異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第108話『莞爾』

走って。走って。息が切れて。
もう、視界も明滅している。
それでも全身に力を込めて、再びアレの眉間目掛けて、弾丸を放つ。
やはり効果はなく、その弾丸は固い顔面の皮に弾かれてしまう。
それに気づき、アレはまたもや大きな咆哮を上げる。
「……文句…言わないの…………」
駆ける。駆ける。今までの疾走は、これに接近し、ハナから離れることでハナへの被害を抑えるためのもの。
だがこの疾走は、違う。
十分に接近した為、これから先はこの排斥対象が繰り出す攻撃を躱す為の疾走。
すぐ近くの海岸から、磯の香りが鼻を抜ける。
そのはずなのに、血の匂いが鼻腔を満たすせいで、この風景も台無しだ。
「……………良いわね、水平線…………。綺麗よね…………」
ここまで離れれば、ハナにも被害は及ばないだろうか。
こうすれば、ハナも生き延びられるだろうか。
そんなことを考えていると、またもや眼前へと触腕が迫る。
水平線をぼんやりと眺めながら、レナはノールックでその触腕を打ち抜いた。
もう、発砲の衝撃にも鈍痛にも慣れてしまった。
いや、慣れたのではなく、麻痺してしまったのだろう。
視界の端に巨大な花火が映り込む。
それは、大きな観覧車がライトアップとして輝く、電気的な花火だった。
そんな無機的で機械的な花火でさえも、今は美しい。
「………花火……何年ぶりかしら……………」
これが、人生で最後に見る花火だろう。
「私、負けちゃうなぁ……」
不思議だ。
私は、最初から負けると分かっていたのに。
最初から、最期の戦いと分かっていたのに。
寂しいなあ。
悲しいなあ。
虚しいなあ。
死にたく、ないなあ。
それでも、諦めない。
「一応、サイゴまで足搔くわ」
再び、視線を排斥対象へと向ける。
それは巨大で、強大で、絶大で。
勝ち目なんてないと分かっている。
不思議と、排斥対象と目が合う。
「…………どうしたの?」
言葉なんて通じないと知りながら、虚ろな声と瞳で問いかけた。
幾度目とも知れない咆哮が、レナの鼓膜を貫いた。
まるで、レナと排斥対象とがコミュニケーションを取っているようだった。
レナは………………不敵に笑った。
「………ふふ……大嫌いよ…………」
瞬間、レナは銃口を排斥対象へと向けた。
銃声が、冷たい水平線を、僅かに揺らした。

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