俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第47話 分かりきった勝敗





 「『マルチエレメンタル・ランス』」
 「んなっ!? ふぁ、『炎槍ファイアランス』ッ! 『水槍ウォーターランス』ッ! 『氷槍アイスランス』ッ! アースラ───」


 『大雷轟雨ギガボルト・レイン』が降り終わった途端、前触れもなく魔法名が告げられた瞬間に、8つの色の槍がトウヤ君の周囲に出現し、風を切り裂く音を発しながら射出される。


 咄嗟に反対属性の魔法で対抗するも、私が全ての魔法を言う前に、相殺できなかった魔法が私の元に一気に降り注ぐ。
 『転移テレポート』を使う暇もなくその場で避ける。『光槍ホーリーランス』が頬を掠めていくけど、気にしていられない。


 というか、一度の詠唱でなんでそんなに別々の属性の魔法を扱えるのか聞きたい。
 いや、それを言うなら、火に対して水で対応してるのになんで相殺・・がやっとなのか聞きたいよ。有利な属性の魔法なのにも関わらず相殺っておかしいから。
 お陰で反対属性以外の魔法じゃ勝ち目がないよ。


 「氷隆斬ひょうりゅうざん


 それを見届けたトウヤ君は、やはり『大雷轟雨ギガボルト・レイン』など全く気にしておらず、淡々と氷の剣を下から振り上げるようにする。
 すると、今度は[飛剣術]ではなく、剣の軌跡の延長線上の地面に氷が出現しながら迫ってくる。


 「ホントに多彩だねっ! 『エアハンマー』ッッ!」


 次々と地面から棘のように生えてくる氷をジャンプで回避して、トウヤ君目掛けて魔法を発動する。
 トウヤ君の横に空気を圧縮してできた透明のハンマーを作り上げ、それを思いっきりスイングさせる。


 「『無空気エアンセプション』」


 が、トウヤ君が早口でその魔法を使用したために、私の『エアハンマー』はトウヤ君に当たる寸前で霧散してしまった。
 ───範囲内を真空状態にする魔法か。対抗魔法の選択が早いこと。
 いや、どちらかと言うと乗ってくれたという感じかな。私が魔法を発動したと同時に避けることも出来たみたいだしね。
 そもそも彼は無詠唱で魔法を発動できるはずだが、カムフラージュに敢えて魔法名を唱えている時点で、手加減をしている。


 その余裕な態度がムカつくよ、ホント。


 「『高流水波タイダルウェーブ』!!」


 そんな思いを魔法に乗せてトウヤ君にぶつける。


 相変わらず使うのは最上級魔法。どこからとも無く出現した巨大な津波が、一瞬にして訓練場内を水で満たす。
 魔力が結構持っていかれるけど、杖には後魔力を2回全回復できるぐらいは残ってる。まだ大丈夫。
 術者である私の周りには多少の空間が作られているから、溺れることは無い。それよりも、トウヤ君がこの水から抜け出す前に次の一手を…… 


 「ッ!?」


 そう考えて杖を構えた瞬間、水の中から低く鈍い爆発音のようなものが聞こえてきた。
 そして次の瞬間には、周囲の水が全て吹き飛ぶほどの爆発が発生することで、一時的に訓練場の真ん中から水が無くなる状況になる。


 (これは、トウヤ君のっ!? 水の中なのに冷静すぎるでしょっ!?)


 恐らく爆発系統の魔法だと思うが、無詠唱で、しかも水中で魔法を発動するなど、どれだけ冷静なのか。
 普通は突然のことに頭が混乱してイメージのしようがなく、こんなすぐに対応できることなどほとんど無いのに。
 ……いや、まぁトウヤ君なら水の中でも呼吸したりとかは可能なのか。うん、それぐらいやっても不思議じゃない。


 それはともかく、一時的に水は吹き飛ばされたが、この訓練場の中である以上、水は再び満たされることになる。そして、トウヤ君もそんなことは百も承知だろう。


 「氷隆満月ひょうりゅうまんげつ
 「ッ!? 『水壁ウォーターウォール』ッ!!」


 トウヤ君はその場で氷の剣の居合のように構えると、いつの間にか、剣を振り切った体勢になっていた。
 ───それは、トウヤ君の声に反応したに過ぎなかった。気づいた時にはトウヤ君の剣は振り切られていたのだから。だから私が魔法を発動したのは、トウヤ君のその声に従った結果だ。


