異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第121話『憎悪』

「オマエ、RenaTsukushi、キライ?」
「……………はっ?」
そのあまりにも突飛な質問に、思わず疑問の声が漏れる。
「オマエ、RenaTsukushi、キライ?」
その人影は、口調一つ変えずに同じ文言を繰り返した。
「………えっ?な、なに……?」
ハナは再び聞き返した。
だがその言葉の中には、現在の状況や、相手の素性など、理解できていない要素への疑問も混じっていた。
しかしそんな意図は相手には伝わる事は無く、その人影は同じ文言を繰り返した。
「オマエ、RenaTsukushi、キライ?
依然として口調に変化はない。だが、どこか急かす様な雰囲気を内在させていた。
「私は………お姉ちゃんのこと……………」
僅かな沈黙。五秒か十秒か、もしかすると一秒にも満たないような、一瞬かもしれない。
そんな短い時間の中で、ハナは今までレナと過ごしてきた時間を思い返した。
冷たい口調とは裏腹に、いつも私を心配していた。
厳しい言葉は、私への心配の表れだろうか。
私と違って、頭も良くて、勉強もできた。
私はそんなお姉ちゃんのことが……………。
その沈黙の後に、ハナは答えた。
「──────────────────────────大っっっ嫌いだよね!」
その叫び声は、人影とハナの空間内で二、三度反響を行ったかと思うと、すぐに静寂を連れてきた。
そして、遅れて人影が笑った。
「I see。オマエ、RenaTsukushi、キライ。RenaTsukushi、シンダ。RenaTsukushiノPLOWER、オマエ、ツカエル」
「…………えっ?」
ハナは幾度目とも知れない疑問符を浮かべた。
しかし、その人影は、そんなハナを気にも留めず、こう呟いた。
「Brooming………… 〈GEN0ME─TakeAway移捻〉」
そう言いながら、未だ寂し気にハナの手の中で佇んでいるレナの左手に触れた。
瞬間、ぼんやりと発光するオブジェがレナの左手から出現する。
大きさは30cm程度であり、赤と青の二重螺旋が四色の柱により繋がっている。
そんなものを、一体どうやって遺されたレナの左手から取り出したのか。
考えるまでもなく理解する。
間違いなくこの超常的な現象は、才華が関与しているものであると。
だが、その人影の才華を推察するよりも先に、さらなる情報がハナの頭に飛び込んでくる。
それは、その人影が放った一言によるものだ。
「Hey! Come on!」
その声に応じるように、背後からもう一つの影が現れる。
その影は、二重螺旋のオブジェクトを手に取ると、それをハナの額に押し付けた。
そして、その影は女の声でこう呟いた。
「Brooming…………………〈GEN0ME─Include遷續〉」 
その言葉と共に、ハナの全身を電流が流れるような衝撃が駆け抜けた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
それは、「痛み」という言葉で言い表すにはあまりにも強すぎる衝撃。
それが脳内のみで執り行われているものであるのか、はたまた比喩でもなく全身に何らかの科学的反応が生じているのかは定かではなかった。
ただ一つ、確かに言えることがあるとすれば、それは、この感覚はハナが今まで人生で一度も感じたことがないような痛みであるということだろう。
声帯が切れ、喉が裂け、口腔内が血で満ちていく。そんな感覚を、痛覚の向こうでぼんやりと認識する。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い────────────────────イタイッ!
まごうことのない純然たる痛みは、肺腑を満たし、血流に乗り、脳内をかき乱していく。
そんな、不可解なまでに圧倒的なその激痛にハナは、悶え、喚き、苦しんでいた。
見開かれた眼は、天空のその向こうを望んでいる。
人間の声とは思えないようなその絶叫は、空間を震わせ、遥か彼方へと伝播していく。
そんなハナの姿を見て、二つの人影は不敵に笑っていた。

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