそういったものは上だから、ギルドマスターの魔法が俺に干渉することは不可能なわけだ。
 もちろん乱用しないのは、バレないようにするためだ。この方法をノーリスクでパンパン使えるものだと知られてはいけない。


 「まぁいいや。今更そのくらいで目くじら立てても仕方ないからね。それに、聞きたいことはまだある」
 「なんです? さっきも言いましたが、教えられないものもありますからね?」
 「重々承知だよ。それで、私の拘束魔法を解いた方法は?」
 「秘密ですね、それは」
 「じゃあ戦闘中君が割と無口だったのは?」
 「そっちの方がかっこいいと思ったからですが」
 「……ちなみに氷の剣や炎の剣は?」
 「『氷隆斬』や『炎波斬』といった技を使うにあたっては出す必要は全くありませんでしたね。魔法で代替出来ますし、単なる遊びです」
 「…………その技名を呟いてたのは?」
 「カッコいいですよね、そういうの」


 信じられないようなものを見る目でギルドマスターが俺の顔をまじまじと見てきた。
 そしてその後、無表情で口を開いた。


 「君、一回殴っていいかな」
 「なんですか急に。殴られるようなことはしてませんよね?」
 「真剣勝負中にお遊びのような理由で使われてたんだよっ!? 怒らずにいられると思うかい!?」
 「いや、知りませんよ」


 というか、俺はべつにアレを真剣勝負だとは思っていなかったんだが……


 「ほら、手加減だと思えばいいじゃないですか。実際、俺が何も喋らず、剣を振るなんていう動作もせずに攻撃を放ってたら勝てなかったでしょ?」
 「そ、それはそうだけどさ……それとこれは話が違うというか」
 「納得、お願いしますよ」


 俺が強めに言うと、ギルドマスターは口をつぐんだ。俺の願いが届いたようで何より。


 「まぁ俺がやったことは基本的には、魔力でどうにかした、ということで説明がつきますよ」
 「私としては、もっと大層な理由が欲しかったんだけどね。たったそれだけで全ての攻撃が防がれてたと考えると、辛いものが……」


  今のギルドマスターの気持ちはわからんでもないが、そんな凄いことはしてないからな。
 魔力で防いだ、魔力を同調させて魔法を防いだ、魔法でどうにかした。この三つが基本だし。


 「じゃ最後。私が君の『炎燃拡散フレイムボム』を返した時に、なんで反応できたの?」
 「いや、魔法が吸収されたらそれを返されるって思ったので。特にあの状況なら、すぐに使わないと戦闘が終わってしまうとギルドマスターが考えると予想できるのは容易ですし」
 「……言ってることはご最もだけど、要は勘で防がれたというわけか」


 苦笑いを零すギルドマスターは、「はぁ」と、再びため息を吐いた。
 まぁすぐにその結論に至ったのは、俺が『審判の右手』と『断罪の左手』という魔法を作っていたのが大きい。自身が使うような方法が咄嗟に思いついてしまったのも仕方ないことだろう。
 キャッチ&リリースは基本中の基本でもあるしな。魔法を無効化するより有益だ。


 「はぁ、種明かしをしてみれば、あっと驚くようなことは無かったよ。唖然とすることはあったけど」
 「魔法を無効化する魔法で……とかの方が良かったですか?」
 「それはそれで困るけどね」


 うんと伸びをしたギルドマスターは、言葉に反して、別段残念がっている様子もなく、笑顔でそう言った。意外とスッキリしてはいるのだろう。
 そして、この戦いを通して俺もギルドマスターに対する印象が変わった。


 この人はアレだ、残念美人から負けず嫌い美人と改名しよう。最初の悪印象も、今回は俺を楽しませてくれたから、無かったことにします。
 愚直に本気で挑んでくる感じや、一つ一つのリアクションがとても良かった。何より周りが見えなくなっているのが高評価だ。いや、人によっては悪いとは思うのだけど、俺にとってはその素直さが割と好きだ。


 そう思えばあら不思議、ギルドマスターの笑顔がとても魅力的なものに映る。
 大人な女性が魅せる笑顔。そう思えば、何となく愛らしさも見えてくるものだ。  
 胸がときめくとはまさにこの事か。やはり印象によって、こういうものの捉え方はガラリと変わるのだな。


