異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第101話『磯目』

同時、別機体で一人、弾薬と銃の動作の確認をする少女。
その朱色のショートヘアーを機体の揺れに任せながら、コッキングレバーを引く。
「ハナ、大丈夫かしら………」
心配なのは、自分よりもハナである。
あの子は昔から、友達の為に自分を犠牲にする子だった。
この学園に私たちの両親はいない。
もっとも、いたところでどうせ役には立たないが。
だから、私が母に代わらなくちゃ。
だから、私がハナを育てなくちゃ。
だから、私がハナを守らなくちゃ。
いや、こんな言葉は単なる綺麗事に過ぎない。
私の心に巣食う、醜い孤独感を掻き消したいだけかもしれない。
誰かに憐憫の視線を送りたいだけかもしれない。
ただ、私がハナと一緒にいる口実が欲しいのかもしれない。
手のひらに乗った弾丸は、体温で温かくなっている。
ああ、戦闘が───────────────始まる。
レナは生暖かい弾丸を、その大きなスナイパーライフルへと装填した。

「うっわぁ…………でけぇ……………」
マサタは排斥対象の巨体を目の当たりにし、そんな声を漏らしてしまった。
体高300mという文字だけを見るだけでは想像できない大きさ。
隣にある観覧車が、まるでずっと遠くにあるかのように見える。
そんな、遠近感覚を蹂躙するかのような巨躯は、今なお咆哮を続けている。
マサタやコウジを筆頭とするSSクラスの生徒は、既に現場に到着。
その排斥対象の駆除にあたっていた。
だが、あまりに大きすぎるため、近づくことすら躊躇われてしまうのだった。
そして大きさよりもマサタたちの戦意を掻っ攫うのは、その見た目の禍々しさだ。
その体は、太く長い蛇腹状になっており、その先端部分には巨大な人面がある。
その大きく開かれた両瞼からは、今にも眼球が零れ落ちてしまいそうだった。
視線が合うたびに、強烈な吐き気と悪寒がマサタの体中を襲った。
また、その体躯の左右からは無数の触腕が生えている。
その触腕は、人間の腕の形をしている。だが、大きさは、一本一本が15mと巨大である。
だが、何よりもマサタの嫌悪感を引き立てたのは、その口である。
大きく開かれた口の両脇からは、昆虫の顎のような部位が大きく露出していた。
時折それが上げる咆哮は、人間の悲痛な叫びに酷似している。
海沿いの町で育ったマサタはすぐに気がついた。
これは、ゴカイだ。厳密に言えばオニイソメである。
大型のものは体長が3mを超えるそれは、水槽越しに見るだけでも十分な不快感を味わうというのに、それが体高300mにもなると不快感という範疇を外れる。
「コウジ、行ける?」
マサタの背後で、ヒカリがコウジに問いかけた。
「え?逆に聞くよ?行けると思う?無理だよ?死んじゃうよ??」
コウジはその問いかけに対して、戸惑ったような返事をした。
「そうよね………あの大きさの排斥対象を見るのは、アタシもこれが初めてよ」
「……アレ………気色悪いな…………」
うねうねと体をくねらせながら、触腕で建物を破壊している。
その触腕が触れた物体には、血のように赤く、強い粘り気を持った粘液のようなものが付着している。
「でも、誰かがやんなくちゃなんないんスよ」
振り返らずに、マサタは背中越しに言った
「……いや、違うぞ。マサタ」
その発言に、サナエが食いついた。
「誰かじゃない。我らだ。我らに、他者へ縋るという選択肢は無い」
「おめェらァ!突ッ立ッてねェで早くしろァ!」
そんなマサタたちを見て、アツシが腹立たし気にそう叫んだ。
確かに、いつまでもこうしてはいられない。
しかし同時に、どんな攻撃が有効であるかもわからない。
先ずはサンプル数の獲得のため、一般的な武力攻撃を行うしかない。
「………レンタ!」
そう叫んだのは、サナエだった。
「うん!開華っ!〈不可視疾走Contract Transfer〉」
レンタはサナエにそう答えると、彼女の左手を握り、地を蹴った。
瞬間、レンタとサナエは姿を消した。
「……………えっ?」
素っ頓狂な声が、マサタの喉から漏れる。
「これがレンタの才華よ。平たく言えば瞬間移動。厳密には、自身と自身の触れている物体の最も離れた二点間を直径とする完全真球の空間を、空間ごと素粒子以下の大きさまで圧縮て光速で移動し、才華行使前に視認した任意の空間まで移動して、圧縮した空間を展開する才華よ」
「………………えっ??」
ヒカリのその発言により、かえって理解が出来なくなってしまった。
ひとまず理解できたことは、瞬間移動のような能力であるということ。
「じゃあ、アタシたちも行きましょう」
「ああ」
ヒカリ達も、レンタとサナエを追うように駆け出した。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品