俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第46話 歴然たる差





 トウヤ君が氷の剣を振るう度に、地面を裂きながら衝撃波が襲ってくる。
 魔法ではなく[飛剣術]だと思うのだけど、私の知っている[飛剣術]とは、威力も規模も桁違いである。


 それでも、手を抜いてくれているというのが嫌という程理解できる。なんせ彼は緩慢な動作で剣を振るっているのだから。
 これが戦闘と同じような速度で振られていたらと思うと……私は思考を停止させ、代わりに無詠唱で魔法を発動させる。


 土魔法の『ロックウォール』を発動させて、直線上に複数の壁を作り上げる。
 隆起した地面が天然の壁となるが、安心はできない。
 確かにウォール系の魔法の中でも、実際にある土や石を利用して壁を作る『ロックウォール』は一番強固だ。
 にも関わらず、トウヤ君のたった1度の斬撃に、この程度の壁ではあっさりと貫通されてしまう。


 現に目の前では、私が作り出した6枚の壁のうち、5枚までが突破されていた。
 私でこれなのだ。並の魔法使いでは壁を十枚用意したところで防げないだろう。


 トウヤ君が剣を振るたびに構築される壁。もちろん私の魔力も段々と削られていくので、このままではジリ貧だろう。
 せめて[飛剣術]が魔力消費型であれば良いのだが、私はそこのところを詳しくは知らないし、トウヤ君の魔力切れを期待するのはやめておいた方がいいだろう。


 悠々と歩いてくるトウヤ君に、私は無詠唱で魔法を発動しつつ、それを悟られないようにローブの中から弓を取り出す。


 「生憎私も、魔法だけを鍛えてるわけじゃないんだよ!」


 腰にある矢筒から矢を取り出して装填し、射つ。


 とは言っても、トウヤ君に当たることは期待していない。というか、彼に攻撃が当たるイメージが全く湧かないのだが。


 この矢の目的は、トウヤ君に当てることではなく、トウヤ君にこの矢を避けるなり弾くなりしてもらう事だ。


 ヒュンと風を切り裂きながら発射された矢は、寸分違わずトウヤ君の胸辺りに行くが、やはりというか手に持った氷の剣で弾かれる。
 軽い音を立てて弾かれた矢は、クルクルと回転した後地面に突き刺さる……が、ここからが本番だ。


 私は続けて4発、同じように矢を発射させた。


 キンキンキンキン、と、矢がトウヤ君の剣と当たる度に音が響く。それらはそれぞれ別々の方向に飛んでいき、最初の1本と同じように地面に突き刺さる。


 そして最後に、先程までとは違う矢を取り出して射つ。狙うのはトウヤ君ではなく、その一歩前の地面だ。


 「?」


 放たれた矢の軌道を見て首を傾げるトウヤ君。そのままその矢が地面に着弾すると……


 突如として地面とトウヤ君の肩上辺りに魔法陣が現れ、そこからジャラジャラと鎖が出現し、トウヤ君の四肢を絡めとる。


 「ッ」


 ここにきて、初めてトウヤ君の表情が変わった。少しの驚きが込められているようにも見える。


 もちろん油断はしない。トウヤ君がこれだけでやられるようなら、さっきまでの魔法も防げなかったに違いないのだから。


 それでも私は、それなりにあの鎖の効果を信頼していた。光系統上級魔法の『光耀の鎖』は強力な拘束魔法で、下位互換である『ホーリーバインド』よりも効果は高い。


 最初に無詠唱で地面に魔法を仕掛けておき、次に射った矢は周囲に魔力を拡散するという特殊な矢で、5本放つことでここら一帯に魔力を広め、魔力の知覚を誤魔化し、最後の矢を仕掛けた魔法に向けて放つことで、魔法を発動させたのだ。
 最上級魔法にも拘束系の魔法はあるものの、私では無詠唱で発動できないから断念した。一番得意な風系統の魔法ですら、最上級魔法は杖を使用して詠唱破棄が限度なのだから、それ以外で無詠唱ができないのは当たり前だ


 ギギギとトウヤ君を拘束している鎖が引っ張られる。魔法による拘束で対象の行動を妨げているのだ。


 そして、動きを封じた今がチャンス!


