俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

第2話 こう、ラストダンジョンに突然ワープさせられたような





 黒い影、といっても別に体の色が黒いわけではあるまい。単に位置的にそう見えているだけだ。態勢的には座っているらしい。
 敵がこちらを向いているのか、後ろを向いているのか、シルエットではなんとも判断しにくかったが、こちらを襲ってこないということは見つけていないということだろう。


 (鑑定)


 久々の鑑定。どうやら魔物は『ハイオーガ』と言うらしい。


 オーガキングの次はハイオーガか……この迷宮のボスがオーガ系統なのか?
 ゴブリン、オークと来てオーガか。何となく進化の過程というか、そういうのがありそうだが、せめて最初は普通のオーガを出して欲しかった。
 オーガキングと既に戦っていたため、今更感はあるのだが。


 取り敢えず先手必勝だ。魔力は帰りのために残しておきたいので、ここは接近戦と行こう。


 「ッ!!」


 一足でかける。オーガキングを倒したことでさらに上昇したステータスだが、事前に【敏捷】だけは通路を駆けて把握していたので、つまづくことは無い。
 一瞬で近づき、ハイオーガの首を狙った斬撃を与えようとしたが、それは寸前で回避されてしまう。
 流石はハイオーガ、まさか[気配遮断]を使用していても避けるとは……。


 敵も俺の存在に気がついたはずなので、一旦バックステップ、距離を取る。


 『GRUUUOO!!』


 なんとも形容しがたい雄叫びを上げたハイオーガだが、勿論そんなあからさまな隙を逃す俺じゃない。
 頭には届かないので狙うのは膝。股下を潜るように走り、通り過ぎる際に膝を切りつける。


 ガキン!!


 「チッ!」


 本当なら膝を破壊してオークと同じように倒そうと思ったのだが、どうやらこの剣では切れ味が悪すぎるらしい。硬い音を響かせて剣が弾かれる。


 そんな俺のことを雄叫びを終えたハイオーガの横殴りが襲う。間一髪でしゃがんで避けて、また距離を取る。


 「……これは魔法必須だな」


 どうやら近接戦闘は難しいらしい。何回も同じ場所を斬りつけるという手もあるが、それは時間がかかるしリスクも高い。普通に魔法で倒すとしよう。
 何十回も使うと魔力が足りなくなるが、数回程度なら問題ないはずだ。


 ……いや、待てよ? [魔力纏い]も良いかもしれない。敵に使ったことは無かったから、試すには丁度いいだろう。


 俺は剣に魔力を纏わせる。出来るだけ剣に這わせるように、薄く、鋭く。
 いつも練習していたおかげで、その動作はすぐに完了する。


 ハイオーガの突進を紙一重で避けて、試しにと膝へと攻撃を入れる。
 すると、ザシュッと気持ちいい音を立てて、見事にハイオーガの膝が切断される。骨あたりで止まるかと思ったが、普通に切断できてしまった。


 『GRAAAAA!?』


 バランスが取れず倒れたハイオーガが、雄叫びをあげる。それは膝を切断された痛みからか、地べたに這いつくばる屈辱からか。


 しかし俺は容赦なく背中に十字に傷を付ける。こちらもスルリと剣がハイオーガの体に入り込んだため、結構な重症だ


 『GAAAAAAA!!』
 「フフフ、痛いだろう? 苦しいだろう? 是非、もっと味わってくれ」


 ……俺は一体何をやっているんでしょう。
 何故かサディストになってしまったのはともかく、その後は普通に横一文字にハイオーガの身体を斬って、上半身と下半身を切り離し、倒す。
 魔力の残滓となって消えていくハイオーガ。それを見て、俺も結構強くなったなと。


 「いや、魔力纏いが強すぎるな」


 俺は剣に纏わせた魔力を身体に戻しながら呟く。まさかあんなに切れ味が変わるとは思わなかった。
 魔法とは違い消費も微々たるもの。エコで強いとは。




 ハイオーガを倒し、更に進む。道中変わらない景色に暇だったので、少し新魔法を作ってみることにした。


 「……出来たっと」


 作ると言っても、やるのはイメージとその魔法の効果の指定ぐらいだ。属性は時空で、ゲームでは基本的に使える便利機能を作ってみた


 「あー名前は……『無限収納インベントリ』だ」


 俺が剣に手をかざしながら魔法名を呟くと、剣がどこかへ消える。
 再度、今度は無詠唱で行うと、剣が手元へと戻ってくる。どうやら動作に不備はないようだ。


 『無限収納インベントリ』。その名の通り、アイテム等を無限に収納出来る(はずの)魔法だ。
 どこに保管しているのかは知らないが、まぁ取り出せたということは、そういうことだろう。


