異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第31節 再会②

燃えていた炎が消え、家だった事も判別できなくなった頃、ミントは召喚の為に魔力を溜め始めた。
『・・・まだ、いる』
それを合図に全員が構えるといきなり家の残骸が弾け飛んだ。そこには無傷とは言えないがモンスターが立っていた。
『キ、キサマラ・・・タダデハスマサンゾ!!』
モンスターは咆哮をあげ敵意を剥き出しにした。
『な、なによあのモンスター?!見たことも無い!』
『・・・こ、これが・・・未知のモンスターっ!?』
『皆さん!警戒してください!凄い魔力を感じます!』
と、警戒を促した途端。モンスターは動きを止めた。
『・・・ソウカ。タシカオマエノコキョウトイウハナシダッタナ?』
モンスターはレオンに対してそう言うと手の平を地面に翳した。
『グググ・・・御方ヨリサズカリシチカラ・・・トクトミヨ!!』
途端、魔法陣が展開した。桐生達は距離を取り出方を伺うとモンスターの翳した地面からグールが現れた。その様子は以前エヴィーが行った方法と同じだったが今回は以前と違う感覚を桐生は感じた。
『あのグール・・・なんか違う』
『だよね・・・。図書館で闘った時と雰囲気が違う・・・なんだろう・・・』
レイナも感じていたのか見ると冷や汗を流していた。
『・・・クリス』
と、後ろからレオンが呟くのを全員が漏らさず聞いていた。
『クリス?』
『俺の・・・幼馴染だ・・・なんで・・・』
桐生はモンスターを睨みつけながらグールに対してスキルを発動した。
『・・・っ!グールじゃない!リビングデッド(生屍人)だ。あの野郎・・・』
全員がモンスターを見ると恐らく笑っているのだろう。小刻みに震えた声が聞こえた。
『ワガチカラニオビエタカ、ニンゲンドモ!サァヤレリビングデッドヨ!ソノイキチヲサイゲンナクススルガイイ!』
号令がかかったのかリビングデッドは桐生達に向け走り出した。レオンの幼馴染と聞いた以上、無闇に攻撃出来ないと判断したのかリィムは結界を張った。
『ど、どうするのよ?!あれ、アンタの幼馴染なんでしょ?!』
『で、でも今現在モンスターとなって私達を攻撃しようとしています!』
『・・・倒すしかない』
『で、でもっ!?』
先程までのチームワークはどこへやら、全員が防戦一方になってしまった中、レオンは結界ギリギリまで歩いて近寄った。
『クリス・・・俺だよ・・・レオンだ・・・分かるか・・・?』
『ガァァァァァァ!!!』
『分かんないのかよ・・・なんとか答えろよ!!!』
レオンの悲痛な叫びも虚しくリビングデッドとなったクリスは結界を破ろうと攻撃を繰り返していた。
『・・・やってみる価値はある』
桐生がそう呟くとレオンの隣まで近寄って全員に向け指示を出した。
『聞いてくれ。これは一種の賭けだが・・・最後の別れになっちまうが・・・レオンの為に俺らの力を貸してやろう』
その言葉に全員が耳を傾けた。
『ベル、ミント、レイナ!お前らは後ろのアイツを相手してくれ!ステータスは見たが残りの体力を考えれば難しい相手じゃない。リィムはその援護だ!』
そして桐生はレオンに向き直って個別の作戦を伝えた。
『レオン、この子の説得は任せた。俺がこの子だけを結界で囲う。その時にこの子に対して気功を与える。気功ってのは生きる力とも言える。もしかしたらだけど・・・少しだけかもしれないけど・・・自我を取り戻してやれるかもしれない・・・』
『ほ、ホントか!?』
『あぁ、ただこの子を操っているアイツをどうにかしなきゃなんねーのもあるし、生き返らせる訳じゃない・・・。死んじまった人は生き返れない・・・最後の別れを作ってやるだけだ・・・』
桐生は辛そうにレオンに告げた。周りもレオンを心配してか沈黙を保った。
『それでも・・・』
『・・・』
