俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

その頃の友人達(三人称)







 「本当に、なったなっと」
 「あぁ、そうだな───っぶない」


 訓練の時間中、拓磨と樹は模擬戦をしながら話をしていた。


 拓磨の剣が樹の頬を掠め。
 樹の槍が拓磨の剣を絡めとる。


 今や拓磨と樹の実力は、拮抗していた。


 そんなことをしながら話していた内容は、今朝珍しく全員揃った食堂での事だ。


 「冒険者となるかっ、迷宮に行くか───フッ! 学校に行くかか」
 「それっ! 刀哉に聞いてたより選択肢が多いが……っ樹はどうする?」
 「俺というより、4人で行動した方がっ!! ふぅ、いいと思うけどな」


 拓磨の剣を下から槍の柄で弾いた樹が、一息吐いてそう言った。
 特に合図もなく、2人はそこで武器を下げて、模擬戦を一旦終了した。


 「一番安全なのは?」
 「言うまでもなく学校だろうよ。とは言えここの世界で学校があるのは、南の【アールレイン王国】か北の【マグノギアン】だ。どっちに行くのかは知らんが、前者は戦闘を、後者は魔法専門みたいな感じだな」
 「少なくとも、地球のように平和とは言い難いか」
 「恐らく」


 今朝の朝食では、ここに属しているメイドから今後の活動について話されていた。


 冒険者となって依頼をこなすか。
 迷宮へ行き戦力を高めるか。
 学校へ通い教養を学ぶか。


 どれも現在の勇者達にはキツイ内容であった。


 「大体この現状で言うのが間違っている。俺達は知っているが、他の奴らは全員が刀哉は死んだと思っている。いまだって、見てみろ」


 拓磨が周りを見渡す。現在は近接戦闘の訓練だが、参加しているのは、120人いる内の、拓磨達4人を含めて三十数名。更にその中でちゃんと訓練ができているのは、10人ほどだ。残りは上の空のようにも見える。
 指導者であるグレイは、何も言わない。いや、一度拓磨達に話しかけはしたものの、その後は見守っているだけだ。


 それは職務怠慢ではなく、むしろこちらの気持ちを汲み取ってくれてのことであると、拓磨達は理解していた。


 「正直、とてもじゃないがこの安全圏から出られる状況じゃない」
 「しかも、必ず選ばないといけないときた」


 この状態で死の危険性がある外に出れば、限りなく高い可能性で、いつかは死者が出る。
 現時点では、選択肢は3つで、拒否はできない。


 「どうする? 俺達が刀哉のことを言うか? 信じてくれないにしても、多少は効果が───」
 「いや、それはだめだ。刀哉が言わなかったのは、恐らく自身の生存が王族にバレるのを嫌ってだと思う。刀哉が最初から最後まで疑っていた王族だが、ハッキリ言って怪しすぎる」
 「……俺にはサッパリだがな」


 樹の話は、拓磨にとっては首を傾げる内容だった。拓磨は別に王族から何をされたわけでもないし、なにか怪しい場面を見たわけでもない。


 一方で樹は、刀哉経由ではあるが、魔物が住む近くの物置に住まわされていること、1人だけ対応が違うことを知っているからこそそう言える。


 「まぁ、現状でこんなことを言い渡す以上、少なくとも俺らの体調を気にしている様子はない。普通なら見送るなり対応をするなりするはずだ」
 「それはな。その点に関しては俺も憤りを感じている」
 「俺たちに何をさせたいのかは知らんが、俺たちを軽く見ているのは明らかだ。まるでゲームの駒のようにな」


 いつ死んでも構わない。無くなるもよし、手元にあるもよし。強くなるのもよしで、弱いままもよし。
 つまり、自分たちは王族にとってその程度の価値なのではないかと樹は考えていた。魔王討伐もはなから真面目に考えておらず、精々が倒せたら上々と言ったような。


 拓磨も、その考えは理解出来た。現状そう思うだけの状況ではあるし、ケアの一つもないので仕方の無いことだ。


 「一層グレイ先生やマリー先生に相談してみるのはどうだ?」


 そこで拓磨は、名案とばかりに樹に告げてみた。2人は戦力的にも強いのは明らかであるし、人間的にも信頼できる人だ。
 しかし、樹はそれに対し、難しい顔で首を横に振った。


 「確かにそれも一つの手だろう。だが、2人が属しているのはこの国であり、俺たちじゃない。要は、見聞きしたことを報告する義務があるんだ。それに、もしそれで2人の立場が悪くなったりしたらどうする」
 「そ、それは……確かに、迷惑を掛けてしまうことになるかもしれないが……」


 そう言われてしまえば、拓磨も口を閉じるしかなかった。拓磨とて、2人を無闇に巻き込みたいわけではない。自分たちの都合で2人にリスクを負わせるのは、確かに最終手段でしかない。


