異世界呼ばれたから世界でも救ってみた

黒騎士

第1節 さよなら世界、宜しく異世界

カタカタカタカタカタカタカタ・・・
カタカタカタカタカタカタカタ・・・
カタカタカタカタカタカタカタ・・・
・・・
・・・
ギシッ・・・。
『終わった・・・』
男はそう言うと今まで向き合っていたパソコンを閉じながら大きく背伸びをした
『くぅあぁぁあぁぁぁ!!流石に夜の1時は堪えるなぁwww』
独り言を呟きながら先程の仕事を振り返りながら時計を見やった。
『明日も8時にはここに居るのかぁ・・・ま、しゃーねーか』
男はいそいそと帰り支度をしてタイムカードを押しに行った。
『では!桐生勇人!お先に失礼します!・・・誰もいねーけどwww』
男ーー桐生勇人はそう言い残し、会社を後にした。
桐生が居る会社は・・・世の中でいう、ブラック企業の一つだった。なぜそんな所に就職したかは、彼曰く、
『絶対に誰かが困っている筈だ!俺はそんな人たちを救いたい!』
と、言う意味不明な考えで入社し、今現在残業が当たり前になる人間になってしまっていた。だが、当の本人は
『俺が残業するから皆は早く帰れる。つまり!救われてるんだろwww?』
と、少しズレた感覚の為精神的には堪えていなかった。
『でも流石に16連勤は堪えるなぁwww晩飯買って早く帰るっすよwww』
そう宣言すると、さっきまで仕事をしていた人間とは思えない元気の良さで夜の街を走り始めた。
彼ーー桐生勇人は幼い頃から特殊な人間だった。幼少期から自分は正義の味方になりたかった。弱者を助け、強きを挫く。その為に自分自身を鍛え、喧嘩をしても負け知らずだった。性格も明るく(バカ)、周囲からは人気があった。だが、正義の味方を拗らせ、ゲームやアニメなどの主人公になりきる癖があり、オタクとしても極めつつあった。
『帰ったらテ〇〇ズやろうか・・・いや、時間がない・・・でもなぁ・・・』
そんな事を考えながら買った弁当を片手に帰り道を歩いていると、ふと、目の前に黒い塊があった。
『なんだあれ?誰かゴミでも捨てたのか?』
桐生はやれやれといった感じで避けようとした時ーー
ガサッー
黒い塊が動き始めた。
『?!』
その塊は徐々に何かの形をとるように動き始めた。犬・・・よりも大きい、だが大きさ的に自分と同じくらいになる形に桐生は警戒を強め、サッと構えた。
『み・・・つ・・・け・・・・・・た・・・』
たどたどしくだがハッキリと聞こえるようにその塊は桐生に向き直った。
『これは・・・やばいかも・・・?』
そう言いながら桐生はしっかりと構えを取り、相手(?)を睨みつけた。だがその口元はどこか期待する様に微笑を零していた。
『エル・・・サイヌ・・・ルヴォー・・・テプス・・・』
塊は何かを口ずさんでいたがその意味を理解する前に桐生の目の前から忽然とその姿を消した。
『・・・なんだったんだ、あれ?』
桐生は構えを解きながら若干の物足りなさを残して呟いた。
『ま、いーか。疲れてたんだろ』
改めて帰路に帰ろうと足を進めると、一匹の黒猫が現れた。
『なんか今日は黒いのに会うなぁwww・・・おいでおいでー♪』
桐生はしゃがみこんで猫を呼んでみると、猫は気付いたのか近くまで寄ってきた。
『お?こいつ人懐っこいなぁ♪よしよし♪』
背中や喉を撫でてやるとゴロゴロと甘えてくる猫に桐生は更に撫でてやろうとした時にーー
『ニャォ』
猫はひと鳴きして桐生の前から走り去ろうと駆け出したーー大型トラックが来ている車道にーー
『ま、危ねぇ!!!』
叫ぶよりも早く桐生の身体は猫を助けんとばかりに車道に飛び出し猫を抱き抱えた。目の前にはクラクションを鳴らすトラック
『(あー、これは終わったなぁ・・・多分死ぬな。ま、短い人生だったけど、正義の味方に最後にはなれたかな・・・)』
桐生が諦めかけた瞬間、夜にも関わらず目の前が眩い程明るくなった。トラックのライトでは考えられない光量に目を瞑り動けなくなった桐生は次にくる衝撃を構えたが一向にその痛みは訪れず、目をゆっくりと開いてみるとーーーー昼になっていた。いや、それよりもどこか違う場所にいた。そこは・・・太陽のこぼれ日が木々の隙間から降り注ぐとでも心休まる森の中だった・・・
『・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・・・・はぁ?』
そのリアクションこそ正しいのではないかと思う光景に桐生はキョロキョロと辺りを見回した。
そしてーー
『どこだここーーーっっっ?!?!?!』
桐生の雄叫びは森にかき消され、静寂が再び訪れるのであった・・・。

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