不老不死とは私のことです

6W

入学式編 13話


──こちら現場の羽鳥。絶体絶命です。



……いや死にはしないけど。

とはいえ、状況は最悪。つまりは膠着状態。引きつった顔の襲撃犯と、フロントガラス越しに目を合わせる私……汚いオッサンと目が合っても嬉しくないです。

もうちょっと詳しく状況を説明するとすれば、ここは高速道路。爆走する車【武装】のボンネットの上で風に髪をなびかせるは、うら若き花血塗れの女子高専生JK。状況はすこぶる(見た目が)悪い。控えめに言ってもホラーである。

そりゃ私だってカッコよく決めたいと思ったさ。それでも、こうなるまでにはそれなりに紆余曲折があったのである。



遡ること数分前。

『な、何だコイツは!?』
『これがNINJAなのかっ?!』
『おい、この地味顔を早くヤッちまえ!』

ボンネットにえいっと飛び乗った私に対して外国語で次々に浴びせられる罵声(?)。

とはいえ、英語レベルがThis is a pen.と、I have a apple.で止まっている私にそんなもの分かるはずがない。そもそも英語かどうかも判断できない。あれ、そういえば、母音で始まる名詞の前は a ではなく an だっただろうか。

とにかくよく分からないけど、最後のセリフの悪意は何となく感じ取ったので入念に痛めつけようと思います。覚悟しろっ!

えーっとえーっと。こういう時英語でなんて言うんでしたっけ?

「うーん……?よく分からない。とりあえず、はわゆー?」

ついでに、手もヒラヒラ振ってみた。どうせ負け確な彼らには、潔く降参して頂いて、待ち受ける陰惨な運命を少しでも回避して欲しいものである。



『この状況で『How are you?』だと?!このメスガキ、完全にこっちをナメてやがりますぜっ!』
『チッ!とりあえずこれで蜂の巣になりやがれ!』

早くもプッツンしたらしい、人相が特に凶悪なオッサンが何やら物騒なフォルムの何かを取り出した。

ソレの標準が此方に合わせられる。向く先は私の眉間……つまり急所!

えっ、ちょっとタンマタンマ!それ、対異能者とか対異形種にも使われる大口径銃(1つで大体大型トラックが買えるくらいの値段)だよね?

間違っても可愛い自称JK1人を相手にするために使うようなもんじゃないですよ?!

せめて回避を!よ、避け……られない!何せ片手を放した瞬間ボンネットから落ちますからっ!今だってそろそろ握力限界でプルプルしてきてるんですっちょっとそれズルいってば!

ご、後生ですから〜っっっ!(プライドの全てを捨てて媚びへつらう表情の絵文字)

しかし、照準が外れることはなく、握るオッサンの目には友好的な雰囲気どころか、殺意しかない。

大人げねえぞ、クソオヤジ共コルァァァァァコレがお前らの、やーりーかーたーかぁぁぁ!(散歩に連れ出して貰ったと思ったら、行き先が動物病院だった時の犬と同じ表情の絵文字)

助手席に座っていた外国人が、ニタリと嫌な笑いかたをした。

『あばよ、嬢ちゃん』
「えっ、ちょっと待って!待っててあばばばばばばっ!!!」

そして、私の生涯は幕を閉じたのである。(本日1回目)

…………
………
……
…(n回死ぬまで1行目から繰り返し)



「……困った。膠着状態だ」

私は、垂れてくる自らの、、、脳漿と血を手で払うように拭いながら呟く。

何度殺されたかは覚えてないけど、繰り返しともなれば結構な液量なのだ。濡れてるせいでめっちゃ滑るぅ。濡れた手を拭おうにも、着ているものが、ズタズタのボロボロな上、此方もぐっしょり血とよく分からない組織液で濡れている。

身体だけは無傷というか、回復済みなので何ともないけど、深夜のトイレで出会っちゃいけないビジュアルだ。よくもまあこんな姿で生きているものである。(と、自分でもそう思う。)

今だって、マシンガンのせいでボンネットやフロントガラスに空いた穴に手足突っ込んで、ようやく片手でもバランスをとれるようになって来たけど、積みたい経験値はコレでは無いのだ。もっと血生臭くない社会経験積みたい。

『ヒィィィ!ば、化け物!』

──あんだって?美人JKだって?分かってるじゃないかオッサンたちよ。

という冗談はさておき。

それにしても随分殺されてしまったので、体組織を作る物質の補充しなくちゃいけなくなったじゃないか。死なないってなあ、お金かかるんですよっ!特に生き返る瞬間!

某錬金術師によると、人間を作るには

水35L
炭素20kg
アンモニア4L
石灰1.5kg
リン800g
塩分250g
硝石100g
硫黄80g
フッ素7.5g
鉄5g
ケイ素3g
その他少量の15の元素

が必要で、子供のお小遣いでも揃うお値打ちラインナップだって言ってるけど、回数重なるとキツイんですっ!

あんた達だって100万回生きてみてくださいよ!きっと猫だって腰抜かすコスト。これが「真理」です、ド畜生め!

そう考えると、今流れている血も勿体ない気がする。

「オエッ鉄臭っ!」

そう思ってリサイクルを試みたけど無謀だった。吸血鬼には一生なれそうがない。

「さて、どうしようかな」

膠着状態が続けば続くほど膨れ上がる蘇生のコストはひとまず置いておいて、このテロリスト共を片付けることを優先しよう、そうしよう。




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