異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第131話『花晨』

それじゃあ。と、キョウカが話を切り出した。
「健康状態と運動機能に問題はなさそうだから、検査の方に移るわね。申し訳ないけれど、体の拘束をさせてもらうわ」
そういうと、ベットに腰掛けるハナに大きな手錠を掛けた。

「これは学園製のもので、才華の使用を封じるし、学園の敷地から一定距離離れると起爆するわ。本当はこんなものつけたくないのだけれど、貴方の才華や根核者が分かるまでは我慢してちょうだい」
申し訳なさそうに、眉間に皺を寄せながらキョウカがそう言う。
「素性が知れないんだ、当然だろう。萩澤も態々腰を低くする必要はないだろ。」
そこへソウタが割り入った。
「で、でも…。彼女に抵抗の意志はなさそうだし……。」
「抵抗する者が不用意にその意志を示すわけがないだろう。お前はもっと人を警戒した方がいい。」
「そ、そう…かな………?」
不安そうな視線で、ソウタとハナを交互に見た。
「まあ良い。ソイツは俺が浜曷先生の元へ連れて行く。」
ソウタはそう言うと、ハナに立ち上がるように促した。
そしてそのまま、2人は浜曷の元へと向かった。


ソウタが職員室の扉を二度ノックして、1,2分して、浜曷が出てきた。
廊下では、蒸し暑い風が、セミの鳴き声を投げ込んできていた。
「浜曷先生、彼女に運動機能と健康状態に異常はなさそうなので、心華と根核者の診断に移りたいと思います。」
「了解いたしました」
事務的で無機質なやり取りを終え、三人は植物室へと向かった。
しばらく歩いて、ようやく植物室の札が見えた。摺りガラスの向こうに、緑が生い茂るのが確認できる。
「木下先生。例の少女の、心華の診断を行いたいのですが可能でしょうか?」
「………………………んぅ……はあぁいぃ?」
眠たげな眼をこすりながら、今にも死にそうな声で返事をしたその女性は、膝まで届きそうな綺麗な深碧の髪を揺らしながら、ゆったりとした足取りで植物室から出てきた。
病弱そうな生白い肌と、生気のない紺碧の眼は、羸痩るいそうしきった体と高い身長と調和し、見事な恐ろしさを醸し出している。きっと彼女の姿を夜中に見かけようものなら、悲鳴を上げて逃げ出してしまうだろう。
「例の彼女です。心華の診断をお願いします」
「ぁあぁ〜、君がぁ…この前の【排斥対象】との戦闘の時にぃ……出てきた子だねぇ~…………?」
容姿と口調とが相まって、さらなる不気味さを醸し出す。
「それじゃあぁ………こっちに来てねぇえ………」
「し、失礼します」
植物室の中へ入り、一つの扉を超えると、そこには神木のような大樹が聳えている。
「……はいぃ………じゃあぁ、その木に手を当ててねぇ……」
木下がそういうと、一台のディスプレイの前に立ち、キーボードを叩き始めた。
言われた通りにハナは右手を大木に触れさせた。同時、大木が、蓄光素材が光りを放つように淡く緑色に輝き始めた。
そのまま待っていると、次第に光が弱まっていき、やがて元の大木へと戻った。
「はぁい、おしまいですぅ…。あとぉ、これがアナタの心華ですぅ…」
木下は、相変わらず間延びした声と共に、持ってきた紙をハナへ手渡した。
玫瑰ハマナス…………ですか……」
「…………とっても素敵ですねぇ………」
「……素敵…ですか……?」
木下の口から放たれた言葉に、少し動揺しつつもハナが問いかけた。
「ええぇ………バラ科のお花でぇ………綺麗なお花とぉ……甘い香りが特徴なんですぅ………」
ハナは手元の紙面を見つめながら、木下の話を聞いていた。
玫瑰ハマナス…ですか……」
同じ言葉を、壊れたようにもう一度呟く。
「それとぉ…これがぁ、あなたのアテスターですぅ…」
そう言って、木下はアテスターを手渡す。
ハナは、手渡されたアテスター見た。
正面に玫瑰がデザインされていた。小さな、淡いピンク色の花。
「ありがとうございました…」
ハナは、浜曷によりアテスターを早速首に巻かれ、植物室を後にした。

玫瑰ハマナスぅ……ねえぇ………」
人のいない植物室で一人、木下は咲き誇った玫瑰を眺めながらそう呟いた。
あくまで都市伝説程度ではあるが、こんな噂を耳にしたことがある。
『心華がバラ科のものは、学園の中でも特に強力である』
気にするほどの事でもないだろうが、ここ最近は心華にバラ科が現れる生徒は少なかった。
「……『悲しく、そして、美しく』……」
植物室に反響した木下のその言葉は、他ならぬ玫瑰の花言葉。
静かな植物室には、美しい花々と、それらが立てる香りが満ちているばかりである。
木下は、少し冷めたローズティーを一口すすった。

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