異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第93話『劣者』

「見て見て、あなた。私たちの子よ!」
「あぁ…お前に似てかわいいな」
「ふふ、でもこの目元なんてあなたによく似ているわ」
「これでレナもお姉ちゃんだな」
幸福を具現化したような声音が、その部屋に響いた。
それは、二人の会話ではない。
小さな体躯から放たれる、産声だ。
2002年、九月七日。
生まれたばかりのハナは、力いっぱいに自身の生を証明していた。

ハナは、裕福な家庭で育った。
父は弁護士として成功しており、彼への仕事の依頼は止まるところを知らない。
そして母は有名な生物学者であり、斬新な視点から物事へと切り込み、綴られる論文はその殆どが賞を受賞しており、世界中に彼女のファンがいた。
そんな二人の天才の間に、レナとハナは生まれた。
両親は、自身の子供に深く愛情を注いだ。
世の中に出ても恥をかかぬようにと、幼いころから英才教育を施した。
レナは両親から買い与えられた参考書をひたすらに読み込み、幼くして様々な知識をその頭に蓄えていった。
その恩恵を十分に受けたのか、はたまた、天才の遺伝子の影響か、姉のレナは勉学においてその優れた才能を発揮した。
小中と、常にその成績はトップ。
運動は平凡な成績だったが、両親にとっては我が子がテストで好成績を修めることこそが、何よりも誇らしかった。
対して妹のハナは、勉強を得意としなかった。
というのも、両親が買いそろえた教材などには目もくれず、ひたすらに外で友人と遊んでいたからだ。
だが、両親は特に咎めもしなかった。それは、ハナがスポーツにおいて秀でた成績だったからだ。
スポーツ大会などが催されれば、その表彰台の頂上にはいつも満面の笑みを浮かべたハナが立っていた。
こうしてレナとハナは、それぞれ異なる分野においてその才能を発揮していた。
孤高の天才レナと、人望厚いスポーツ万能なハナは、近所ではちょっとした有名人だった。
そして、月日が流れ、レナが中学二年生に上がるころ。
──────ハナは、両親に厳しく叱責されていた。
体育の授業にて、その肘を故障してしまったのだ。
「お前は勉強ができないんだから、スポーツもできないお前なんて誰も必要としないぞ」
「怪我なんてどうとでも防げたでしょう?どうしてこの子はこうも頭が悪いのかしら…」
「大体、お前は昔っから勉強から逃げて、自分の好きな事ばかりして、恥ずかしくないのか」
「少しはレナを見習ってほしいわ…」
呆れ返ったように叱責を続ける両親。
「…………はい、ごめんなさい…………」
それに対して、こう返す他なかった。
「またそう言って。ホントにわかってるの?」
「レナは頑張って勉強して中学受験にも成功してるのに、お前は運動成績だけで入れただけなんだぞ」
「……ごめんなさい……………」
「全く、恥をかかされる父さんの身にもなってくれよ」
「なんでレナはあんなに良く出来た子なのに、ハナは何もできないのかしら…」
心無い言葉は、ハナを衰弱させるのに十分すぎる毒性を有していた。
両親はレナとハナに深い愛情を注いで育てた。
ただそれは、二人の為ではなく、自分たちの面子や体裁の為に他ならなかった。
レナは優秀に育った。
優秀な、二人の自慢のための道具として、育った。
ハナは不出来だった。
両親は不出来なハナを憎んだ。
「自分たちの面汚しだ」と。

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