俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第34話 訓練〜陽乃編〜





 野村君との訓練を終えれば、さぁ待ってましたと次に陽乃ちゃんが並ぶ。どうやら順番を決めた様子。雫ちゃんと御門ちゃんは各自で訓練、飛鳥ちゃんはじっとしていて、恐らくさっきの訓練の続きをしているのだと思う。


 え?野村君との訓練が早いって?いや、男の訓練なんかつまらんしな。パパパッと終わりにした。
 やったことと言えば、格闘戦の相手をしてあげたのと、敢えて野村君にボクシングのルール違反となるような行動をさせたことか。 


 最初は渋ってたけど、『そのプライドが、仲間を窮地に晒すことになるかもしれないよ?』というような、ありきたりな事を伝えたら、ようやくやってくれた。
 この言い方って結構ずるいけど、割と効果的。少なくとも善良な子なら普通に納得してくれるからね。


 ま、なんでそんなにルールに縛られてたのかは結局分からないままだが。割と深い理由があるのか、単なるプライドか……現実的に考えるなら後者だけど。


 「陽乃さんは何がやりたい?」
 「もちろんバトルです!」


 血気盛んというか、元気だね。


 ぴょんぴょん跳ねそうな勢いで頷く陽乃ちゃん。個人的には『ちっちゃくないよ!』って言ってそうなイメージ。


 とはいえ、小柄ではあっても特筆するほど小さいかと言われれば別にそうでもないが。あくまでイメージの話です。


 にしてもバトルとは、また何ともね……言い方が少しオタクっぽいと思うのは俺だけか。何となく英語にするとゲームっぽい印象がある。
 そう言えば雫ちゃんが、アローレインを「陽乃に教えてもらった」云々という話をしていた気が。実は隠れオタクというか、そういうのが好きだったりしてな。
 アローレインなんて名前、明らかにマンガやアニメやゲームに出てくる技名っぽいし。


 「バトルね……良いけど、なにかルールを決めた方がいいんじゃない?」
 「えっと……じゃあ、最初は槍だけでお願いします! 私も槍だけで行くので!」
 「槍の練習?」
 「はい!」


 なるほどね。まぁ良いんじゃないかな。
 俺は『無限収納インベントリ』から槍を取り出して、問題ないことを告げる。
 ちなみにこの槍、グレイさんのとこから借りパクしてきたものではなく、前に宝箱から手に入れた、迷宮産である。
 まぁ特殊効果がついているわけなのだが。ちなみに名前は無いからただの『槍』だ。


 「わぁ、カッコイイですね!」
 「迷宮から手に入れた槍なんだ。触れると腐食する特殊効果があるよ」
 「ふ、腐食?」
 「武器なら劣化して朽ち果てる。そして生物の肌ならポロポロと剥がれるよ。まぁ、流石にそんなことはしないけど」
 「わ、わぁ、素敵な能力ですねー」


 キラキラした目から一転、引き攣り気味の笑顔に変わるのは仕方ないかもだけど、棒読み気味にならなくてもいいと思うんだ。


 ま、今言った通りこの槍の特殊効果は『腐食付与』。魔力を通すことで、武器に触れたものを腐食させる効果がある。
 効果範囲は穂の部分で、対象なんかはある程度決められる。流石に陽乃ちゃんの肌がポロポロと落ちるのを見るのは嫌なので、陽乃ちゃんの槍のみに適用させてもらおう。


 「でも、あまり打ち合うと槍がそのうち壊れるだろうから、気をつけた方がいいよ。多分陽乃さんの槍じゃこの効果は防げないから」
 「そ、それってどうすれば……」
 「受けないようにするしかないね。言うなれば、防御ではなく回避のみに専念する訓練かな。そのうち、武器じゃ受けられない攻撃をしてくる敵と会うかもしないから」


 そう。別に嫌がらせでこの槍を使用しているわけじゃなくて、ちゃんとこのように理由がある。
 武器を合わせて戦うのは普通というか、基本だ。しかし、それは前提として、"自身の武器が相手の攻撃に耐えられる"ことが必要だ。
 何度か打ち合わせているうちに、片方の武器にヒビが入る。そうなった場合、言うまでもなくそのうち砕け散るだろう。
 武器が無くなれば、攻撃手段が一つ無くなったということ。それは結構な痛手であることに変わりはない。