『それでも、クリスに別れが言えるなら・・・俺はその賭けに乗る!頼む、皆!俺のワガママに付き合ってくれ!』
レオンは力強く答えると全員に懇願した。
『・・・えぇ。やりましょう!』
リィムは強く答えた。
『・・・アイツだけは絶対許さない。こんな人の気持ちを弄ぶ様なヤツなんか・・・灰も残さず燃やしてやるわ』
ベルは魔力を最大限まで溜め始めた。
『うん、こんな悲しい別れ・・・嫌だもん。許さない、絶対!』
レイナも細剣を構え、強くモンスターを睨み付けた。
『・・・頑張って、レオン』
ミントは強ばっているレオンに対して労いながらベルとレイナの背後に回った。
『・・・ありがとう、皆。ありがとう・・・勇人』
『・・・気にすんな。俺もこんな事するアイツを粉微塵にしてやりたいが・・・お前を助ける為に本気になるさ』
桐生は答えながら結界をクリスにだけ張り、拘束した。
『さぁ!クライマックスと行こうじゃねーか!』
桐生の掛け声と同時に全員が走り出した。レイナが素早くモンスターの横を駆け抜け、ベルが魔法を発動し、ミントが召喚したゴーレムを駆使して戦闘に入った。背後からはリィムの的確な指示と援護が入りパーティーは未知のモンスターを相手に善戦していた。
『さって、俺もやるか・・・。我が魂の胎動よ、かの者に生命の鼓動と命の息吹を・・・癒治功(りょうじこう)!』
桐生がスキルを発動するとクリスはその動きを鈍らさ頭を抑え始めた。普段ならば傷が治り、復活するスキルなのだろうが相手はアンデッド。聖なる気はアンデッドに対してダメージを与える物だ。
『グっ?!ギャアアアアア?!!』
一度に大量の聖気を送り込むと倒してしまう為、ギリギリを攻める作業なのか桐生には余裕は無かった。
『くっ!想像以上にムズいぞ、これっ!』
だがその中でも桐生の精密なコントロールのお陰かクリスは苦痛に悶えながらも一番近くに居るレオンを敵視していた。
『クリスっ!俺だ!分かるなら返事をしてくれ!』
レオンの叫びは未だ届いて居なかったが、必ず届くと信じている気持ちは全員に伝わった。
『アイツがあんなに必死になってんだから・・・私達が弱音吐いてる場合じゃないわね!!』
モンスターと戦闘しているベルは更に気合いを込め魔法を発動した。
『クッ?!メザワリナッ!キエルガイイ!!』
モンスターはベルの魔法攻撃が煩わしいのかフレアの魔法を放った。
『させませんっ!・・・大いなる神よ、その加護を我らに与えたまえ・・・っ!ディレイトマジック!!』
フレアが発動する刹那に、リィムの加護が発動した。するとフレアは発動しかけ、その場で消えてしまった。
『ヌッ!?ナゼハツドウセンノダッ!?』
『貴方の魔力の流れは完全に読みました!たとえどんな魔法でも私が打ち消してみせます!』
ディレイトマジック・・・それは相手の魔法を打ち消す加護の力。魔力の流れをよく読まないと発動する事が難しく、使用する者は多くない物だが・・・リィムは今までの戦闘においてモンスターの魔力の流れを完全に掌握していたのだ。
『ナラバ我ガ毒ノ爪デソノカラダゴトヒキサイテクレル!!』
と、魔法を諦めベルに向かい突進し始めた。
『させないっ!ミントっ!!』
『んっ!』
ミントが応えるとモンスターの居る地面からゴーレムを召喚し、モンスターを取り押さえた。
『はぁぁぁぁっ!!』
レイナは気合いと共にモンスターの爪を狙って無数の乱れ斬りを放った。
『ガァァァっ!!?』
モンスターの爪に的確に攻撃が入り、毒の爪は見るも無残に全て切り落とされてしまった。
『ソ、ソンナバカナ!?ワタシハ御方二ヨリウミダサレタトクベツナソンザイノハズ!コンナトコロデ・・・マケルワケガナイノダッ!!』
言葉は伝わらなくとも、モンスターが押されているのを実感したレイナ達は畳み掛けるように攻め手を増やした。
『・・・くっ!もうちょいだ・・・っ!』
