俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです

イミティ

クリスマスパーティー 中編3





 「───あ、もうこんな時間か」
 「え? ホントだ。楽しい時の時間って過ぎるの速いねー」


 クリスマスツリーを完成させた後、買ったケーキを分割して食べ、話したりゲームをしたりと思い思いに楽しんでいたのだが。
 気づけば夕方4時と、結構な時間になっていた。


 「そう言えばケンタ〇キーとお寿司はどうするのかしら」
 「そうだな、買ってこなくちゃか」


 二つは後にしてたからな。暗くなる前に買ってこないといけない。
 そう思ったのだが、拓磨が待ったをかけた。


 「まて、それなら俺と樹で行ってこよう」
 「え? 俺も?」
 「寿司はお前のだろうが。それに、結局マ〇クは買ってきてもらったからな。飾り付けも全員でやったし、そろそろ俺たちだけで働いておかないと、後が怖いんでな」
 「あぁ、そういう事ね。なら行く」
 「別にいいが、場所はわかるか?」
 「問題無い。店には結構行くんだ」


 ということで、2人が行ってくることに。
 念のため困ったら連絡するように言っておき、黄昏色に染まる夕暮れの中、二人が行くのを見送った。


 「さて、その間に……飯の準備をやっとくか」


 台所へと移動。拓磨と樹が居なくなったことにより、現在は美咲と叶恵がゲームをやっている。すっかり美咲はゲームにハマってしまったというか。


 「そうだ。二人共風呂入るか? それとも後にするか? 今なら拓磨も樹も居ないし、楽に入れると思うが」


 4人は全員泊まりの予定なので、風呂もこちらだ。ただ、女子がいる以上少し難しいところで、男子が一番少ない今のうちに入るなら入れということだ。


 なお、俺は家主である以上、この家に居なければならないからな。決してやましい気持ちがあるわけじゃない。
 え? 買い出しの時は家を空けてたろって?


 カンのいいガキは嫌いだよ。


 「叶恵、どうする?」
 「え? 私は別にどっちでもいいよ」
 「そう? でも……ちょっとね」
 「あぁ、お湯とかが気になるなら、入った後また入れ直すし、それでも気になるんなら一旦掃除もしちゃうから大丈夫だぞ」
 「……そこまで言うなら、入らせてもらおうかしら。その、迷惑かけるわ」
 「あぁ。まぁ年頃の女子だし、気にすんな。というか、妹達から、女子については仕込まれてるからな」
 「……女子について〃〃〃〃〃〃?」
 「接し方の話だからな」
 「わ、分かってるわよ!」


 絶対変な想像をしたと思われる美咲に予め釘を刺しておく。妹からは年頃の女子についてと、その接し方について色々と教えてもらった。
 教えて貰ったというか、妹と接するにあたり、覚えざるを得なかったというか。


 「着替えは持ってきてるんだろ?」
 「着替えもバスタオルも持ってきてるから大丈夫よ……あ、ボディタオル……」
 「なんだ。忘れたのか?」


 自分のバッグを見ながら、途中でボソリと呟く美咲に俺は思わず聞く。女子のだとデリケートな話題だが、家主は俺だし、少し踏み込んでおこう。
 幸いにして美咲は気にしなかったようだが。


 「困ったわ……」
 「私の貸そっか?」
 「いえ、それは流石にちょっと……」
 「……あぁ、ちょっと待ってろ」


 ふと、俺はあることを思い出して風呂場へ移動する。洗面所の下の引き出しに確か……あった。


 「ほれ」
 「あら、これは?」
 「まだ誰も使ってない新品のボディタオルだ。女性用で柔らかいやつだから、多分使えると思う」
 「女性用〃〃〃? なんで刀哉君がそんなの持ってるの?」
 「俺のじゃなくて、妹のだ。こっちで風呂入る時に使ってて、それの予備らしい」
 「……貴方の妹さん、少し特殊じゃない?」


 失礼な。俺の妹は少しじゃなくてメチャクチャ特殊だ。


 というか、さっきから美咲は変なところに反応しすぎだろ。お泊まりというのもあって、美咲もやはり気分が高揚しているのだろうか。
 まぁ、箍が外れると人間は煩悩やら欲に流されるしな。不思議なことじゃない。


 「それにしても、いいのかしら?」
 「別に構わん。後で補充しておくし、その位はする。というか、拓磨達が帰ってくる前に早く入っておけ。じゃないと出た時に鉢合わせになるぞ」
 「それは……勘弁して欲しいわね」