 あぁいや、別に恋してるとかそういうんじゃなくてな。


 「ところで話を戻すけど、トウヤ君が直接訓練を見てあげるわけじゃないんだね」


 そんな、少し頭の中で否定語を重ねていると、門真君達の試合に目を戻したギルドマスターにそう聞かれた。


 「まぁ、確かに直接見るのもいいんですが、今の時間帯からやると中途半端になりそうだったので」
 「それもそうなのかね。でも君ならほら、時間を遅くしたり、挙句の果てには巻き戻したりもできるわけだし、早めることも可能じゃないのかい?」


 ………。


 「なるほど、その手がありましたか」
 「……その、本当に出来ると思って言ったわけじゃないんだけどさ……君は本当に非常識だよね」
 「確かに俺は非常識かもしれませんが、ギルドマスターも大概ですからね。門真君達と戦っても勝てるでしょう?」
 「まだ問題ないとは思うよ。でも勇者にある【能力アビリティ】を使われたりしたら、ものによってはキツイかな」
 「そんなものですか」


 そういえば、結局門真君達の【能力】とか何も知らないな。欠片も見せてくれないというか。
 門真君は何となく予想できてるが、他の9人はサッパリである。だからといって無断で鑑定する訳にもいかず。


 「……さっきまでの話を全否定するようなものだけど、実は君『魔法を無効化する』みたいな【能力】を持ってるとか、無いよね?」
 「一応俺は勇者ってことを認めていないんですが……安心してください、そんな【能力】は持っていませんよ」


 そもそも俺のは【異能アノマリー】なのだが、それは言わなくてもいいだろう。


 「一体君の【能力】は何なんだか」
 「あまり使い勝手のいいものではありませんね。俺のは戦闘向けではありませんから」
 「……第2の【能力】や、既存の【能力】が覚醒しないことを願うばかりだね。これでそんなものまで使い始めたら、それこそ誰も勝てないと思うよ」
 「それこそって……現時点で俺に勝てる人なら心当たりでも?」
 「………居ないね。強いて言うなら魔王だけど、アレは特別だし……」


 はて、魔王はそんなに強いのだろうか?
 そういえば一時間ぐらい前に、魔法を避ける訓練をさせてる時にギルドマスターが言ってたな。『そんなに魔法が使えるのは魔王ぐらいしか想像できない』的なことを。


 それに特別と言っているし、一体どういうことなのだろうか。


 「ギルドマスター、魔王について少し教えて貰っても?」
 「おや、気になるかい? 将来戦う相手のことが」
 「俺が召喚された国の図書館には、メチャクチャ強いとしか書いていなかったので……」


 ルサイアで読んだ勇者の英雄譚曰く、レベルが200を超えてたり、勇者にある【能力】のようなものを複数持っていたりするというのは知っているのだが、人型なのか、意思疎通は可能なのか、そういった事は全く知らない。
 800年前の勇者様もその辺り書いてくれれば良かったのにとは思うが、あれ自体、本当に勇者が書いたのかわからないからな。
 ルリは好きそうだったから、そんな憶測は口に出すつもりもなかったけど。


 「まぁそうだろうね……というか、君はこういうのは『然るべき時に聞きたい』とか、ふざけた事を言うと思ったんだけど」
 「普通に失礼ですね。流石にそこまで俺の遊びを入れるつもりはありませんよ。情報は持っておいた方がいいですしね」
 「そうかい。じゃあ悪いけど、『消音領域サイレントフィールド』をかけさせてもらうね。聞かれたら困ることだし……」
 「それならもうかけてるのでご安心を」
 「………行動が早くて何よりだよ」


 何か言いたげな表情のギルドマスターだが、それは無視して、俺は目で先を促した。


 「一応今から話すことは極秘だから、絶対に漏らさないでくれよ?」
 「肝に銘じておきますが……そんなにやばい情報なんですか? 魔王の情報なら、共有しておいてもいい気がしますが」
 「これを知っているのは、実際に魔王と戦った勇者とその従者だけだ。取り敢えず聞いてもらえるかな」


 俺の質問には答えてもらえず、ギルドマスターは一方的にそういうと、淡々と語り出す。
 どうやら少し重い話のようだが、果てさて一体……。


 「早速だけど、魔王の正体はね───」



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