異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第142話『毒辣』

「ふぅ……。とりあえず……こんなモンかな。」
周囲を見渡し、残党がいないことを確認しながらマサタが呟いた。
息も絶え絶えで、肩で呼吸しながら。
「じゃあ、とりあえず全員で戻ろうか。」
レンタがそう返す。
そこへ、ビルの屋上にいたキョウカも合流する。
「お疲れ様でした。そうしましょう。」
そう言って、各々がオスプレイの着陸位置へと向かう。
その間も、キョウカはソウタの横をピッタリと歩いていた。

「ママ………ママ……………」
「キミ!早くこっちにおいで!建物の中に逃げるんだ!」
瓦礫の山。転がる亡骸。その中で立ち尽くす少女を見て、赤橙色の髪をした少年、初由ういよしテルヒコは、そう叫んだ。
その少女と共に、近くにあった民家の中へと逃げ込んだ。
「もう大丈夫だからね。心配はいらないよ。」
優しく、少女の頭を撫でる。年齢は7,8歳だろうか。
「うぅ……うぅぅう……………」
嗚咽を漏らす少女は、以前俯いたまま。
「残念だね……悲しいね………」
優しい声色で、テルヒコは少女の頭を撫で続ける。
「ママが………ママがぁあ…………っ!」
恐らく母を失ったのだろう。
一度安全な場所に身を置き、それまで放置されていた喪失感と悲哀が、瞬間的に押し寄せる。
涙を堪える余裕があるほどの齢でもない。その少女には、あまりに過酷すぎる現実だった。
「大丈夫。すぐにお母さんに会えるからね。」
テルヒコはその場にかがみ込み、その朝焼けのような、円らで垂れた黄色い瞳で、少女の顔を真っ直ぐに見つめた。
「………………ホントに……?」
戸惑いながらも、希望の光が差し込んだ少女は、顔を上げ、テルヒコの顔を見る。
「うん。」
優しく微笑むテルヒコに、少女は確かな安堵と喜びを感じた。
次の瞬間。
バゴァッ。
鈍い音と共に、少女は右手側へと吹き飛ぶ。
「そりゃそうだよ。今からキミは死んで、あの世でお母さんと再会できるんだから。」
「…………?………?」
全く状況が掴めず、少女は困惑しながら自身の左頬をさする。
どうやら、今しがた自分の左頬を殴打したのは、眼前で優しく微笑む少年らしい。
「いやぁ……やっぱり出撃は、めんどくさくて嫌いだなぁ…」
独り言のように、テルヒコは呟く。
「まあでも、一人ぐらい殺してもバレないって言うのは、お得だけどね……。はぁ、めんどくさ。」
そう言いながら、下卑た視線を少女へと向ける。
「い……いや………」
思わず後ずさる少女。しかし、逃げ場などない。
「なんで逃げるの?ママに会いたくないの?」
先刻と同様に、優しく心配するような口調で、テルヒコが言う。
だがそれは、先刻と異なり、安堵も希望もない。恐怖と絶望だけを与える、恐ろしい口調へと変化へんげしていた。
「いや!いやぁ!だっ、誰かっ!!誰か助━━━━━━」
少女が助けを求めようと叫んだ、その瞬間。
先程の殴打と異なる強烈な衝撃が、再び左頬に叩き込まれる。
「めんどくさいなあ…。静かにしててよ………。」
ジャラジャラと、鎖の音が響く。
テルヒコは、右手に持ったヌンチャクで、少女の左頬を殴ったのだ。
「あぁ…あがぁぁあ…………」
ヌンチャクにより顎関節を破壊された少女は、もう言葉という言葉を発することができない。
だらしなくあんぐりと開いた口から、間の抜けた声と、血の混じった唾液を漏らしている。
怯える少女を一瞥すると、テルヒコは天井を仰いだ。そして。
「……んぁぁ………っ!!気ン持ちいぃい………!」
身震いしながら、そう叫ぶ。
見ると、股間には不自然な膨張。
間違いなく彼は、性的に興奮していた。
「ああぁぁあ……!あががぁああ!」
あらゆる恐怖が少女の全身の毛を逆立たせ、本能が逃走しようとする。だが。
「静かにしてって言ってるでしょ。めんどくさいなあ。」
逃げるために立ちあがろうとする少女。
その足を、テルヒコはまたもヌンチャクで殴った。
「ぁぁああああああ!」