 嫌悪感までは行かないが、仲のいい男子でも嫌らしい。樹はともかく、幼馴染の拓磨にすらその反応とは、ガードが固いですね。


 「叶恵もだ。幾ら抵抗ないとはいえ、美咲の後にさっさと入ってきちゃえよ」
 「え? やだなぁ、流石に樹君や拓磨君の前でお風呂に入るのは抵抗あるよ」
 「ん? そうなのか。てっきり『私全然気にしないから』って感じかと思ってた」
 「それは、刀哉君だけ!」


 え? なにその嬉しい情報。幼馴染み補正なの?
 とは言え、それを聞いた美咲の目が険しくなってきたので、叶恵が何かやばいことを言い出す前にコホンと一つ咳払い。


 「……今から一人ずつ入ってたんじゃ、その内拓磨達が帰ってきちゃうわ。叶恵、一緒に入りましょ?」
 「え? 入る入る! 今日は洗いっこだね」
 「その言い方はどうかと思うのだけど……」


 その意図を察した美咲が、やはり目を険しくしながらも話題を逸らしてくれる。が、叶恵の言い草に困惑を覚えているようだ。


 「うちの風呂は広いから2人でも結構余裕あるからな。2人でをしても問題ないぞ」
 「ちょ、ちょっと!? 変な事言わないで頂戴! そんな事しないわよ! もう、お風呂に入ってきます!」
 「ん? あぁいや、別にそんなつもりで言ったんじゃないんだが……」


 どうしよう。真面目に普通に言っただけなのに、美咲の思考がピンクだ。別に強調もしてないのだが……。
 年頃の女子だ。厳格そうな美咲も、やはりそういう思考が本心なのだろうな。


 俺の言葉にまたしても顔を真っ赤にした美咲は、逃げるようにリビングから出ていく。場所、分かるのだろうか。


 「あ、美咲ちゃん……もう、どうしたんだろ?」
 「ちょっと妄想が爆発してんだろ。叶恵、美咲を風呂に案内してやれ。あと風呂内にあるボディタオルは俺と金光達のだから、勝手に使うなよ」
 「りょーかい! じゃ、入ってくるね」


 ふんふふん~、と鼻歌を歌いながら、美咲を追って出ていく叶恵。あのテンションだと、予期せずに疲れる目にあいそうだな、と美咲の冥福を祈る。


 まぁ、きっとアニメであればムフフな展開なのだろうし、出てきた時は片方はツヤッツヤしてて、もう片方がげんなりしているというお約束展開を見ることができそうだ。
 いやはや、貴重な体験させてもらいます。




 ◆◇◆




 その後、勿論俺は覗きなんかすること無く、夕食の準備を進めて行った。


 ただ今日の夕食は品数が多すぎるので、新たにテーブルをもう一つ出すことに。コタツはないが我慢してくれ。いや、床暖教を広める良い機会チャンスか?


 一応L字型のテーブルがリビングにはあるのだが、流石に使いにくいのでこういう時用の予備テーブルを階段下から持ち出してきた。


 しゃぶしゃぶをするための鍋やら何やらを配置していく。テーブルを二つにしても少し余ってしまうので、結局L字型のテーブルの上に。
 ケンタッキーと寿司を置くスペースが足りないが、食べ終わったら順次皿を片付けて交換していけばいいだろう。


 これで大体の順次は整ったな、といったところで、風呂の扉が開いた音がする。それと同時に聞こえてくる声。


 どうやら2人が出たらしいなと、少し意識を遠ざける。あまり聞いていい会話じゃないだろうという配慮だ。何気に耳が良いせいで、こういう時は苦労する。


 『それでねそれでね、金光ちゃんから聞いた話なんだけど』
 『刀哉君の妹さん?』
 『そうそう!』


 何だろう。妹と自分の名前が出たから、意図せず意識が戻ってきた。


 『なんか、金光ちゃん達って、昔不良に絡まれたことがあるんだって。それを、刀哉君が颯爽と助けたって話なんだけど』
 『そんなことがね……え? ここからが大事なところ?』


 話の内容から、俺は大体の予想をつける。多分、妹達が中一の頃の話だろうな。今から2年ぐらい前か。


 『だってよく考えてみて? 不良は何人もいて、刀哉君は1人だけだったんだよ?』
 『それって……もしかして、警察を呼んでたとか?』
 『ううん、金光ちゃん達によると、全員を喧嘩で倒しちゃったんだって!』
 『えぇ!? い、いくら刀哉君でも、流石にそんなこと……』


