俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第29話 無敵のグラ





 「おはよう門真君と……その他?」
 「いや、普通に『みんなおはよう』で良いですよ。一人ずつ名前呼ぶのが面倒臭いからって、その他でまとめないで下さい」
 「これは申し訳ない。非礼を許して欲しい勇者殿」
 「……トウヤさん、やけにノリノリだね」
 「昨日の疲れが抜けてないだけだろ」


 黒澤君、失礼だな君は。疲れて可笑しくなってるとでもいいたげだな。
 ……否定はできないんだけどね。さっきの訓練所での一幕が、割と疲れる要因になってる気はする。


 現在は少し時間が経ち、再度少しの間だけ訓練所を貸切にさせてもらっている。もちろん名目は勇者の鍛錬というものだ。手の内を晒したくないという内情を、周りも理解してくれるはず
 何より勇者という国の代表だ。そのぐらいの待遇は、2日目も続いていいだろう。


 「門真君みんなには話してくれたかな?」
 「えぇはい。ただ使い魔って……」
 「こちらのグラがその使い魔だよ。ほら、挨拶」
 『プルプル!』


 門真君達が来て、やはり疑問に思っているようだなと頷く
 俺はグラを呼び出し、挨拶をするように促すと、グラは体の上半分を器用にお辞儀をするように曲げて見せた
 グニャりと曲がる体、しかし愛嬌のある動きをするグラは、やはり礼儀正しく、可愛い性格をしているなと思う


 「やだ何この子!可愛い!」
 「え?これがか?」
 「何よ幹。まさかこの子が可愛くないっていうの?」
 「紫希、お前もか……」


 どうやら夜菜ちゃんと御門ちゃんはグラを気に入ってくれたらしい。門真君は呆れたような顔をしているが、グラ可愛くないの?


 「すんごい可愛い!キモカワ系だね、雫ちゃん!」
 「そう?」
 「そうだよ!」


 陽乃ちゃんはキモカワ系という捉え方をしたか。人それぞれだが、またそれも一つの認識だ。何も間違ってはいない。
 俺は普通に可愛いと思うけどね!勿論陽乃ちゃんも可愛いよ。
 雫ちゃんは変わらない表情で首を傾げるだけだ。ルリとは違う無表情キャラだよね。
 あ、違う。ルリは無表情じゃなくて無口っ子だ。雫ちゃんは喋るけど無表情なんだ。対照的だよね。
 結局可愛いと思ってるんだがどうなんだか。


 「僕は別にそうでもないかな」
 「夜兎に同じく。まぁ別に嫌いじゃないけどさ」
 「私は可愛いと思うのになぁ。学君は?」
 「……別に、どっちでもねぇよ。それより寛二はどうなんだよ」
 「俺?キモカワ系というかさ……キモイ?」


 ふむふむ。男には余りということなのか。飛鳥ちゃんは可愛いと思ってるみたいだし、グラは女子ウケが高いのかね。
 天貝君なんかは割と好きそうかと思ったんだが、そうでもないのか。京極君はドライな性格っぽいから無いとは思っていたんだが。


 そして黒澤君、見えたよ。君、実はグラを可愛いと思っただろ!その話をする時の少しの間、目の逸らし方、それを見れば一目瞭然だな!
 多分今、絶対にどうでもいいことに洞察力を使ってる。
 そして野村君よ、キモカワ系から可愛い取っちゃダメだろ!ただの悪口じゃねぇか!


 「ま、まぁ各々グラに抱く感想はあると思うけど、一番はやっぱり実力を知りたいはずだ」
 「そりゃまぁ。もしかして見せてくれるんですか?」
 「まぁ多分戦った方が早いかな?俺と戦うみたいな感じがいいと思うよ。門真君やってみる?」
 「え?俺は遠慮して……はぁ。分かりました。代表してやりますよ」


 俺が聞くと、門真君は一瞬断る素振りを見せたが、後ろを振り返って仲間の顔を見れば、全員『どうぞどうぞ』という顔をしており、結局引き受けることにしたようだ。
 チームのリーダーも大変だなと、他人事のように考える。俺もあいつらと一緒にいる時に、そんなことやった経験あるわ。
 勿論一番多かったのは拓磨のはずだが。






 ───そう言えば、今頃あいつらは何をやってるのだろうか。冒険者の道に行ったのか、迷宮は無いと思うから、学校の方を選んだのか……
 四人合わさればバランスはいいし、勇者というのもあってそんじょそこらの相手に遅れをとるとは思わないが、少し心配だな。五人で居る時、俺が何かやっていた認識はないが、1人減っただけで何が起こるかわからない。5人なら対応できる事態も、4人ではできない可能性も……




 (っ!?)