 「神に扱われし槍よ、神を殺しし槍よ、その力を解放し、今ここに顕現させよ! 『神槍グングニル』ッッ!!」


 詠唱を用いて、私は光系統の最上級魔法を発動させた。


 すると、宙に出現するのは純白の光を放つ、長さ2mはあろう、長槍。神々しさまでもがあるその槍を、私は握った。
 握り込んだ手から、その力が十分に伝わってくる。流石は神の槍を模した魔法というだけはあるのだろう。局所的な威力だけなら、この魔法はトップクラスの力を持つ。


 トウヤ君が、何か面白そうなものを見つけた目をする。いや、口元が少し上がっているのを見るに、本当に面白いと感じているのだろう。
 だが、今彼は拘束されている。なら私がやるべきことは、この槍を投げるだけだ。


 槍を投げる動作に特別なことはいらない。この槍は、投げる動作さえすれば、勝手に対象者に向かって高速で向かっていくのだから。


 振りかぶって槍を投げる。私が投げた槍は一瞬にして視界から消える程の速度を秘めていた。


 彼我の距離はおよそ数十m。当たるまでの間は、本当に瞬きの間だけだ。
 少し痛いかもしれないが我慢してくれよ? と、私は冗談めかした風に心の中でいう。この魔法を食らって生きているという認識自体が普通ならおかしいが、まぁトウヤ君の回復魔法の威力は見たし、どうせ死なないだろうとタカをくくっていたのだが……




 「なっ!?」 




 突然、周囲の動きがスローペースになり、色褪せていく。それは私の体も同じだった。意識だけはついていっているが、体は動かず、色も白と黒のモノクロになる。
 一声上げるのが精一杯で、それ以上は音が出なかった。


 「よっと」


 そんな中、何気ないふうに軽くトウヤ君が腕を動かす。それと同時に、トウヤ君を拘束していた鎖が一瞬にして壊される。
 上級魔法の拘束を、何でもないように破壊したのだ。
 更に言えば、彼だけが、この遅くなった時間の中で普通に動いていた。
 彼だけが、この空間で正常だった。


 ───もう、訳が分からない。


 放たれた槍は今も尚トウヤ君に向かって進んでいる。だがその速度は目で捉えられるほどに落ちていた。


 何がどうなっているのかもわからないままで、私は見ていることしか出来なかった


 「『審判の右手』」


 トウヤ君が右手を『神槍グングニル』にかざす。すると何かの魔法なのか、門のような物が出現すると、『神槍グングニル』はその門の中に入っていってしまい、次の瞬間には門諸共消え去ってしまった。


 「………」


 目の前の光景が理解出来ず、私は声を出すことすらできなかった。
 魔法を使われたのかも、そもそも魔法だったとしても、こんな規格外の魔法を使うことが出来るのかと、グルグルと頭の中を疑問がめぐる。


 「『解除』」


 トウヤ君の一言で、急に体が動き出し、世界が色を取り戻す。


 突然のことに尻餅を付いてしまったが、今はそれどころではない。
 私は慌てて立ち上がると、そのまま一気に距離をとる。兎にも角にも距離をとって落ち着かせたかったのだ。


 「はぁ、はぁ、はぁ……トウヤ君、今何をしたの?」


 気づけば、私は無意識でそう聞いてしまっていた。
 戦っている最中に相手に聞くなど馬鹿らしいと思うが、あまりにも理解できない内容に、聞かずにはいられなかったのだ。


 だが予想に反して、トウヤ君は簡単に答えてくれた。


 「時間を遅くしたんです。[時空魔法]で」
 「時間を……遅く?」
 「はい」


 私は最初、トウヤ君の言っていることが理解出来なかった。


 確かに[時空魔法]ならば、時間を遅くすることは可能だろう。私だってそれぐらいならできる。


 だがそれはあくまで『できる』というだけであって、どのぐらいの効力で出来るかと言われれば、時間を2倍か3倍に引き伸ばす、と言うぐらいが精一杯だろう。
 それも、効果範囲は物に限り、1つか2つだけだ。使い道など、温かい飲み物を長時間冷めないようにするぐらいだ。