 耐久度の問題なら、最悪全ての衝撃を受け流すという荒業で行けないこともないが、俺の持つ槍のように武器をあわせたらアウトだったりする時は、受け流すなどの話ではなく、武器を合わせない戦い方をしなければならない。


 だからこそ、武器を合わせず、常に回避を主体においた戦い方が必要になってくる。状況は限定的だが、覚えておいた方がいいのは確かだ。
 今やる必要があるかどうかはこの際気にしないでおこう。


 「流石に槍だけだと厳しいかもしれないから、一応魔法もオーケーにしておこうか。どうしても避けきれない時は魔法使って」
 「は、はい。分かりました」


 俺の槍の効果をしったからか、顔がこわばっている陽乃ちゃん。緊張していることは聞くまでもなくわかるが、戦闘での緊張は行き過ぎると危険なものだ。


 しかし、それは教えてもどうしようもない、むしろ意識して更に緊張する可能性もあるので、敢えて言わないでおく。それに、陽乃ちゃんなら戦闘をしているうちに忘れる可能性もある。


 「先手は譲るよ。これはもういつも通りだから」
 「はい………ッ!」


 一息吐いてから、一拍ずらしての距離詰め。
 明らかに前よりも速度が上がっていて、しかし俺はその勢いで突き出される槍をサイドステップで避ける。


 お返しに手に持った槍を叩きつけるように地面へと振り下ろす。


 交錯は一瞬。即座に後退した陽乃ちゃんは、今の攻撃で乱れた息を整えるために深呼吸をしている。
 一方で俺は、槍をクルクルと回して余裕のアピール。実際余裕なのだが、多少の挑発を狙ってのことだ。


 そうしていると、息を整えた陽乃ちゃんが再び走り出す。その速度は先程よりも更に早い。
 今度は俺から攻撃をさせてもらおうと、着地地点を予想してその場所に槍で攻撃。


 「あっ」
 「スキあり!」


 しかし、どうやらそれは俺の攻撃を誘発させたらしい。
 槍にあたる直前で軌道を変えた陽乃ちゃんは、槍をくぐり抜けて俺の懐へと入る。


 「ハァ!!」


 捻りを加えて放たれる渾身の突きは、まぁ当たったら痛そうだなと思いつつ、俺は引き戻す際に槍の柄、石突とかなんとかの部分で陽乃ちゃんの後頭部を狙う。
 しかし、それは更に屈まれることによって簡単に避けられてしまう。はっきり言って、回避率高いよ。
 その代わり、陽乃ちゃんの槍の軌道が若干下に逸れるも、避けにくいことに変わりはない。小柄であることの利点と言えるだろうか。


 取り敢えず陽乃ちゃんに向けていた石突をそのままさらに引き戻して、陽乃ちゃんの槍と衝突させる。


 「わわっ!?」
 「っと」


 陽乃ちゃんが思わぬ衝撃に体勢を崩したところですぐにジャンプして後退。正直陽乃ちゃんの槍が近距離向けの短槍なのに比べ、こっちは中距離向けの長槍だ。懐に入られたら不利なのはこっちだ。
 別に凌ぐことも可能だろうが、わざわざ不利な状況でやる意味は無い。


 俺が距離を離すと、陽乃ちゃんは即座に体勢を整えてまた詰めてくる。
 距離を取れば俺の方が有利。陽乃ちゃんとしては距離を詰めて肉薄したいところだけど、分かっているのなら防ぐのも簡単。


 「三突きっと」


 槍を3回高速で突く。首、胸、腰と避けづらいところを狙っていく。
 手加減はしているけど、割と本気だ。少なくとも戦い方は。スキルもほとんど封印してて、パラメータも恐らく俺の方が今は低いと思う。


 うーん、このよく分からない強さ。絶対技術以外にも要因あるよね、と思うが、俺はすぐに意識を戦闘に戻す。


 陽乃ちゃんは最初槍で受けようとして、すぐにサイドステップに切り替える。正解だけど、その一瞬の迷いが命取りだ。


 サイドステップした先に俺が入り込む。自ら肉薄し、陽乃ちゃんの動揺を誘うのだ。


 「っ!?」
 「なーんてね」


 移動先に割り込んできた俺に対して、陽乃ちゃんは慌てて槍を振るうが、既にそこに俺はいない。
 自ら近距離に移動しておいて、何もしない。まぁ、そっちの方が不利なのはわかってるしな。
 でも咄嗟のことに対応せざるを得ない。その結果悪手と分かっていながらも、槍を振るって距離を取らせてしまうのだ。