 美咲の声が自信をなくしていくように萎んでいく。なんだ、否定する根拠がないのね。


 これ以上聞いてると、俺自身が悶え死にそうなのでやめておこう。あの事件的なものに関しては、正直探られたくないところなのだ。


 まぁ、助けた妹2人に、そのお友達の子は、とても好意的に捉えてくれたようだが。それでも、あまり思い出したいことではない。


 『───それでね! クーファちゃんが寝てる刀哉君の上に覆いかぶさって……』
 『えぇ!? 兄妹でそんな……ふ、不潔よ!』


 「は? え?」


 再び、今度はもう一人の妹の名前が出たため意識が戻ってきてしまったが、俺は話の流れ的に動揺する。
 肝心な部分がききとれないが、一つ言えるのは、美咲が動揺するような話だということ。ついでに不潔と叫ぶような。


 なに、クーファが俺に覆い被さって何をしたんだ? というか、その情報はどこから来たんだ。クーファ本人か?


 いやでもきっと大丈夫。美咲の反応も、今日のあいつは過剰に反応するからそれの一つ。きっと覆いかぶさって一緒に寝たとかそんな感じだろ。
 意外と初心な美咲のことだ。兄妹と言えど、年頃の男女が一つのベッドに入るということは刺激的に思えたのだろう。それなら、不潔と叫んでもおかしくはない。


 そう、もう何も心配はない。だからイヤホンしようそうしよう。


 半ば現実逃避気味に、これ以上話を聞かないようにと、俺はイヤホンを付けて音楽を聴き出した。
 それが良いことなのか悪いことなのか、俺には分からなかった。






 ◆◇◆






 「ふぅ、さっぱりしたわ」
 「刀哉君、最初ありがとうねー」
 「あぁ良いって良いって。お湯は抜いといた方がいいんだろ」
 「え、えぇ、悪いけどお願いできるかしら。やっぱり気にしちゃって」
 「問題ないさ」


 風呂から出てきた2人がリビングに来た。何ともフローラルというか、いい匂いがリビングを通り越して台所にまで届く。シャンプー等は俺も同じのを使ってるはずなのに、こうも違うのはなぜだろう。


 風呂の湯を抜きにリビングを通ると、湯上りで少し顔が赤い2人が。少し露出した肩などが、妙に色っぽい。
 そして、俺の顔を見るなり、動揺したように視線を逸らす美咲……理由は考えないようにしておこう。


 洗面所へと移動し、目のやり場にこまる場所から逃げ出す。が、しかし。
 ここのお湯は美咲達が使った後だということを思い出す。


 (ってイカンイカン。俺まで思考が危ない方向に走りかけてる。精神統一、南無阿弥陀仏)


 全く関係ないことを唱えているが、まぁ煩悩を振り払えたので良しとしよう。


 無心で俺は風呂のお湯を抜き、ついでに気にしそうな排水口を確認。
 ……髪の毛しかないことに安堵。別に何の毛が落ちているかを確認したかった訳じゃないが、一応その髪の毛は捨てておくことに。念のために紙にくるんで。


 あれ? でも髪の毛しかないと分かるまでマジマジと見てるのって、そっちの方がやばくないか?


 ……終わり良ければ全てよし! お湯張り直してリビングに戻りましょう!




 ◆◇◆




 「ただいま」
 「ただいまー」
 「おうお帰り。ちゃんと買ってきたか?」
 「ほれ」
 「あ、こっちケン〇ッキーな」


 少しすると2人が帰ってきた。
 慌てて玄関に迎えに行き、拓磨と樹から渡される袋を受け取る。ふむふむ、ちゃんと入ってるな、寿司とケ〇タッキー。


 「さて、後はこれを並べれば夕食の準備は完了だが……二人は風呂どうする?」
 「風呂? う~ん」
 「飯食った後はどうせなんかで遊ぶんだろうし、早めに入っておいた方がいいぞ」
 「あ~じゃあ入るかな」
 「なら俺も入ろう」
 「オーケー。一応ここの風呂結構広いから二人でも入れるけど」
 「何か色々と勘違いされそうだから却下で」
 「了解」


 まぁここには美咲と叶恵も居るしな。男二人で入るなんてことになれば、いらぬ誤解を招くのも必然か。


 なお、俺は2人を待ってる間に入らせてもらっている。一番風呂は貰った。正確には二番風呂だが、お湯を替えたのでノーカンだ。


 どうやら先に拓磨が入るようで、既に着替えを持って洗面所まで移動している。


 「おい、バスタオルは?」
 「あ、そう言えば無いな……」
 「俺ので良ければ使うか? 予備のがある」
 「お、じゃあありがたく使わせてもらう」


 何かしら忘れ物をするのか、美咲といい拓磨といい。
 取り敢えず2階へ移動し、クローゼットの中から俺の予備のバスタオルを取り出して拓磨へとパス。男同士だ。特に気にはしない。


 「サンキュー」
 「ボディタオルは流石にあるよな?」
 「おう、問題ない」


 洗面所へと消えていく拓磨を尻目に、リビングへと戻る。


 「刀哉、4人で恋バナしようぜ!」
 「そのテンションにはついてけないわ」


 リビング入って早速これだよ全く。頭が痛いとはまさにこの事。


 「はいはーい!私も恋バナしたい!」
 「私も少ししたいわ」
 「あれ? 意外と乗り気?」


 俺だけ? メンドーとか思ってんの?