 それを考えた途端、俺は思考がおかしくなるのを自覚した。
 脳内が赤く塗りつぶされ、一切の思考を許さないとばかりに締め付けるのが、理解できる。理解出来るのに、俺はそれをどうすることも出来ない
 ただ許されるのは、友人が危険に脅かされた場合の対処だけ。穏便な方法などない。そこにあるのは、危険と判断された要因の、残酷なまでの物理的な排除。
 ユニークスキルの[道徳観欠如]と[倫理観欠如]が発動する。自覚できるということは、少なくとも自制ができるはずなのに……何故か俺は、今すぐに危険を排除すべく、危険な思考を巡らせている
 危険とはなんだ?過程の話じゃなかったのか?何故か俺は、樹や叶恵達が血を流して倒れている光景を脳裏に映していた


 ───これはなんだ?何が起こっている?
 いや、そもそも、俺は今何をしている?何故黙って樹達がやられるのを見ていた?樹達を傷つけたのは誰だ?
 俺は───何で樹達に剣を向けている?
 何で、いや違う!樹達を傷つけたのは、他の誰でもない───
















 「───トウヤさん?」
 「……いや、何でもないよ。俺は外から見てるから、いつでもやっていいよ。グラも良いよな?」
 『プル!』


 門真君の声に、意識を現実に引き戻す。どうやら少し思考がトリップしていたようだ。
 割と前から目立っていた、俺の思考への没頭。それの深刻性を、俺は意識して無理やり隅に押しやる。
 何を考えていたのか、それの記憶・・・・・すら無くなるとなると、割とやばいのかもしれないな


 「取り敢えず門真君はグラを攻撃すればいいから。多分それで理解できると思う……というか、今の発言で、割とグラの特徴を理解したんじゃないかな」
 「えぇそれなりには。じゃあ行かせてもらいますよっ!」


 やはり門真君は全くの躊躇いがないなと思いつつ、戦闘を観察する
 グラには防御の命令をしてある。とはいえ、グラは別に何もしなくとも問題ないとは思われるが


 「シッ!!」


 声が漏れるほどの勢いで、門真君は動く。そして近づいてからの剣で一閃。
 恐らくは小手調べという所だろう。俺の使い魔がただの魔物であるはずはないが、実力は測ると言ったところか


 しかし、そんな門真君の一撃は、ぶにょんと柔らかい体に弾かれてしまう


 「っ!?なんだこの感触!」
 「不思議な感触だよなぁ」


 思わず呟いた門真君に、俺も同意する。グラはとても不思議な感触で、ゼリーと言うには固く、ゴムと言うには柔らかい。スベスベではなく、ベチョベチョでもなく、そんな不思議な感触なのだ


 そして、[物理攻撃無効]を持っているグラに物理攻撃はもちろん効かない。これがよくわからないが、取り敢えず物理攻撃でダメージが入らないと思えばいいのだろう
 実は門真君の持っている存在感の半端ない剣は普通にダメージ与えられるんじゃ? と不安になっていたのだが、そんなことは無かった。流石グラ


 『プル』
 「『炎柱ファイアバーン』!」


 すかさず後退、からの魔法。まぁ門真君の動きなら当たり前かな


 発動した魔法は、やはりとても威力の高いものだった。炎の柱がグラの足元から出現し、ゴウッ!!という音を立てて周囲に熱を振りまく


 「これは喰らわないのか……」


 そんな中で全く微動だにしないグラ。それを見た門真君は、どうやら何かを理解した様子。
 当ててやろう。君、全属性試そうとしてるだろう?


 「『零度拡散フリーズボム』!」


 『炎柱ファイアバーン』が収まるや否や、手の中に出来た冷気の玉を、アクロバティックに後退しながらグラに投げる。ヒットアンドアウェイという言葉が似合う動きだ。


 冷気の玉がグラに触れた途端、今度は氷山が出現するのはご愛嬌。中に囚われるグラだが、次の瞬間には魔法の効力が切れて氷山が砕け散る
 出てくるのは、見た目無傷のグラ。別に魔法無効化のスキルを持っている訳では無いので、恐らくノーダメージという訳では無いだろうが、微々たる量だろう


 「『ストームツイスター』」


 お、珍しいね。風魔法か。
 風魔法はあまり使わないからな。……いや、『消音領域サイレントフィールド』と『消音サイレント』は使ってるか。


 突如として発生する竜巻。それは暴風を振りまきながら、グラを捉えてズタズタに切り裂こうとする。
 竜巻の内側で鳴り響くのは雷か。規模自体は地球のと比べたら小さいのに、さすがは魔法。雷と両立してるよ。
 とはいえ、グラでなくともスライムにはその手の攻撃は通りにくいぞ、門真君


 「『ロックハンド』!」


 もはやグラの傷具合を確かめることもなく、門真君は次の魔法へと移行した
 門真君が握りこぶしを作って、ボクシングのアッパーのような動作をする
 それに合わせて地面が鳴動し、その次の瞬間には、訓練所の地面の土が大きな手を形作り、グラをしたから突き上げるようにドカンと飛び出た