 そして槍を振った直後の硬直は、突きよりも大きいことは明白である。


 「五連突き」


 距離をとった後に再度、今度は先程よりも数は多くて、一撃も速い。
 右腕、左脚、右脚、左腕、そしてフェイントで頭を突く動作をして、横薙ぎ。
 敢えて対角の場所を攻撃することで、避けにくくする。所詮戦闘の素人の考えだが、恐らく間違ってはいないはず。
 勿論その分槍を動かす速度も速くしなければならないが、武器は長年使ってきたかのように手に馴染んでいるから、その程度は造作もないのだ。


 「ッ!!」


 それでも流石は陽乃ちゃんと言うべきか、両腕両脚の攻撃は紙一重で避ける。しかし、フェイントのところで反応してしまい、次の横薙ぎの攻撃は武器で受けてしまう。


 「うっ……」
 「ほら怯まない。敵は待ってくれないよ。それとも止める?」


 正面から防いだために、俺の一撃をもろに受けた陽乃ちゃんは地面を転がっていく。陽乃ちゃんの槍には少し色が変色している部分が見え、そこがポロポロと欠け落ちる。
 そんな陽乃ちゃんに俺は槍を向けて喋る。ここに来てどうやらスパルタになってるらしいなと思うが、止めない。
 ───女の子にこんな仕打ちをしているのはあくまで訓練だからで、欠如系スキルは発動してないはずだ。


 「つ、続けます!」
 「よし来た」


 意思確認と同時に、俺は槍を動かす。先程までよりも更に更に、どんどん俺は容赦を無くしていく。
 それでもまだ本気など欠片も出していない。あくまでさっきよりは、というだけだ。


 俺の攻撃を立ち上がって避けると、陽乃ちゃんは自分のやりに目を落とす。どうやら欠けた部分を見ているらしく、解れかけていた顔が強ばる。


 「よそ見厳禁」
 「いッ!?」


 少し踏み込んで、薙ぎと突きの混合技を喰らわせる。自分の武器が壊れれば目をやりたくなるのは分かるけど、戦闘中は危険な行為である。
 穂先が陽乃ちゃんの頬を掠める。赤い線が刻まれるが、お構い無しに連撃を続ける。


 実戦じゃ相手は待ってくれない。それはまぁ俺が一番わかっている。何より痛みに怯むのは隙が大きすぎる。
 訓練じゃ一撃喰らえばその時点で終わりの可能性が高い。そもそも、実力が拮抗していれば有効打を入れることも厳しいだろう。
 それはさっきのバトルロイヤルを見ていてもわかった。つまり、痛みに慣れていないのだ。多分勇者全般に言えることだが、適正レベルの敵とばかり戦っていれば、有効打をもらうことはなく、細かい傷ならおそらくパラメータの差で痛みをあまり感じないはずだ。


 その点、俺はパラメータこそ現在は低いが、技術で陽乃ちゃんを圧倒している。そして、有効打を入れることも容易なことだ。
 その攻撃に耐えられないと、どこかで死ぬ可能性は常についてまわるだろう。少なくとも数十%は底上げされているはずだ。


 今は、それを克服するための訓練とも言える。


 陽乃ちゃんの身体に傷をつけていき、しかし陽乃ちゃんは回避に専念している。
 武器を極力当てないように、それでいて、段々とこちらの攻撃に慣れるように、必死に記憶している。


 流石にここで攻撃パターンを変える、というのはしない。それはまた別の機会だ。既に『武器で防御しない』『痛みに慣れる』という課題を課しているので、それに新たに加えるのは酷というものだろう。


 更にいえば、今回の訓練は少し長引かせるつもりだ。陽乃ちゃんのスタミナ配分にも目をやりつつ、限界まで試す。
 スパルタであるのは、心配から来ているものだ。これをクリアすれば、生存率は大幅に上がる。


 ま、それは全員に言えることだから、陽乃ちゃんだけにやらせるつもりじゃないけどね。


 再び槍を構え、手数を多くする。


 陽乃ちゃんから嫌われる可能性が出てきたなぁと思いつつ、それでも攻撃の手はやめなかった

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