その頃桐生はクリスに気功を送り続けていた。その顔には大粒の汗が滲み、一瞬でも気を抜けば全てが終わってしまうプレッシャーと戦っていた。
『クリス・・・!頼む、戻ってきてくれっ!』
レオンも同様にクリスに対して説得を続けていた。
『ガ、ガァァァ!!グ、グググ・・・!』
クリスは抵抗を続けていたがもはや限界が近いのだろう。その場に膝を着きながら結界から出ようと頑張っていた。
『クリス!負けるなっ!あんな奴の言いなりになんかなるなっ!』
と、レオンが話しかけた時。突如クリスは力無く倒れた。見ると奥の方ではベル達が喜んでいるのが見え、未知のモンスターを討伐したのだろう事が伺えた。
『よし、今だ!はぁぁぁぁっ!!』
桐生はそれを確認すると先程よりも強く聖気を送り込んだ。倒れたクリスはビクッと反応すると虚ろな表情のまま起き上がってこちらを見ていた。
『・・・レオン・・・?』
『く、クリスっ?!』
『どうして私・・・あぁ、そっか・・・死んじゃったんだね・・・』
成功したのを理解した桐生は結界を解放し、レオンに顎で合図した。
『クリス・・・勝手に出てってごめんな・・・俺、ちゃんと言えてなかった・・・』
『ううん・・・大丈夫・・・。ちょっと寂しかったけど・・・大丈夫だよ・・・』
『クリス・・・』
『あのね・・・私ね・・・レオンの事・・・大好きだったんだよ・・・』
『俺もだ!俺もお前の事が好きだ!』
クリスはその答えに幸せそうな顔をして涙を流した。
『・・・良かった・・・。両想いだったんだね・・・それなら早く言えば良かった・・・。残念・・・。ね?レオン?』
そこまで話しかけた時、クリスの身体は光り始めた。聖気を送り込んだ為か、操っているモンスターが倒された為かこの世に留まる事が出来なくなって来たのだろう。
『私は・・・もう死んじゃったから何も出来ないけど・・・もし誰かと付き合う事になったら・・・その人をちゃんと幸せにしてあげてね?私の分までいっぱい、いっぱい・・・。愛してあげてね・・・?約束して・・・?』
『・・・あぁ!約束する!それに俺はお前の事は絶対忘れない!絶対だ!』
レオンも涙を流しながら答えた。二人を包む悲しくも幸せな空気に全員がうっすらと涙ぐんでいた。
『・・・ふふ、いい友達がいっぱいいて良かった・・・。名前も知らないけど・・・皆さん、レオンをよろしくね・・・?』
クリスが見回しながら告げると、全員が同時に強く頷いた。
『じゃあ・・・もう行くね・・・バイバイ・・・レオン・・・』
その言葉が届く前にレオンはクリスの事を強く、強く抱き締めていた。
『・・・ゴメン、ゴメンな・・・』
『もう・・・泣かないで?。・・・レオン、おっきくなったね・・・おっきくて、暖かい・・・。凄く幸せだよ・・・最後は好きな人の胸の中なんて・・・まるでお姫・・・』
話している途中にクリスを包む光が強まり、光が消えた頃にはクリスの姿は消えていた。
『・・・』
レオンは何も言わずただ抱き締めていた腕を見つめ静かに涙を流していた。
『レオンさん・・・』
パチパチパチ・・・
リィムが話し掛けようと近寄った瞬間、どこからともなく拍手が起こった。全員はいきなりの事に戸惑いながらも周囲を警戒した。
『誰っ!?』
一番早く反応したレイナは音のした方向を警戒しながら見た。そこには・・・
『大変面白い余興でしたわ♪・・・まぁ残念なのは男が死なない事ですわねぇ・・・。悲劇になれば私もすこーしは涙を流しましたのにwww』
高飛車な発言、どこか気品を感じる佇まい、溢れ出る魔力とドス黒いオーラ。桐生とミントは即座に理解した。コイツが今回の事件の黒幕だ、と。
『・・・エヴィー!!!』
桐生の怒声は静かになった村に響く開戦の狼煙のようだった。

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