不老不死とは私のことです

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入学式編 0話



正確な年号がいつだったか忘れたけど、「およそ400年前。人類は新たなる存在に直面した」……と言うのが、近所のコンビニでも買えちゃうありふれた歴史系本の書き出しだ。

遡ることおよそ500年前、ひっきりなしの災害に、水不足、食糧不足エトセトラエトセトラ。仁義なき資源争奪戦の果て、遂には核まで持ち込んできたどこぞの大人気ない国家のせいで我らが地球の環境はもう滅茶苦茶。実際に全人類どころか全生物絶滅1歩手前のところまでいったらしいのだから笑えない。

戦争を、やってみたら みな滅亡。はい一句できました〜拍手ー!

結局そんな余力もないので戦争は仲直りというかなし崩しな感じでなあなあに終わり、家族とか恋人とか友人とか、そんなのにかまけてる暇はないとばかりに食料を奪い合う暗黒時代。続く戦乱と貧困に、一時期は80を優に超えていた平均寿命は40までダウンした。

明日もわからぬ時代に、過去の知識なんか必要ないと、本は薪の代わりにされ、灰と消えた。あまりにも資料が少なくて不明な部分が多すぎるので、【ヘーアン】より後と、【メージ】より前は、【サムライ時代】で統一されている。なんかね、この時代はサムライってのが沢山いたらしいよ。

そんな暗黒の時代がどうやって終わったのかと言えば、ある1人の女性によるものだそうだ。

呼び名は【緑の聖女】、【生命の女神】、あるいは単に【聖女】とか。正確な名前は分からないとされるその女性の出現に、世界が大きく変わった。

彼女の手が乾いた大地に触れれば、ひび割れたその隙間から清らかな水が流れ出し、彼女の涙が、枯れた木に落ちれば、そこは瞬く間に深く豊かな森になった。

その彼女は、ほぼ同時期に世界中のあちこちに現れると、また同じことを繰り返し、そしていつの間にか消えていたという。




【聖女】によって生命を繋いだのも束の間、今度はまた別の試練が人類を待ち構えていた。

異形種。

それまでに報告されていた動物とは全く異なる未知の生命体。姿形に統一性はなく、共通の特徴をあえてあげるとすれば人を襲うこと。文明は後退していたとはいえ、容易くその命を奪う筈だった現代兵器はある一定の成果を上げたものの、敗北を喫した。

だが、一方で対抗するかのように、人類にも変化が起きた。それまで超能力や魔法と呼ばれていた類の能力を持つ人間がごく稀に現れ始めたのだ。

その人固有の異能は千差万別あれど、異能者ならば拍子抜けするほど簡単に異形種を狩ることが出来たのだ。

こうして、新たな人類と呼ぶべき存在は、社会に席次を得ることができた。

異能を生まれ持った人間は、いつしか異能者などと呼ばれるようになり、異形種討伐だけではなく、今では人型の兵器として一般的に扱われるようになっている。




……とはいえ、そんなことを言われたところで400年も前のことなら、新しく生まれた私たちにとってはそうなんだーとしか言えない案件である。後はテスト対策。高校生ですから。

だって生まれた時からあるんだよ?そんな事言われても、ねえ?むしろ、無いことの方が想像出来ないんですが、ええ。

そんな思いは、母からしてみれば結構不真面目に見えてしまったのだろう。幼い頃から、母は真剣な顔で、何度も何度もこの神話じみた歴史を語るのだ。

「いーい?スズメちゃん。とっても昔に【聖女】さまっていう人が現れて、それから、異能者とか、異形種っていうのが現れ始めたのよー」

「へー(お空は何で青いのかな)」

「異能っていうのはね、皆ではないけど、使える人がいるもので」

「ふーん(お、鳥じゃんトリトリ。唐揚げ食べたい……って妙にデカくないか?あの鳥?……鳥っていうかアレは……)」

「それから、異形種に会ったら逃げなくちゃダメなのよ?異形種は、強くて、私たち人間のことがとーっても嫌いで、食べられちゃうんだから」

「お、おかーさん!あれ!!異形種ドラゴン!!」

「な、なんですって!もうドラゴンのことが分かるの!?ててて、天才なのかしら、うちの子!」

「それよりおとーさん呼ばなくちゃ!!(あっちに下りたな……割と近い。これ結構危ないんじゃ……)」

「そそそ、そうね!鷹哉さんを呼ばなくっちゃ!!た、たかやさーん、スズメちゃんが、スズメちゃんが天才なのよぉぉぉ!」

「ちがう。そっちじゃねーよ、このすっとこどっこい」

「す、雀ちゃん……!あなたどこでそんな言葉を覚えたのー?!?!」


この日は父が直ぐに駆けつけてくれたのもあってとりあえず生還出来たものの、親をスットコドッコイと呼んだ罪で長々と説教されたのは思い出したくない思い出です。






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