夢咲く少女のユートピア

麻婆もやし(機種変更済み

歩け歩け

「ナァー」

 男は、バッグの中の袋からパンを取り出して、少しちぎって猫に与えた。黒猫は不服そうにしながらそれを食べる。

 どれ程歩いたか。半日分近く歩いたと感じるのに誰も居ないし、何も無い。なんとも辛いことだ。

 男は目が覚めた所から移動したのだが、一向に景色が変わらない。何も分からない男にとっては苦痛であった。

 なぁ、ルビ。何か見つけたら教えるんだぞ。

「ナァン」

 黒猫はアレからずっと付いてきた。寂しい森で一人なのも辛いので「ルビ」と名付けて、一緒にいることにした。名前は、黒猫、と呼ぶのも収まりが悪いので、瞳の色が綺麗と言うことで宝石の「ルビー」からとったものだ。

 しかし、、、。どうしようか。

 実際、何かがないと何もできない。数少ないパンをルビと男で分けて食べているが、そうそう長くはもたない。

「ウアウゥ」(もうひとつ寄こせ)

 ルビが足の辺りをうろついている。

 、、、急がなきゃ。

 男はまたパンをちぎって猫に食わしてやった。

 ふと、男はくだらない事を考えた。

 誰かと会ったとき名前が無いと不便だな、、、。よし。どうせなら、カッコイイ名前を考えよう。どうせ自分の事だし。

 男は疲労の溜まった顔で少し頬を緩ませた。あれやこれやと巡らせながら歩き続けた。

「、、、ノォゥ」

歩く二人の頭上には、少し傾いた太陽が変わらずそこにあった。


 

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