 トウヤ君が剣を振ったのに合わせて、壁に跳ね返って再び真ん中へ集められようとしていた津波全てが一瞬にして凍りつく。


 慌てて私が『水壁ウォーターウォール』を作らなかったら、恐らく私も氷漬けにされていた事だろう。ほとんど無意識で動いたようなものだが、今の一瞬の判断が延命に繋がったと言うべきか。


 (それにしても、近づいてこないのはやっぱりそこでも手加減しているということか)


 グッ、と私は唇を噛む。どこまでも手加減されている、そんな悔しさから。
 私は言うまでもなく近接戦は苦手だ。並大抵の相手ならあしらえないこともないが、それが同レベルとなれば話が違う。
 それも今回は相手がトウヤ君だ。私だってこの世界でも充分強い方ではあると思うが、正直トウヤ君は私とは格が違う。明らかに練度が違うのだ。
 私も色々な相手と戦ってきた身、相手との実力の差を測ることぐらいはできる。


 ……違うね。今回の場合は、嫌にも差を感じさせられたと言うべきかな。


 私とトウヤ君では、まさに赤子と大人……いや、それ以上の歴然とした差、壁がある。
 工夫や作戦、そういったもので覆すことが出来ない、圧倒的な差が。




 とっくの昔に私は、これがあくまで45分の休憩の繋ぎの、一種のパフォーマンスであることを忘れていた。
 それはトウヤ君に全く魔法が効かなかった時か、時間を極限まで遅くするという奇跡のような魔法を見せられた時か。
 そもそも最初に、『堕点風流ダウンバースト』という訓練場全体に及ぶ魔法を発動している時点で、私の頭の中にそんなことを考える余裕は無かったのかもしれない。
 観客である門真君たちのことも普通に忘れている。戦闘で味方の存在を忘れるなど、本来後衛職である私なら有り得ないはずだが、それでもトウヤ君の醸し出すプレッシャーの前には忘れてしまったのだろう。


 事実、私は門真君たちの安否は全く気にしていなかった。仮にも勇者である彼らが、いくら私の魔法とはいえ、何も出来ずにやられるということは考えられないだろうしね。
 そんな思いも、何処かにあったのかもしれない。


 だから私は、今この瞬間、ただ一心に、トウヤ君の実力を引き出すことだけに集中していた。


 彼の実力を、自分がどこまで引き出せるのか。


 「『絶対零度アブソリュートゼロ』ッッ!!」


 津波が凍ったのを、自身のフィールドとするために『絶対零度アブソリュートゼロ』を重ねる。
 効果が無かった魔法を2度も使うのは愚策かもしれないが、あの氷をトウヤ君に使用されるぐらいなら、一層の事フィールドをこちらの物にするしかないのだ。


 幸い、最上級魔法である『絶対零度アブソリュートゼロ』も、津波という大規模な氷があれば、消費魔力もいくらか抑えることが出来た。


 「『氷霧ミストフローズン』、『氷柱群アイスピラーズ』ッ!!」


 そして、折角フィールドをこちらの物にしたのなら、有効活用するべきだ。


 『氷霧ミストフローズン』で訓練場内に冷気の霧を発生させて、視界を悪くする。更に氷系統の魔法の効き目を強化させ、期待薄ではあるが、トウヤ君の動きを多少なりとも鈍らせられれば上出来だ。
 そして『氷柱群アイスピラーズ』。『氷柱アイスピラー』を複数発生させるこの魔法で、フィールドに複数の氷の柱を出現させる。


 本来なら複数同時に発生させる魔法だが、今回は一つ一つ順番に出していく。対象がトウヤ君だけで、同時に出す必要は無いからだ。


 しかし、地面からトウヤ君目掛けて飛び出る氷柱は、トウヤ君に当たる寸前で、肉眼ではキラキラと舞う残滓しか見えないほどに木っ端微塵に粉砕されていく。


 見た限りでは何もしていない。魔法なのか、それとも手に持った剣によるものなのかも、やはり全くわからない。
 この戦闘中、1回も私はトウヤ君の魔力を感じ取ることが出来ていないのは、私の感知能力が低い訳では無いだろう。トウヤ君の隠蔽能力の次元が違うのだ。
 なにかそれ専門の、勇者特有の【能力 アビリティ】でも持っているのか……