 いや、でも確かに女子はこういう時よく恋バナしてるイメージがある。そこに男子を交えてもいいのかは知らんが、本人がいいと言ってる以上良いのだろう。


 「んじゃまずは美咲さんの好きな人からで」
 「え? 私から?」


 樹の指名に美咲が困惑する。でもまぁ確かに妥当……か?
 樹としては叶恵は一番最後にしておきたいはず。そうなると俺か美咲かだが、樹にとっては美咲の方が気になったんだろう。


 「えぇ、好きな人か……」
 「好きな人じゃなくて、『付き合うならこの人』ってのでも良いよ?」


 うん、それ朝に拓磨に助け舟と見せかけて逃げ場をなくしたやつじゃん。


 それにしても、こいつ本当に女子と男子で口調変わるな。俺と拓磨相手だと「だぜ!」「だよな」とかなのに「いいよ?」って口調が柔らかくなってる。これは紳士的対応から来ているのではなく、ヘタレから来ています。


 まぁ、こうやって美咲に好きな人とかを聞けてる感じ、多少は改善されてきているのだろう。
 初めてあった中学の頃は、同性の俺にすら多少オドオドだったがな。まさに叶恵を相手にした時みたいに。


 「えぇ? その、うぅ……」


 答えられない、もしくは答えを持っていないのか、顔を俯かせる美咲は、よく見れば耳が少しだけ赤い。
 ここは、真の助け舟を出しておくか。


 「おいおい樹、流石に可哀想だろ。恋バナは普通男女で交えてするもんじゃないしさ。ここは違う方向で行こうぜ」
 「う、そうか? まぁ言わんとすることはわかるが……だが他に話題ってあるのか?」
 「例えば、美咲は拓磨のことをどう思ってるかとか」
 「お、それならいいな。じゃあ美咲さん、拓磨のことどう思ってる?」


 それいいな、と手を打った樹は笑顔で美咲に聞く。どんだけ聞きたいんだコイツ。


 「拓磨ね……まぁ、昔からいる幼馴染みだし、頼りがいがあるわ。でも恋愛沙汰の話となるとそうね……拓磨には恋愛感情は抱いてないわ」
 「あらら、そんなものか」
 「それはそうよ。昔から一緒にいるもの。確かに、そこらの男子よりは全然魅力的だけれど、それとこれとは別よね」
 「じゃあ絶対に誰かと付き合わなければならない、みたいなことを言われたら?」
 「そんなこと実際にはあるわけないでしょう……でも、まぁ、絶対に付き合わなきゃいけないっていう話なら……」


 チラッ、と美咲が俺の方を見た。
 これは、何の合図だろう。いや、待て、分かった。


 「樹、その辺りにしておけよ。今度はさんざん聞いたお前の番だ」
 「えぇマジかよ! これからがいい所なのになぁ……」


 うん、きっと話を逸らして欲しかったんだろ?
 そう思い美咲の方を見るが、あれ? なんか頬が膨れてませんかね。


 まぁあれか、助けるのが遅いとかそういう意味合いだろうか。それとも別にそんな意図は無かったとか? なら悪い事をしたな。心の中で謝っておこう。


 「いや、樹君は言ったところで無駄でしょう。分かりきってるし」
 「えぇ!? 私樹君の好きな人知らないよ?」
 「そうね、叶恵はまだ知らない方がいいのかもしれないわね。ね、樹君?」
 「あ、あぁ。そうだね。うん」


 ヘタレ。おいヘタレ。攻めろよヘタレ。


 ヘタレコールをしてみるも、届くことは無い。マジでなぁ、押せって。引いてダメなら押してみろっていうだろうに。


 「叶恵……は、アレよねぇ」
 「えっと、樹君も拓磨君も好きだけど、恋愛感情は……」


 言葉を濁して「えへへ」と笑う。それは笑顔というよりは、どちらかと言うと苦笑いに近いだろう。
 だが、それで樹は誤魔化された。いいのそれで。恋愛感情無いって言われたんだぞ。