 本当は剣ではなく、他の、無くなってもいいもので最初は試したかったか、生憎そんなものは手持ちにない。


 それで、何故今のタイミングなのかと言うと、まぁ普通に暇だったからというのは勿論、魔物の死体を回収したいと思ったからだ。


 この世界には、基本二種類の迷宮がある。


 一つは中で倒した魔物や生物の死体が、魔力となって消えてしまう迷宮。
 もう一つは、倒しても死体がしばらく残っている迷宮。


 この迷宮は前者で、敵を倒すと魔力となって消えてしまうのだが、それは勿体ない。
 ちなみに魔力となって消えても、魔物の核、いわば心臓である『魔石』だけは落ちる。謎に配慮が行き届いているというか。


 まぁ、それを思い出した俺は、どうせなら死体まるごと欲しいと思い、『なら消える前にどこかに収納しちゃえばいいのでは?』と考え、『無限収納インベントリ』を作った次第だ。


 更に言えば、俺の異能アノマリーとやらの【吸収アブソープション】というもの。対象の肉体を取り込むことで、対象のスキルを一つラーニング出来るらしい。
 強奪チートの劣化版といったところか。まぁ強奪はそれそのものがチートに位置するから劣化版も何も無いのだが。
 とにかくそれも後で試してみたいので、食べるかどうかはともかく、試験的にハイオーガの肉体が欲しかったのだ。


 収納したものがどこに保管されているのかは知らないが、これで成功すればこれから先十分なアドバンテージを得ることが出来る。
 死体から素材を剥ぎとって売ることが出来れば、通常よりも稼げるのだ。


 「おっと、丁度いい」


 少しカーブした先に居たのはまたしてもハイオーガ。魔力を纏わせた剣を片手に、俺は先程よりも早い速度で近づく。


 『───!?』


 振り返ったハイオーガだったが、時既にお寿司というやつだ。
 俺の剣が驚きの表情をうかべるはいオーガの頭部を刈り取っていく。


 (『無限収納インベントリ』!)


 すかさずハイオーガの身体を『無限収納インベントリ』に回収、ついでに飛んでいった頭も遠隔操作で回収した。


 「……よし、後は時間が経過して取り出しても問題ないか、取り出した後も大丈夫なのか、だな」


 2分ほど待ってから、俺はハイオーガの頭部を取り出してみる。普段なら既に消えている時間だが、『無限収納インベントリ』内は時間が止まっているのか問題なく出すことが出来た。
 そして、取り出してから2分。こちらも普段なら消えているはずだが、消えることなくその場にあり続けている。


 同じように身体部分もやってみたが、こちらも問題は無かった。
 俺の『無限収納インベントリ』に収納すれば、その後は問題ないという結果だ。


 「っし、これで金策は問題ないな」


 まるでゲームのようなことを言っていると、行き止まりとなる。どうやらここは終了らしい。


 しかし、分岐点はここに来るだけでも十数個あった。全てが行き止まりとは思えないが、その分岐点の先にさらに道があることを考えると、全部を探索するのは……。


 「……だめだ。考えてはいけない」


 俺は無心になることを決意した。考えてしまえばそれだけで地獄なのだから。
 ちなみに帰るという選択肢はない。まだ1時間程度しか経っていないと思うので、上の連中は、良くて迷宮から出ているか、まだ途中だ。
 遭遇するのは困るし、なんなら俺の死が王族側に伝わった方がいい。それまではここで待機、となれば、探索を進めるのが無難だろう。