 「今は取り敢えず、他の奴らのケアをしつつ、実力をつけて、学校へと向かうことが一番だな」
 「やっぱりそれが最善手か……」


 2人は、それ以上の案を出すことが出来なかった。




 ◆◇◆




 その頃、残りの2人である叶恵と美咲も、何もしていないわけではなかった。


 「キャッ!?」
 「か、叶恵!? 大丈夫!」


 パシン! と剣が飛んでいき、叶恵が悲鳴をあげた。
 それをした張本人である美咲が咄嗟に駆け寄り、心配そうに叶恵の手を見る。


 「う、うん、ごめん。驚いただけ。ほら、痛くないから」


 そう言って弾かれた手をヒラヒラと揺らしてみせる。それは強がりではなく本心からだったか、美咲はそれでも心配そうな顔をしていた。


 「叶恵、無理しなくていいのよ? わざわざ剣の練習なんかしなくても、叶恵には魔法があるんだから」


 そう諭すように言うのも、単にここの所の叶恵の様子を心配してのことである。


 この数日、叶恵は近接戦闘の訓練時間は剣を持って美咲と模擬戦をしていた。
 無論、美咲とて最初は渋ったものの、叶恵のその真剣な顔に根負けし、引き受けてしまった。


 叶恵の戦闘技術は、お世辞にも良いとは言えない。寧ろ悪い、いや、激悪だろう。
 元々運動は得意ではなかったのだから、運動神経や動体視力、反射神経が問われる近接戦闘では厳しいのだ。


 今回も、美咲の一太刀で叶恵の剣は手から飛んでいってしまった。無論それは狙ってのことでもあるが、やはり手の握りが弱い、振りが甘いと言った基本的な部分のことも出ている。


 そして、それは叶恵自身自覚があった。いや、だからこそと言えるだろうか。苦手を克服するためというような名目で、叶恵は練習をしていたのだ。


 そして今回も、叶恵は美咲の言葉に首を振った。そして、力強い目で美咲を見る。


 「私は足でまといになりたくないの。自分の身は自分で守れなきゃ、対等じゃない」
 「叶恵は足でまといなんかじゃ……」
 「ううん、足でまといだよ。例えばあの時、私が戦いながら回復ができたらどう?」


 それは、迷宮で罠にハマった時のことだった。
 あの時叶恵は、周りの勇者に守られながら、負傷者を回復していた。だが、その分どうしても叶恵に護衛を割かなければならず、格上相手の戦闘では人数が足りなくなることは、少なからず危険であると理解していた。
 そして、叶恵がもし戦えていたのなら、刀哉が逃げる時間も稼げたのかもしれない。


 結局刀哉は生きて帰ってきたが、やはりそれでも、一歩間違えれば死んでいたと思ってしまうのは仕方の無いことなのだ。
 その後悔と自分への怒りが、現在の叶恵の原動力だった。


 「でも、それは言っても仕方ないことでしょ? 実際叶恵は十分やってくれてたし、誰かと一緒にいれば……」
 「美咲ちゃん、本当に危ない時は、誰も待ってくれないんだよ?」
 「っ!?」


 その一言は、美咲に衝撃を与えた。
 叶恵は、しっかりと自分の意志があって、今も強くなろうと頑張っている。


 それはただがむしゃらにという意味ではなく、叶恵なりに信念を貫こうとしているのだろう。


 だからこそ、未だ何をしたらいいか分かっていない美咲は、その言葉に唖然とさせられた。


 普段抜けている友人叶恵が、こうも強気に頑張っていることに。
 普段はしっかりしている自分が、こうも情けいでいることに。


 そして、叶恵の成長のきっかけはやはり刀哉に由来するところで、自分はその時、ただ泣いていただけだったという事実が、何より心を痛ませる。


 「……叶恵、貴女やっぱり凄いわね」
 「え?」


 美咲がポツリとこぼした言葉は、叶恵には聞こえなかった。


 「ううん、何でもないわ。でもそうね、本当に危ない時は誰も待ってくれない。なら少しでも強くなろうと努力することはいいことだわ」
 「う、うん! やっぱりそうだよ───」
 「ただし! 無茶はしないこと。良いわね?」


 ピシャリと言い放った美咲の言葉に、ビクッとしながらも頷く叶恵。世話焼きの鬼が降臨したと理解したことだろう。


 慌てて飛んでいった剣を取りに行っている叶恵の後ろ姿を見て、美咲ははぁ、とため息を吐いた。


 「ダメね。叶恵があんなに頑張ってるのに、私は……」


 下唇を噛み締め、俯く。
 さっきの言葉は、美咲自身に向けて言ったことだと、自分でも分かっていたからこそ、どうしようもなく胸が締め付けられた。


 再度駆け寄ってくる叶恵を見て、美咲はため息を吐きそうになるのを堪えた。
 今は情けないところを見せる場面ではない。せめて、表面上だけでもしっかりとしていなければならない。


 そんな、どことない使命感に、突き動かされながら。









「俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く