夢咲く少女のユートピア

麻婆もやし(機種変更済み

 目を開けてみる。
 たった今覚した半開きの目に差す光はあまりにも強すぎた。
 男が目を開き身体を起こしたその場所は薄暗い森のようだった。ところどころに葉の隙間から抜ける細い陽の光が見えた。
 
「ナオゥ」

 腕にモサッとした違和感を感じて見てみると、黒い猫が男の手に寄り掛かるように寝ようとしていた。

人懐っこい猫だ。

 男が、枕にされた手を引き抜くと

「ゥアゥ」

起きた猫が遠ざかる枕に噛み付いた。

痛い。

 だらけていた身体が急に覚める。
 猫はスルリと動くと男の前で行儀よく座った。男の方をじっと見ている。
 
 男は手で身体を支えながら座っていた。周りは外が見えない森で一本一本の樹木も相当な高さのものだった。
 そこで、男は気づいた。

俺の名前は何だ。今まで何をしていた。

 男は自分が何者か分からなかった。何故ここにいるのか知らなかった。

何か無いのか。手掛かりでもあれば、、、

 あまり取り乱さず、落ち着いていた。何かをしようとしていた訳ではない。なら、焦ることも無い。男は光が流れ込む暗い森で一人、考え込んでいた。

夜は冷えるか?今でも暗いし、暖を取れれば良いな。

 まだ明るい。入り込む陽は少し傾いていたため、正午を少し過ぎたか、まだ過ぎないかくらいだろう。黒猫は今も男の前に居座ってあくびをしていた。

 男は周りを見渡してみた。何も無ければそれでも良し。やる事はさして変わらない。しかし、

バッグ?

 黒いバッグが近くの木の根本にあった。多少使われているが森で見つけたにしては綺麗な方だろう。男は開けて、中を見てみる。

食べ物だ。少し乾いているけどパンが三つある。、、、こんな所にある物だ。貰ったところで何も言われまい。

「ナゥゥ、、、」

 小さな袋に入ってるパンは固かった。その他にも、空の瓶、塗り薬、厚めの布、それと小さめのナイフが入っていた。
 瓶は綺麗だったし、タオルも汚れている感じはしなかった。
 男はこれでは自分が何者なのかやはり分からなかった。
 ただ男は森に来たのではなく、迷い込んだと感じた。背の高い木々に囲まれただけのこの場所に何かある筈もないと感じた。

 男は目的も見つからなかった。何も知らない男はそれでも歩くことにした。
 道は無い。それでも何か変わるならと、男は歩いた。

きっとその先は望むものでは無かったのに
 




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