 さっきのように広範囲で無差別に、魔法も人も全ての時間を動けないほどまでに遅くするなど不可能だ。
 時間を操作するということは、それほどまでに難しいのだから。


 私のそんな驚きを知ってか知らずか、トウヤ君は更に話し続ける。


 「んで、ギルドマスターの『神槍グングニル』に使った魔法は、簡単に言えばあの門の内側に通すことで、如何なる攻撃も無効化する魔法、みたいなものですかね。転移の応用です」


 ………今の私は、きっと目が点になっている事だろう。


 時間操作の次は空間操作と来た。それも、門の内側に入れれば如何なる攻撃も無効化できるなんていう反則技……
 なるほど、確かに合理的だ。どんな攻撃も当たらなければ意味が無いのだから、攻撃自体をどこかに移動させてしまえばいい。


 しかし、言うは易し行うは難し、だ。さっきも言ったが、口で言うほど簡単にそんなことは出来るわけがない。不可能、と言ってもいいだろう。


 本来[時空魔法]というのは、確かに時間と空間に干渉する魔法だ。だけど、その使い方は主に『転移テレポート』に限る。
 相当な使い手となれば、向かってくる攻撃の速度を多少遅くして避けるとか、トウヤ君が使った『次元の壁ディメンションウォール』という魔法の真似事なども出来なくはないだろう。それも強力な手段となるはずだ。
 だが、トウヤ君が言ってるのはそんな事じゃないのだ。


 範囲内の全てを対象とした時間をほぼ停滞と言っていいほどまでに遅くし、他者の攻撃を別の場所に移動させる。更には、それらの魔法を同時に使うことが可能で、生物にすら作用する……


 「そんなこと、出来るはずが……」
 「でも実際出来ちゃいますし、そうとしか言いようがないですよ」


 苦笑いっぽく笑うトウヤ君は、自身の異常性をちゃんと理解しているのだろう。
 私も、普通に聞いてたら冗談だと流したかもしれないが、目の前で、それも自分を対象に使われたのだ。信じる信じないとかではなく、納得するしかない。


 そんな魔法をポンポンと簡単に使われるのはとても困るが、さっきのは敢えて使って見せたということだろうか。
 実力を見せている……そんな意図が見える気がする。


 ここで私に実力を見せておいた方が、後々私に対するお願いもしやすくなるだからだろうか。だが、そういう意図があるなら、私としても頂けない。


 「ふぅ………よし」
 「ん?」


 私は言葉と共に気合を入れた。


 「どうせだから、ここで君の実力を見れるだけてみておこうと思ってね。それに、まだ時間の45分は経ってないから」
 「別にギブアップするとは思ってませんが……いいですよ」


 だらんと腕を垂らして、氷の剣の切っ先が地面に触れる。隙だらけに見えて、全く隙が無い。


 さぁ、これで後戻りはできなくなった。ここまで言ったら私のプライドとしても、途中でギブアップを告げるわけには行かない。
 勝機はない。でも負けはしない。ようは、時間切れの引き分けを狙うのだ。
 恐らくその過程で、トウヤ君の実力も幾らかは見れるはず。ならここで彼の強さを出来るだけ理解しておこうじゃないか。
 もし彼が頭の中で『ここまで実力を見せる』というものを決めているのなら、それを覆して見せよう。
 何でもかんでも思い通りというのも癪だ。


 「私だってまだ全力を出したわけじゃないんだよ……今から本気出すから」
 「安心してくださいよ。俺もそれがギルドマスターの本気だなんて、まだ思ってないです」


 言外に『どこまでやれるか見せてもらう』と言われているような気がして少々腹立たしいだが、今の立場は私がトウヤ君の胸を借りている構図なのだ。
 ならばこそ、彼に私の本気を見せてやろうと思う。


 「仕切り直しと行くよ。『大雷轟雨ギガボルト・レイン』ッッッ!!」


 杖に溜め込んだ魔力を使い、多少なりとも牽制になるはずのこの魔法を使用する。
 奇しくも雷鳴の音が、試合再開の合図となった。





「俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く