 それゆえに、攻撃の種も、スキルによるものなのか、魔法によるものなのか、見当が付かないのだ。
 多分氷の剣を振ってはいるのだろうが、その剣で直接壊しているのか、剣を振ることによって魔法を発動して、それで壊しているのかはわからない。


 それでも、すぐに粉砕されてしまうとはいえ、次々に出現する氷柱のお陰で、トウヤ君の行動は封じることが出来ている。呆けている暇はないかな。


 風魔法で風を起こし、空気の流れを操作することで、『氷霧ミストフローズン』をトウヤ君の周りだけに集め、私の周囲からは退ける。
 もちろん内側からじゃ霧がどうなってるかなど分かるはずがないので、トウヤ君も気づかないと思うのだが……


 取り敢えず無詠唱で『消音領域サイレントフィールド』を使用して、霧の外からの音を一方的に遮断させる。
 霧の範囲はそこまで広くないけど、音が無くなれば多少は方向感覚が鈍るはず。それでいて、一部構成に穴を開けることで、そこから内側の声が漏れてくる。それを風魔法の『気体操作エアコントロール』で私の耳元まで届けさせれば、こちらの音は聞こえず、中の音だけが一方的に漏れるという状況を作り出せる。


 それに、音が消えたことで警戒心を煽れるし、中にいる人が無闇に動くことはないだろう。視界が遮られた状況では、どうしても慎重になるというものだ。


 ───そう、普通なら。


 「炎波斬えんはざん
 「ッ!」


 呟かれた名前から意図を理解した私は、私とトウヤ君の直線上の間に、すぐに水と土の壁を交互に作り出した。


 私が1度で作れるだけ作り出したのと同じタイミングで、霧の中心部が一瞬赤く光る。
 無論それだけで終わるはずがなく、トウヤ君を囲っていた『氷霧ミストフローズン』が、焼けるような音とともに、一瞬にして蒸発する。


 そして『氷霧ミストフローズン』を食い破って出てきたのは、無差別に広がる炎の波。何重もの壁越しでも、その熱はジリジリと感じられ、水の壁は1秒と保たずに圧倒的な炎に蹂躙される。


 土の壁を作らなかったら、私は即飲み込まれていただろう。


 死ぬことはないと思いたいが、本来有利なはずの水系統魔法が一瞬にして蒸発するほどの熱だ。飲み込まれたら火傷程度では済まない。
 全身丸焼き、死ぬ可能性もあるだろう。


 ───多少なりとも、手加減をやめたということかな?


 威力の点で言えば、先程までよりは明らかに上がっている。攻撃的な炎系統の魔法だからか……それよりは、トウヤ君が少し加減を緩めたからという方がしっくりくる。
 不用心な行動は、すぐに危機となる。常に色々考えなきゃいけないようだ。


 「『絶対零度アブソリュートゼロ』は……解けちゃったか」


 先ほどの攻撃で、『絶対零度アブソリュートゼロ』によって作り出された氷は全て消え去った模様。
 最上級魔法だから普通の氷ではなく、並大抵の炎じゃ効かないはずなんだが……トウヤ君には関係ないのか。


 そして燃え盛る炎は、瞬時にして収まる。このままだったらどうしようかと思ったが、消えてくれたらしい。
 『クレヤボヤンス』で姿を確認すれば、先程まで持っていた氷の剣の姿はなく、トウヤ君が持っていたのは燃え盛る炎の剣だった。
 トウヤ君が炎の剣を一振すると、どこに消えたのか、次の瞬間には炎の剣は消えていた。


 一種のパフォーマンスだろうが、チャンスと見た私は、焼け焦げた土壁の後ろに隠れながら、トウヤ君に魔法を発動した。


 『エアハンマー』で、空気で出来たハンマーを作り出すも、それは一瞬にして霧散する。わかっていたことだが、どうやら2度目は許してくれないらしい。
 更に『落雷エレクトリック』も一緒に発動していたのだが、そっちはトウヤ君がまさかの空いた右手で防いでいた。


 ───もしかして、『大雷轟ギガボルト』とかもあんな風に防いでたの……?


