異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第13節 ジークハルト(魔法)の試験①

『ふ、ふわぁぁぁぁぁぁあ・・・』
桐生は大きなあくびと共に目が覚めた。まだ朝になって早かったのか空は若干暗い。
『寝直すかな・・・飯の準備も要らないし・・・ぐぅ・・・』
桐生は寝ようと布団にまた潜り込んだ。その時。
ギシッ・・・ギシッ・・・
誰かが歩いてきたのだろう。床が軋む音に反応し桐生は起きた。
『(こんな朝方に誰だ・・・?殺気はない・・・か)』
そんな事を考えているうちに足音は桐生の部屋の前まで来て止まった。桐生は少なからず緊張していた。初めての異世界、初めての環境、何が出るか分からない状況でこれは心臓に悪い。いくら殺気がないからと言って油断は出来ない。桐生は布団の中で魔法を発動する為に集中し始めた。
ガチャ・・・キィ・・・
ギシッ・・・ギシッ・・・ギシッ・・・
桐生は緊張でおかしくなりそうになったが騒ぐわけにも行かず、相手の出方を伺っていた。
『・・・普通に寝てる・・・』
その声は女だった。いや、聞き間違いがなければよく聞く声だった。桐生は魔法の発動は止めて動向を探り始めた。
『(レイナ・・・?なんでこんな朝早くに・・・?)』
『・・・』
レイナは何をする訳でもなく桐生の寝顔をずっと見ていた。
『(き、気まずい・・・っ!起きてましたーとか言ってみるか・・・?でもそれだと逆に怪しいよな・・・なんなんだよいったい!?)』
桐生がモヤモヤした気持ちでいると近くにあった椅子にレイナは腰掛けて、桐生を見つめた。
『なんだかなぁ・・・』
独り言を漏らすと頬杖をつきながら窓枠から外を眺め始めた。桐生はそっと目を開けて確認したが、間違いなくレイナだった。だが、その表情から何を考えているかは理解出来なかった。が、その疑問もレイナの独り言で解決した。
『やっぱり唆されてやる事じゃないなぁ・・・こんなのやっぱり違うよぉ・・・///』
そう言うとレイナは椅子に体育座りをして膝に顔を埋めた。桐生は何となくだが、経緯を理解出来た。要は寮の友達に『ちょっと朝方にでも襲ってきなよwww』的な事を言われ押し切られたのだろう。いざ来てみたら恥ずかしくて出来なくなった、と。
『(まぁ俺に対してそんな感情を持ってくれた事は嬉しいけど・・・そんな経験ないからはずいわっ///!!)』
そんな盛大なツッコミを入れながら桐生はこの状況の終止符を考えていたが、いい案が浮かぶ訳でもないので寝惚けながら起きてみる作戦に出た。
『んぁ・・・?誰か居るのか・・・?』
『ひゃう!?』
『・・・?レイナ・・・?ここでなにしてるんだ・・・?』
『あ、お、おはよう///いや、ちょっと、なんてゆーか・・・///そ、そう!今日魔法の試験だよねっ?!そ、それだから朝練でもどーかなぁ~ってっ!?』
レイナは案の定テンパっていた。桐生はその光景に笑いそうになりながらも堪えて会話を続けた。
『あぁ・・・そう・・・だな・・・w』
それだけしか答える事が出来ず桐生は布団から起き上がり一つ、背伸びをした。笑いそうになるのを誤魔化す為だ。
『行くの・・・?』
『?その為にこんな朝早く起こしに来てくれたんだろ?さんきゅ♪・・・着替えるから出てくれないかwww?』
レイナは着替えるという単語に顔を赤くし一目散に部屋から出ていった。
『わ、わ、ご、ごめんっ///!!』
レイナは扉越しに謝っていたが、当の謝られた桐生は声を出さずに爆笑していた。