 ◇◆◇


 「これで八つ目……」


 俺は八つ目の分岐点の終着点へと付き、息を漏らす。
 思っていたよりも複雑な地形に、少々気が疲れたのだ。


 分岐点の先に分岐点、その先に分岐点があり、その一つ一つの道も長い。行き止まりとなって、一つ戻って違う方向に行くと、そこは行き止まりではなく新たな分岐点……。


 [完全記憶]と魔力での目印のおかげで、どこを通ってどこを通っていないのかがわかるが、もしそれらが無かったらと思うと……考えるだけでもため息がつく。


 そして、半ば悟りを開き始め、数時間をかけて40個目辺りの行き止まりへと着いた時だった。
 ようやく、ようやく違う景色が俺の目に飛び込んできた


 とは言っても、そこにあるのが行き止まりではなく、両開きの扉だったというだけなのだが。今の俺にはそれがまるでキラキラと輝いて見えていた。


 そう、例えるなら、とってもお腹が痛くて、崩落寸前状態で探し回って探し回ってどうにかトイレを見つけた時の安堵感のような、達成感のようなものが、今の俺にはあった。


 道順はすべて把握しているし、脳内イメージでここの地図も出来ている。[完全記憶]があるからこそ可能な芸当だ。


 ということは、別に入ってしまっても構わんのだろう? と俺は自身に問いかけた。もちろん帰ってくるのは『GOいけ』の一言。


 いざ未知の扉を、俺は開けた。


 「……なるほどね」


 扉の先に居たモノに、俺は思わず笑みをこぼしていた。それは引攣った笑みだったのかもしれない。いや、もしかしたら好戦的な、嗜虐的な笑みだったかもしれない。


 どちらにせよ、自身を見ることが出来ない今、笑っているということしかわからなかった。


 大聖堂を思わせる、光沢のある白い素材が使われた部屋。勿論窓なんかはなく、あるのは所々に立つ柱だけ。


 そしてその部屋の真ん中でオーガキングをも超えるほどの圧力プレッシャーを周囲に撒き散らすのは、オーガの中でも進化に進化を重ねた魔物、『鬼神』


 『GRUUUUAAAUU……』


 そのプレッシャーから来るとおり、とてもではないが、こちらに来てまだ1ヶ月しか経っていない奴が戦うような相手ではない。


 「ハハッ、いいぜ、やってやるよ」


 俺は空元気とも思える笑い声を出し、自身に活を入れる。ここまでハイオーガと何体か戦ったことで、レベルも多少は上がっている。ステータスの上昇量も今までの比ではない。


 ならやるしかない。それは、いざと言う時の保険があるからこその勇気だった。


 相手はただの魔物ではない。間違いなくダンジョンマスターとかダンジョンボスとかそういうのだ。
 通常の個体より強化されているのかは分からないが、弱いということは無いはずだ。


 警戒を一段階あげる。活を入れたが、そうでもしないと、奴から放たれるプレッシャーに押しつぶされそうだった。


 『GAAAAAAA!!』


 鬼神は雄叫びを上げたかと思うと、その瞬間視界から消えた。


 「ッ!?」


 その瞬間、俺は半ば反射的に、自身の[危険察知]スキルを信じて前に転がった。
 それと同時に、先程まで俺が居た場所に鬼神の腕が叩きつけられ、あたり1面を衝撃波が襲った。


 「クッソ!!」


 受け身もろくに取れないまま、衝撃波で俺は飛ばされる。このまま壁に当たりでもしたら、怪我は免れない。


 (くそっ! 『視認転移ショートジャンプ』)


 揺れる視界で、俺は魔法を行使する。
 視界内なら容易に転移が可能という、俺のオリジナル魔法だ。


 この魔法、というより転移系の魔法は、発動時に自身の座標の相対位置を固定した上で、転移場所の空間と自身ををまるごと入れ替えるものだ。
 そのため、転移時に慣性を消す副次効果が存在する。


 それを使用することで、俺は揺れていた視界のために天井の方に移動しつつも、追突を避けることに成功した。


 だが、いつの間にかあのデカイ鬼神が居なくなっている。


 『GRRRRRAAAA!!』
 「っぶね!?」


 隅の天井に張り付いていた鬼神が一瞬で距離を詰めてきたのを、無詠唱の『視認転移ショートジャンプ』で回避する。
 正直、通常の転移では回避が間に合わない。


 「くそっ、動きが全く見えん!」


 床、壁、天井を、その図体からは想像出来たいほどのアクロバティックな動きで移動する鬼神。
 そこから突然放たれる攻撃を、俺は[危険察知]と『視認転移ショートジャンプ』だけで回避していく。はっきり言ってジリ貧だ。


 まさかここまで強いとは……これならまだオーガキング10体とかの方が楽な気がする。


 奴に疲れはないのか! そう心の中で怒鳴り散らしてしまうほど、鬼神の動きは一切衰えない。


 電光と見紛うほどの速度の移動は、現在の俺の動体視力をもってしても、ギリ追えるか追えないか。
 [危険察知]スキルが無ければ、そろそろ一発被弾していただろう。


 なにか、なにか手はないのか?


 手に持った剣は[魔力纏い]のお陰でどうにか折れてはいない。だが、奴の動きが速すぎて攻撃を加えられていないのも事実。


 [重力魔法]も気休め程度にかけているのだが、動きが鈍くなった感じすらしない。抵抗レジストはされていないので、効いているはずなのだが、それが余計に俺を焦らせる。


 魔力もこのままでは尽きてしまう。俺の生命線はそこと言っても過言ではないので、もし魔力が切れたらその時点で人生終了、ゲームオーバーだ。


 既に何十回と繰り返された鬼神の攻撃を、半ば勘に頼って『視認転移ショートジャンプ』で回避していく。
 強者が弱者を弄ぶように、ずっと同じことを繰り返している鬼神に、俺はどうすることも出来ない。


 速すぎて攻撃が当たらない。なら、この部屋全体を対象とした魔法なら? いや、奴を倒せるほどの威力の魔法は現在使える手札には無い。


 半分程の柱が壊され見晴らしの良くなった部屋の中。ヒントを必死に探そうとしても、奴の動きを縫い止めるものが思い当たらない。


 「こ、今回はこのぐらいにしておいてるよ!」


 小物感を出すようなセリフを吐き、俺は諦めた。こいつは今の俺では厳しい〃〃〃
 『視認転移ショートジャンプ』で、攻撃される前に部屋の外に出る。最初からさっさと諦めて逃げていれば、無駄な魔力を使わなくて済んだのに……。


 念のため更に数回『視認転移ショートジャンプ』を使って逃げるが、奴があの部屋から出てくる気配はなかった。


    


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