 普段なら素手で防ぐなど信じないが、既にトウヤ君は色々なことをしでかしている。
 流石に純粋な素手ではなく、なにかしら細工はされているだろうが、なんというか、私の魔法が効いてないっていうのがよく分かる。


 今の所一番効いているのは『氷柱群アイスピラーズ』だろうか。いや、それすらも手加減されてのことだろうしなぁ……


 「さてと……ギルドマスター」


 そんな時、トウヤ君が壁越しに私に声をかけてきた。


 「……なんだい?」


 もう何度目かの魔力の減少による疲労を味わい、息を整えてから私はそっと顔を覗かせつつ返事をした。


 「いや、もう少しで終わりにするので、と言いたかっただけです」
 「……終わりにする、ね」


 それはつまり、トウヤ君が多少なりとも本気を出すということだろうか。
 そして今までは単なる余興とでも言いたげな感じ……言っていることは事実だが、誠に遺憾だよ。


 「ギルドマスターも、まだ本気が出せるのなら、今のうちに出しておいた方がいいですよ」
 「そうかい。でもお構いなくっ!! 『転移テレポート』ッッ!!」


 余裕たっぷりのトウヤ君に、私はそう叫びつつ『転移テレポート』で空中に転移する。
 転移する際、無詠唱による魔法の置き土産も忘れずに。


 置いていった魔法は『氷柱群アイスピラーズ』だが、無詠唱でやっている分威力があまり出ていない。だがこれは時間稼ぎ目的なので構わな……


 「逃がしませんよ。『視認転移ショートジャンプ』」


 一瞬後、足場の不安定な空中に転移した私の目の前に、トウヤ君が現れた。


 (トウヤ君も転移使えるよねそりゃ!!)
 「『転移テレポート』ッ!」
 「『視認転移ショートジャンプ』」


 今までと違い、武器の間合いまで攻めてきたトウヤ君に驚愕しつつも、私は再度『転移テレポート』で距離をとる。


 そしてそれに合わせてトウヤ君もまた距離を詰めてきて、正直この時点で私は先程整えた息が乱れていた。
 なんせ、ほぼ同時だ。どこに転移するかなど発動した後にしか分からないのに、転移した一瞬後には既に目の前にいる。


 私が転移してから、私の目の前にトウヤ君が現れるまでの間は刹那の時間。その間に転移後の場所の指定を組み込んでくるのは、人間業ではない。
 更に、武器を使用し辛い空中に転移しているにも関わらず、トウヤ君は難なく攻めてくる。この程度は障害にならないということだろう。
 魔法も使えて武術にも長けているというのは、相手にするとこうも厄介なものなのかと痛感する。


 せめて無詠唱で『転移テレポート』ができれば……と考えるも、すぐに否定される。
 どうせトウヤ君の前では、詠唱破棄も無詠唱も似たようなものだろうと。


 「『転移テレポート』ッッ!」
 「『視認転移ショートジャンプ』」


 何度目かの転移。転移系の魔法は魔力を馬鹿みたいに持っていくので、本来あまり多用はしないのだが、近づかれたら終わりの私にとっては何としても距離を取らねばならないのだ。


 「いい加減しつこいねッ! 『空気弾エアーボム』ッッ!!」
 「『審判の右手』」


 私がトウヤ君に向けて、指向性を持たせた圧縮空気弾を放つも、すぐに右手を向けられ、例の反則魔法によって防がれる。


 結果、距離が縮まった。


 「『白雷びゃくらい』ッ!」


 新たに雷系統の魔法を発動して、私は自身の手のひらから雷をトウヤ君に射出した。
 本来なら、見てから避けるのは不可能な速度。だがトウヤ君は、顔に向けて放たれた『白雷』を、まるで虫でも払うかのように、素手で払った。


 途端『白雷』がトウヤ君の払った方向に逸らされる。素手で魔法の軌道を逸らすなど意味不明だが、今それよりも重要なのは、距離が更に縮まったことだ。
 トウヤ君は一体どうやってか、空中で移動する速度を上げた。私は風魔法の『飛行フライト』のお陰で、空中でも器用に移動することが出来ているが、トウヤ君の周りで風が動いた気配はない。
 空中ならこちらの方が有利かと思ったが、そうでもないらしい。