ーー
ーーー
『朝練って言っても何するんだ?』
桐生は校庭の様な場所でレイナに聞いた。
『・・・なにしよ』
『おいおい・・・』
桐生は肩を落としていたが、あくまでもこれは誤魔化した結果なのでレイナを責める必要性は無いことは理解していた。
『そういえばこの世界じゃ魔法は詠唱するものなのか?』
桐生は軽く体操しながらレイナに聞いた。昨日の加護の試験では詠唱はしたが特に何か言われた覚えがないので、それが当たり前だと認識していた。
『んーん?無詠唱の人も中には居るよ?ただ、聞いた話だと簡単な魔法のみらしいけど・・・』
レイナも軽く体操しながら桐生に答えた。要は人それぞれらしい。簡単な魔法、例えばファイヤーボールなどの下位魔法は無詠唱がほとんどらしい。
『ふーん・・・なんか曖昧だな』
『私も使えるわけじゃないからわかんないけどね♪』
それもそうか、と桐生は納得した。詳しくは今日の試験で分かるだろうと。
『さて、んじゃま・・・』
『あ、ちょっと待って?』
『ん?』
『勇人ってスキルに詠唱についてなんか持ってなかった?』
レイナには自分のスキルや魔法については説明していたが、確かになんかあったなと桐生はスキルをチェックした。
『無詠唱・・・詠唱時威力増大・・・これか』
確かにレイナの指摘通りスキルはあった。文面から読むに詠唱すると効果が上がるらしい。なんともよくわからないスキルだと桐生は思った。
『ね♪ね?試しにそのスキル使ってみようよ♪』
レイナは興味津々なのか桐生に同意を求めた。
『(確かにどれだけ威力が上がるのか理解しとくのもありだな・・・)』
『よし、やってみるか♪』
レイナは桐生の答えに満足したのか標的用の人形を持ってきた。
『じゃあ、こっちが無詠唱、でこっちが詠唱した方って事で♪』
『おーけー♪』
桐生は人形に対して距離をとり魔法を発動した。
『ファイヤーボール!』
発動すると人形に向かい火の玉が三発飛んでいき人形を粉砕した。
『・・・え?』
レイナはその光景にキョトンとしていた。
『ん?威力が足りなかったか?』
桐生はもう少し魔力をあげれば良かったと思い後悔したが・・・
『ち、違う違うっ!?なんで粉砕しちゃったの?!』
桐生はレイナの言葉に逆にキョトンとした。
『違うのか?』
『違うよっ!ファイヤーボールって確かに相手に飛んでいくけどここまでの威力があるのは見た事ないよっ?!使う人見た事あるけどちょっとした火傷くらいしかダメージなかった筈だよ?!』
その言葉にまたしても桐生は異常だと認識した。つまり・・・。
『・・・詠唱したらどうなんだろ・・・www』
桐生はワクワクしながら次の標的に向けて魔法を発動しようとしたが・・・
『す、ストップストップ?!待って!』
そう言うとレイナは人形から更に距離を取り、加護の魔法を発動した。
『ま、マジックバリアー!!』
そう唱えるとレイナの前方に薄い青い壁が出現した。
『魔法効果遮断か?』
『う、うん。なんかヤバそうな匂いがした・・・w』
レイナは身構え、桐生の魔法発動に警戒した。
『そこまでじゃないと思うけど・・・wまぁいいや、やるぞー?』
『う、うん!』
『焔よ、我が仇なす敵を撃て・・・ファイヤーボール!』
先程と違い、詠唱をし発動するとまず火の玉の大きさが異なった。先程は桐生の世界でいう野球ボールぐらいだったが、今度はバレーボール並になった。そしてその火の玉は標的に向かい飛んでいき着弾。すると粉砕は勿論だがその場に火柱が経つほどの火力を出した。炎が消えると人形の破片一つ残さず全て燃え尽きてしまっていた。
『・・・』
『・・・』
2人はお互いに目を合わせまたしてもキョトンとした。
『な、なにそれぇぇぇ?!』
『す、すげぇぇぇぇぇ!!』
リアクションは別々だったが2人の声は校庭に響き渡り、朝日と共に一日を始めるのだったーーー。

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