あの日君と見たかった景色は

雨音

プロローグ

 両側が雑木林に囲まれたこの長い長い階段は真っ直ぐに頂上へと続いている。それでも薄暗い石段をのぼっていく私の足取りはとても軽い。次々に沸き起こる期待が私の背中を押しているのかもしれない。これまでに何度も同じ事を想像してはそのたびに胸は高鳴り、一段一段ゆっくりと歩を進めるたびにサンダルはカタカタと音を立てる。





 少しずつ明るみの消えていく空を見るといち早く顔を出した星達は我先にとその輝きを強める。今日は快晴だ。よし、これならきっと大丈夫。これまでにのぼってきた方を振り返れば優しい風がどこかの子供達の笑い声を運んでくる。昼間うるさいくらい鳴いていた蝉は今は大人しいものだ。





 あの日、彼はここをのぼりながら何を考えていたのだろうか。これまでの事、これからの事、…もしかしたら私の事を思っていてくれたかもしれない。もしそうだったら…ふとそんなことを思って慌てて頭を振った。
 彼に会ったらなんて言おうか。元気?いやいや違うな。何してた?…これも違うな。うわぁ本当になんて言おう…そんな事を考えているといつの間にか頂上が近づいて来た。





 …やっぱり私達には言葉はいらないのかもしれない。私達をつなぐものは数ヶ月の記憶。たったの数ヶ月だけど大好きな記憶。共有しているものが一つでもあれば他には何もいらない。私はただ黙って見ていたいだけなんだ、君の見せたかった景色を。ずっとずっと君の隣で。


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