 高速で迫ってくるトウヤ君に対する焦りから動悸が速くなり、高速で脈打つ鼓動が、ガンガンと脳内を容赦なく叩き回る。


 「『炎燃拡散フレイムボム』」


 そして、そんな時にトウヤ君の無慈悲な一言。
 手の中に生み出した小規模な熱の塊を、こちらに放ってくる。


 威力の手加減はされていると思いたいが、喰らったら一溜りもないのは確実だ。


 私はどう対応すべきか迷ったが、仕方ないと腹を括り───


 「っ!?」


 ここにきて、初めてトウヤ君の顔に明確な驚きの感情が浮かび上がった。
 『炎燃拡散フレイムボム』に向けて、私が杖の先端部分をかざした瞬間、その『炎燃拡散フレイムボム』は、杖の先端に取り付けられている紅の宝石に吸い込まれるようにして消えた。


 「『エアハンマー』ッ!」
 「『無空気エアンセプション』」


 一瞬の隙をついて私が攻撃を仕掛けるも、トウヤ君は焦ることなく冷静に対応した。
 だが、その間に私は再度杖を翳すことが出来た。


 「『解放ディスチャージ』ッ!」


 私の言葉に呼応して、宝石部分から先ほどの『炎燃拡散フレイムボム』が現れ、トウヤ君に向けて放たれる。


 不意をつく形を取ったこの魔法。私は一切魔力を使用していないから、トウヤ君も反応に遅れるはず。
 トウヤ君との空間はおよそ2mほど。杖の分も含めると50センチ程だ。


 そんな至近距離から魔法が発生したのだ。私は、初めてトウヤ君にダメージを入れることが出来たのに、内心歓喜した。
 ───そう考えたのは、どうやら早計だったようだが。


 「ッ!!」


 発動した瞬間には、トウヤ君は腕を振り切った状態でいた。
 その手には何も持っていない……そう見えたが、細長く空間が歪んでいるように見え、何か透明のものを掴んでいるようだった。


 そして、当たると思われた『炎燃拡散フレイムボム』は、それによるものなのか真っ二つに裂け、トウヤ君を避けて背後に進むと……


 そこで強烈な爆発を起こした。


 「くっ!? うわっ!!!」


 空中では踏ん張ることも出来ず、その爆発による衝撃波で私は吹き飛ばされる。
 流石はトウヤ君の魔法というか、私が杖に吸収したことでトウヤ君の制御を外れた魔法は、凄まじい爆発をもたらした。
 黒い煙が視界を覆い、地響きのような振動が体を貫く。


 「カハッ!!」


 すぐに、おそらく訓練場の壁に背中からぶつかった私は、肺の空気を全て吐き出し、そのまま地面に落ちた。
 壁にぶつかった程度ではそこまでの怪我ではないが、割と近い距離であの威力の爆発に晒されたせいで、体はボロボロだった。


 うつ伏せの状態から、どうにか仰向けになる。黒い煙が訓練場内に充満しているせいでほとんど何も見えなかった。
 辛うじて無詠唱で風を起こすことで、視界を確保すると、私は何も無い場所で倒れていた。
 まだ私はフィールドの中に居て、背後にある壁は、まだ十数メートルの距離があった。


 更に良く見れば、訓練場はフィールドを一歩出た先には、一切の被害が及んでいなかった。
 門真君たちも顔を青ざめさせてはいるものの、私が使用した広範囲技は一切効いている様子はなかった。


 私が倒れた状態でフィールドの外に手を伸ばせば、フィールドとフィールドの外の区切りで、なにか透明な壁に手がぶつかった。


 (……これはこれは、本当にやってくれるね)


 それを確かめたところで、スッと私の目の前に何かが差し出された。


 「きっかり45分です。終わりにしましょうか」


 差し出されたのは、トウヤ君の全く汚れていない手だった。
 それの意図を理解した私は、素直にトウヤ君の手を取って立ち上がる。


 「……最初から、ハンデが付けられてたんだね」
 「はて、何のことやら」


 私がそれとなく聞くと、トウヤ君は取ってつけたような笑みで、何でもないように白を切った。


 「フフ、私の完敗だよ。まさか、試合フィールドとそれより外を魔法で区切ってたとは……」


 それに構わず、コツコツ、と背後の透明の壁を叩きながら私は苦笑いをトウヤ君に向けた。




 どうやらトウヤ君は、最初から勇者達に被害が及ばないように、このフィールドを覆うように、魔法で防護壁を作っていたらしい。
 それも、私の最上級魔法を簡単に防いでしまうような防御力の壁を、45分もの間ずっと……