バランスを崩した少女は、俯せに転倒する。
左脚の脹脛から、止めどなく血が流れている。
慌てて視線をテルヒコへと移すと、先程までなかった刃が、ヌンチャクの柄から真っ直ぐに伸びている。
そこから血液が、ぽた、ぽた、と、滴っている。
早く。早く逃げないと。
その一心で、這い蹲って逃げようとする。が。
今しがたついた傷口に、指を突っ込まれ、引きずり戻される。
「ぇぇぇええええぁぁぁぁああああああ!!!」
獣のような絶叫が響く。
激痛に涙が滲み、恐怖で手が震える。
しかし、そんな少女を引き戻すと、テルヒコはその少女を乱雑に仰向けにし、マウントポジションを取った。
「ぼく、うるさいの嫌いだからさ…。ちょっと黙っててね。」
そう言い放つと、ヌンチャクの柄から伸びた刃で、今度は少女の喉元を掻き切った。
「────────ッ!!」
声にもならない吐息が、口ではなく、喉元から溢れる。
人間は声帯から発声するため、それ以下の気管に穴が開くと、発声が困難になる。
しかし、残酷なことに、それは決して致命傷ではない。
「あぁ………怯えちゃって……可愛いねぇ………………」
恍惚とした表情を浮かべながら、テルヒコは少女の体にザクザクと、刃を突き立てる。
その度に、苦悶の表情を浮かべ、大粒の涙を垂れ流す少女を見て、テルヒコはまた、興奮で身震いをする。
前腕、肩、大腿、股関節。と、逃走に必要な筋肉を破壊し、それからは、下腹部から胸部へ向けて、ゆっくりと、そして丁寧に切り刻んでいく。
腹圧によって、腹部の傷口から溢れた臓物を引き摺り出すと、小さな口から現れた大きな赤い舌で、それをベロリ、と、舐め上げる。
少女は、コヒュー、コヒュー、と、呼吸の音を喉から鳴らしながら、その様を眺めることしかできない。
そして、怯え切った彼女の表情を見て、頬を赤く火照らせ、幾度目とも知れない恍惚の表情を浮かべる。
「ん゛あ゛ぁあ〜〜…っ!コレだけで今日頑張った甲斐があるよぉ〜………。」
まるで、仕事終わりに酒を煽る社会人のような口ぶりで、舌なめずりをしながらそう言い放つ。
 テルヒコは、そのまま屈み込むと、息の漏れる少女の喉元から、赤く腫れた左頬へと舌を這わせた。
粘度の高い唾液が、ねっとりとその痕跡を残す。
行為、変態性、感触、温度、その全てが、吐き気を催すほどの嫌悪感を抱かせる。
「あ゛ぁぁあ〜〜……。堪らないねえぇ〜〜…………。もう“イッ”ちゃいそうだよ…………」
生暖かい吐息混じりの声が、少女の左耳に吹きかかる。
それを最後に、少女は自分の意識を手放してしまった。
「……あーあ………。ここからが楽しいのに…………」
テルヒコは、残念そうな口調でそう言う。
態度こそ、幼い子供のようだが、残忍で下劣なその行動は『幼稚』の一言では片付けられぬほどのものだった。
すると。カツ…カツ…。と、小さな足音が響いてくる。
「はぁ……。今日はここまでかぁ……めんどくさいなあ………」
戸が開くまでに『コレ』をなんとかしなきゃな……。と、テルヒコは考え、小さくこう呟いた。
「…開華……〈夢現返換Nature Reverse〉…………」
ガチリ、と、扉が開く。
「初由さん……?」
開かれた扉の向こうにいたのは、キョウカだった。
「ん〜?どうしたの〜…?」
いつもと変わらない間の抜けた声で、テルヒコは問いかけた。
「い、いえ何でも……。もう皆さん引き揚げる準備ができてますので……呼びに来たんですけど…。」
周囲には、もう少女の姿はおろか、血痕一つ残っていない。
テルヒコの才華により、消し去られたのだ。
「そっか〜……。んじゃあ行くよ…。めんどくさいけど…。」
露骨に機嫌を悪くしながら、テルヒコは歩き出し、その後ろをキョウカが付いて行く。
その時。ポタリと一滴、血が滴った。
それは、ヌンチャクの柄の刃から滴ったものだった。
その雫を、キョウカは怪訝に見つめながら、二人は民家を後にした。

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