異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第116話『煢煢』

白い、白い、その空間で、じんわりと視界が戻っていく。
まるでホワイトルームのようだが、一つだけ異なる点は、どれだけ歩いても壁にぶつからないということだ。
そんな謎の空間の中で、盡ハナは、どうすればいいかわからず、ただ歩を進めることしか出来なかった。
「あ!」
そう短く大きな声を発するが、その声はどこかへと消えてしまう。
「どこなんだろうね……ここ…………」
ハナは不思議そうに小首を傾げてみるが、当然答えなど出るはずもない。
ふと、背後から声が聞こえた。
「ハナ」
その声を聴いて、振り返る。
するとそこには、姉のレナが立っていた。
さっきまで、どこを見ても一面の白しかなかったこの場所に、突然姉が現れた。
「お姉ちゃん?」
目の前にいるその人が、幻などではないことを確かめながら、問いかける。
「お姉ちゃん?お姉ちゃんだよね?」
その顔を見た時点でその人物が盡レナであることは理解していた。だが、それでは足りないのだ。
この訳の分からない空間に自分と姉だけが存在している意味が理解できないのだ。
しかしレナは、その問いかけに答えることはなく、今度はハナに対して質問をしてきた。
「ねえ、ハナ。あんたは──────どうしたいの?」
その問いかけの奥にいる真意を、見抜けない。
答えに詰まってしまう。
必死で思考を巡らせる。レナがどんな回答を期待しているのか、考える。
だが、途中で何だかどうでもよくなってしまった。
ハナは、とぼけたように、快活にこう返した。
「私はねー、海に行きたいね!」
「ふふ。もう………何言ってるのよ」
その満面の笑みを見て、釣られてレナも微笑む。
久々に、姉の笑顔を見た。
こんなに素敵に笑える人だっただろうか。長らく見ていなかったせいで、忘れかけていた。
それでも、笑った時に右手の甲を口元に運ぶ癖は、昔と同じだ。
「いいでしょ?海、私は行きたいね!」
「そう。それじゃあ、行きましょう?」
微笑みながら、それでいて冗談めかしていない真剣な様子でレナが返す。
「えっ?いいのっ!?」
レナの返答に思わず戸惑ってしまう。
何がしたいと問われ、ふざけ半分のつもりでした返答を真に受けられてしまったのだ。
「何よ、あなたが行きたいって言ったんじゃない」
そのレナの言葉は普段のように高圧的ではなく、ただ、ハナの反応を面白がっているようだった。
「そ、そうだけどね………」
「何か不満でもあるの?」
俯いたハナの表情を窺うために、レナが心配そうに顔を覗き込む。
「いや、そんなことないよね!お姉ちゃんとお出かけなんて…久しぶりだなってね!」
「そうね、とっても久しぶりね」
僅かな沈黙が訪れる。
その沈黙が、二人が蓋をしていた両親との不快な記憶を貪り始める。
その沈黙を邪魔したのはハナだった。
「あ!じゃあね!一緒に連れて行きたい子がいるのよね!椎名祥子っていう子なんだけどね、ちょっと言葉遣いは荒いけどね、多分お姉ちゃんとも仲良くなれると思うのよね!ダメかな?」
きっと、彼女と三人ではしゃぐ海は、この上なく楽しいのだろうという妄想を浮かべながら、レナに提案する。
「ふふ。いいわ、連れて行ってあげる。ハナのお友達だもの、良い子に決まっているわ」
「ホント!?やったねー!」
優しく許諾したレナのその笑顔につられ、ハナも表情をより一層明るくし、跳んで喜ぶ。
「やっぱり、強いのね…。ハナは。」
その声はハナの鼓膜を確かに震わせる。だが、ハナにはそれが声であると認識するのが精一杯。それがどういった単語なのかを理解するには、あまりに声量が小さすぎた。
「ん?どうしたのね?」
その言葉を理解しようと聞き返すハナ。
「ううん。何でもないわ」
レナは下手な微笑を作って誤魔化した。

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