 そして俺は、一番重要なところを、気づいていながら敢えてスルーした。美咲も樹も、2人は気づいていないのか、それについて言及していない。


 「刀哉は? そう言えばお前朝聞いた時、逃げたよな?」
 「いや、あれは不可抗力だろ。というか俺に好きなやつは居ない」
 「嘘つけ」


 何故か即否定。本人でないお前が断言する根拠はなんだ。


 「刀哉君、誰か好きな人いるのー?」


 だが、ここで叶恵の援護射撃が入る。何気ないふうに聞いているが、その顔の真意を読み取り、俺は幾分か苦い顔をする。


 ────あまり良くない、な。


 「本当に誰も居ないんだが……」
 「そこは嘘でも誰か答えろよっ! んじゃ、美咲さんか叶恵さんなら?」


 肘を入れられ、俺は樹に顔を向ける。だが樹は俺を意に介さず、候補を2人出してくる。


 困った展開になった。だが、答えなければ樹は離してくれない。全く、俺の苦労も考えてくれよ。


 「わかったわかった、答える。だが、強いて言うならってだけだぞ?」
 「お? 言ってみろよ」


 好ましくない展開だが、空気を乱さないように、俺はこの場を切り抜けるための候補者を選ぶ。
 そして最適な人物をピックアップし、あたかも必死に考え尽くしたという時間を費やし、ようやく口を開く。


 「……そうだな。金光かクーファだ」
 「……は?」


 時間をかけ、しかしなんでもないように答えた俺に、樹が意味不明とばかりに声を出し、美咲と叶恵の表情が固まる。


 「……そ、そうかー。あ、あぁ、その、うん、なんだ………一応、異性ならって話だからよ……」
 「あぁ、異性として、妹2人だな」


 俺は決死の覚悟で、しかしそれを悟られないようなポーカーフェイスと平坦な声で告げる。それに対して、何ら違和感を抱いていないように。
 樹の顔が引き攣り、叶恵と美咲は、氷点下の冷たさを視線に宿す。


 「刀哉君、流石にそれはちょっと……」
 「妹に、まさかそんな想いを……」


 誤解……いや、俺が誘導した展開へと移行し、その2人の言葉がグサグサと俺の心を容赦なく突き刺す。


 クッ、覚悟は決めていたが、やっぱりキツイな……。


 「……はっ!? そ、そう言えば、今朝もシスコンって言葉に対して、刀哉は否定をしていなかった……じょ、冗談じゃ、ないのか?」


 そして、俺の読み通り、硬直から戻るなり、今朝のことを思い出してくれた樹。
 その展開は、普通に考えれば俺に『まずった』と思わせるものだが、自身から誘導した以上、そう思うことは無い。


 そして、俺はそれに対し痛いところをつかれたとばかりに顔を歪めてみせる。


 「……普段から一緒に居て、一番親密だからだ。それに加えて、客観的に美少女だからな。言っておくが、真にそういう目で見てるわけじゃないぞ?」
 「お、おう、そそ、そうだよ、な? わかってるぞ、刀哉」


 そして、俺の言葉をしっかりと『苦し紛れの言い訳』と捉えた樹は、そんなふうに俺に声をかける。
 樹としては、引きながらも、特に否定はしない、ということだろうか。


 そして、もちろん女性陣はそうはいかない。


 軽蔑した目で見てくる美咲と、珍しく責めるような目で見てくる叶恵。
 だが、ハッキリと言わせてもらえば、そこに本物の怒気はない。呆れはあるかもしれないが。


 「……不潔」
 「私、暫く刀哉君とはお話しなーい」


 そんな言葉を言われれば、再度俺の心を鋭利なナイフが抉り、深い傷を作っていく。


 「盛大な誤解をどうもありがとう! そして、頼むからこの話は掘り返さないでくれ、な?」


 そして俺は、もう話は終わりだと捲し立てる。
 しかし、相変わらずの視線に、流石の俺も本気で耐えかねてきた時だ。


 「スマンな刀哉、いい湯だったぞ。次樹入るなら……」
 「さぁ樹入ってこい今すぐ入ってこい!」
 「え? ちょ、ま!?」


 神の声が聞こえてきた。すごい、ナイスタイミング過ぎる。これ以上時間が経つと、ボロが出るところだったからな。


 「……一体どうしたんだ?」


 俺が必死の叫びとともに樹をリビングから追い出すと、丁度廊下にいた拓磨は頭にハテナを浮かべる。


 「なに、ちょっと恋バナで、あることないこと探られそうになっただけだ」


 拓磨には借りが一つできたな、と俺は苦笑いをした。









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