 「はは、ギルドマスターが最上級魔法を使ってくるのは予想がつきましたからね。流石にこの訓練場は破壊されると思ったので、結界を張らせていただきました」
 「勇者達の訓練に使ってた魔法か……それをずっと使いながら、私と戦ってたわけだね」
 「まぁ、そういう事です。っと、『巻き戻しタイムバック』」


 白を切った割には、以外にあっさり認めたトウヤ君は、その後何でもないように魔法を付け加えた。
 それが唱えられた瞬間、『大雷轟ギガボルト』や『堕点風流ダウンバースト』で散々抉れていた訓練場の地面が一瞬にして元通りになった。無論、氷やその破片なんかも何も残さずに……


 「時間の逆行……そんなことも出来るんだね」
 「まぁ、この位は。ギルドマスターの方もついでに治しときましたから」
 「え? あ……本当だ」


 言われて慌てて自分の体を確認してみれば、先ほどの攻撃による怪我やローブの損傷が全て消え去っていた。
 もう、なんというか、言葉で表せない複雑な感情が………


 「……もしかして、君は実は神様なんじゃないかい?」
 「そんなことはありませんよ」


 トウヤ君はあっさりと否定したが、私は結構真実じみていると思った。
 あれが勇者の力で収まるはずがないというか、もし勇者が全員あそこに至るまでの潜在能力をひめていたら、今頃この世界は平和だと思う。
 なら一層の事、神だとでも扱っておいた方が難しく考えなくて済むというものだ。


 「今回はとても楽しめました。昨日に引き続き、とても気分が高揚しましたよ」
 「そうかい。私は落ち込み気味だよ。君の実力もそうだけど、ここまで手も足も出ないとは……同じ土俵ですら戦っていなかったし」
 「俺は、ギルドマスターは充分善戦したと思いますけどね」


 何となく嫌味にしか聞こえないが、トウヤ君はそれを、一切悪意を感じさせない笑みと共に告げてきた。


 「そう思うのなら、後で私になにか報酬をくれよ。自分から挑んでおいてなんだけど、これで終わりじゃあんまりだからね」
 「うーん……後で考えておきますよ」


 私が腹いせから図々しく頼むと、なんとトウヤ君はそう返してくれた。
 お人好しではなく、本当に私のことを頑張ったと思っているのだろう。少し癪だが、自分から言い出したので仕方ない。
 何が来るかは分からないが、素直にあやかっておこう。


 「さぁ、大人しくそこのベンチで休んでてください。俺はこの後勇者達の訓練がありますので」
 「この私と戦った後に休憩も挟まずに訓練か……いや、皮肉じゃなくてね。一周回って尊敬しかないよ」
 「やめて下さい。俺がこの世界に来たのはたった1ヶ月半ほど前ですよ? まだまだ戦闘に関してはギルドマスターの方が上手です。何度かヒヤッとするような場面もありましたし」
 「尽く防がれたけどね。そう言ってくれると有難いよ……私に勝った報酬として、私に出来ることなら何でも協力するよ」
 「なんでもって……」


 私が本心からそう告げると、トウヤ君は何故か困ったような顔をした。


 「うん?」
 「いえ、何でもないです。じゃあ、もし何か困ったことがあったら、ギルドマスターを頼されてもらいますよ」
 「あぁ構わないとも。勝者に従うのが敗者の役目だからね」


 正直負け戦みたいなものだったけど、トウヤ君のあまりの強さに感化されたのだろうか。私は軽々しくそんなことを言っていた。
 少し考えれば、『何でも』というのは結構危ない発言だと分かったが、それに気づいたのはもう少し後だった。


 今は魔力が枯渇気味でだるい。杖の魔力はスッカラカンだし、トウヤ君の言葉通り休ませてもらおう。


 椅子に座った私は、色々と勇者達から問い詰められているトウヤ君を眺めて、『人気者は大変だなぁ』という呑気な言葉をこぼした。


 

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