 ……衝撃も完全吸収なんだよなぁ。
 10数メートル打ち上げられたグラは、そのまま微動だにしないまま落ちてくると、謎の力によって飛び散ることなくスタッと地面に降り立った


 「……えぇい!『ライトシャワー』!」


 門真君がそろそろヤケになってきたようだ。なんか掛け声をすると、次には魔法。


 グラの頭上に光の輪が出現し、門真君が腕を振り下ろすと同時にその光の輪から沢山のレーザーみたいなものが降ってくる。
 一本一本は確かに細いが、それが数百本、高速に射出され続けている。
 ヒュンヒュンと音が鳴る中で、グラがどうなっているかは見えない。ただ、魔力の感知からしては弱っている気配は全くない。


 「『闇への誘いイン・トゥ・ダーク』!」


 と思いきや、追い打ちをかけるつもりらしい門真君が、『ライトシャワー』を維持した状態で更に魔法を発動した。
 見にくいが、グラの周囲の地面が黒く染まり、まるで闇色の沼のようになる。
 それはどうやらグラを飲み込もうとしているらしく、傍から見たら何か異形の怪物の口のようにも見える


 「『引きずり込めフォールダウン』!」


 合図と同時、その闇から数多の手が這い出てくる。それは全てグラへと絡みつくと、必死に闇の沼へと引きずり込もうとしている。
 ───が、グラには効果無しと


 「───っ、はぁ、はぁ」


 数十秒たった辺りで門真君が息をあげる。どうやら上級に相当する魔法を二つも維持するのは疲れたようで。
 魔法が状態を維持できなくなり、一気に崩れ去る。沼もきれいさっぱり消えていき、そこに残るのは───なんの変化もないグラであった


 『プルプル!』
 「はいはい、お前はよくやったよ」


 勝負が終わったことを悟ったグラは、早速とばかりに俺の方へと高速で移動してきて、まるで褒めて褒めてと言っているように体を震わせてきた。
 取り敢えず求めているであろう言葉を言って労うと、グラは満足そうに再度体を揺らす。


 「とまぁこんな感じで、グラは防御向きなわけだけど……門真君、何かある?」
 「はぁ、はぁ、その、スライムは、ホントに一体……」
 「さ、流石はトウヤさんの使い魔と言ったところか……」
 「私たち全員が束になってかかっても、ダメージ一つ与えられなさそうね……」
 「これ、トウヤさん達で魔王倒せるんじゃないの?」
 「同感」


 どうやら皆それそれ言いたいことがあるようで。というか陽乃ちゃん、軽率な発言は控えるべきだよ。
 そんな事言ったら、俺の正体に勘づく奴がいるかも知らないんだからさ。


 「ま、君たちの護衛にこれほど適任なのはいないでしょ。これで大きさも自由に変更できるからね」
 「……実はトウヤさんの分身ですか?なんでもできる感じっぽいんですが」
 「御門さん面白いこと言うね。言い得て妙だよ」
 「いや、否定して欲しかったんですが……」


 実際グラは万能だと思うけどね。〔暴食〕さんと[物理攻撃無効]とかの耐性系は本当に強いしね。
 これでスキルの取得速度や成長速度も速かったらビックリだったが、そこまではチートじゃなかった模様。多少早い程度だ。


 「さて、じゃあ俺の使い魔のお披露目も済んだところで、今日も迷宮に潜ってもらおうかな」
 「えぇ、はい。……はぁ、こんな疲れるんならやっぱり遠慮しておけばよかったな」
 「お疲れと言っておくよ、門真君。頑張ってね」
 「……分かりましたよ」


 残念だけど、『巻き戻しタイムバック』は使わないよ。門真君には疲労した状態で行ってもらった方がいいしね。
 常に万全の状態で戦闘に挑める訳では無いのだ。余計なお世話かもしれないけど、ちょっと経験はしておいてもらいたいよね。


 っと、そう言えば忘れるところだった


 「あ、迷宮に行く前に、受付で依頼を受けていくといいよ。その中でもプラチナブロンドの髪の受付嬢さんが、俺と交流のある受付嬢さんでもあるから、おすすめの依頼を聞くといいよ」
 「あ、はい。分かりました」


 依頼を受けさせることを危うく忘れそうになったので、付けたし。受付嬢さんの髪の色、プラチナブロンドっていうかはしらんが、確かそんな感じだと思う。
 他に髪の色が同じ受付嬢さんはいなかったから大丈夫だろう。ちなみにグラは、門真君の背中に張り付いていた。そのうち気にならなくなるから、安心してね。


 さて、と。俺は俺でやる事をやりますかね。


 「さぁ、こっちはこっちで鍛錬を始めようか」


 結局何をやるかはあまり決まっていないが、即興でいいと思う。
 俺の一言に、何故か引き攣った笑みを浮かべた御門ちゃんであった。



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