異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第62話『増援』

ヒカリの遥か後方。一際高いローラーコースターの最高到達点に、人影が確認できる。
「おい、ヒカリ。今、何した?」
コウジは思わず問いかけていた。
つくしレナ。A+ランクの生徒よ。彼女の固有武器がスナイパーライフルだから、それで撃ち抜いてもらったの」
「い、いやでも!あそこからここまでは直線でも1500メートルはあるぞ!」
直線距離で1500メートルと言う事は、実際に弾丸が描く軌道は三平方の定理に則り、1500メートルよりも長くなるはずである。
そんなことを考えていると、コウジのアテスターからも声が響く。
「初めまして。A+ランク16位、盡レナと言います」
彼女がそう言うと、今度はまた違う声がアテスターから鼓膜を震わせた。
「はぁっ……はぁっ……。妹の…盡ハナ……ですっ………」
その声は荒く、息が上がっている。
まるで、今尚走り続けているかのような…。
瞬間。
「さよならねッ!!!」
ハナという少女の声が、そう叫ぶ。
同時。
ドグォォン!
爆発音が鼓膜を、衝撃が皮膚を揺るがす。
方角は、先刻までマサタがいた方位。
振り返る。まさか…マサタがまた何か行動を起こしたか?
だが、視界はその推測が過ちであると示した。
そこには半径2メートルほどのクレーター。
飛び退くマサタ。
そして…………巨大な戦斧せんぷを振り下ろした緑髪の少女。
少女の体は、重心位置の変化と戦斧の柄の回転に耐えられずに、体が大きく地面から離れている。
「すばしっ…こいねー。逃げら……れちゃっ…たねー」
少女が肩で息をしながらそう言う。呼吸くらい整えてから喋ろう。
「うぜえんだよ!!」
マサタが体勢を立て直しながら叫んだ。
その手に握られた薙刀のきっさきが、ハナの首筋目掛けて空間を駆ける。
しかし、鋒は獲物を捕らえることなく空中を裂く。
ハナは大きく仰反ることで、その攻撃を回避していたのだ。
さらに、掴んでいる戦斧の取手を強く引いた。
戦斧の刃が深々と地面に食い込んでいるため、戦斧は移動しない。代わりに彼女自身の身体がマサタのいる方向へと移動する。
そのまま彼女の右足の踵が、マサタの顎を蹴り抜こうとする。だが。
マサタはその右足首を掴むと、薙刀を逆手に持ち替えた。
そして、彼女の鳩尾みぞおちを突き抜こうと振り抜く。
だが、またしても鋒は獲物を見失ってしまう。
彼女はその圧倒的な速度の反応により、マサタの薙刀を躱していた。
というのも、彼女はその上半身を捻り、地面と垂直であった背を地面と平行にした上で、空いた左足で戦斧の柄を蹴り、一気に上体を起こすことで攻撃を回避したのだ。
次いでハナは右手で拳を作ると、容赦なくマサタの顎を振り抜いた。
瞬間。一気にマサタの視界が大きく揺れ、手元から力が抜けていく。
当然、空中という不安定な状態で放たれた攻撃は、十全な威力を発揮しない。
それでもハナの拳がマサタの意識を揺るがすことができたのは、彼女自身の戦闘経験の豊富さと、身のこなしの巧さによるものであると言えるだろう。
ハナはそのまま、今度は左脚の膝でマサタの顎を蹴り抜く。
大きく姿勢を崩したマサタは、地面に尻餅をつく。
その様を見下すように、ハナが言い放った。
「まー、何でこんなことしたのか、学園で聞くねー」
立て続けにダメージを加えられたマサタの顎は、鈍い痛みを発している。
視界が定まらず、相手の発言を理解するので精一杯である。
だが、一つだけ察したことがあった。

(ここで負けたら………負けたら……)

「あのゴミ共以下じゃねぇかぁあああああああ!!!!!!!!」
そう叫ぶと、跳ね起きの要領で一気に体を起こす。
同時に、地面に傾斜のついた3次元を作る。
まるでそれは…スターターブロックのような。
それを蹴ると、通常では考えられないような速度で、マサタの肉体はハナの元へ動いた。

原理は単純だった。
3次元があらゆる力やエネルギーを完璧に跳ね返すのなら、それに力を加えれば、加えた二倍の力で跳ね返る。
人が走るとき、特にスタートダッシュにおいて、足で地面を蹴り抜くという作用があり、それに対して地面は蹴った足を押し返すという反作用が起こり、肉体は前方へと動き出す。
だが、それが地面ではなく3次元であった場合。加えた力が跳ね返り、さらに反作用が加わる。
つまり、与えた力が1である場合、その力に対し反対向きに生じる力は2である。
これにより、マサタはハナに肉薄する。
圧倒的な速度と、低く落ちた重心は、ハナにタックルをする為であると推察させた。
ハナはそれを見切り、大きく跳躍する。
マサタはハナの下を通過する形になる。
しかしそれは、マサタの思惑通りであった。
マサタは立ち止まることなく直進を続け、それに触れた。否、その人。だ。
鵞糜がびィ!」
コウジは思わず叫んだ。
そう。マサタが触れたのは、未だ身動きの取れぬままのサナエであった。うつろな眼をしたサナエの顔が、マサタに前髪を掴み上げられることで露わになる。
しかし、そんな状況でありながらも、サナエは声を発した。
「どうし…た…。殺す…のか…?ふっ……やはりお前は…×××だな……」
嘲笑混じりのその声を聞き、マサタは叫んだ。
「〈境界超越Manifold Breaker〉ぁぁあ!!!!」
同時。サナエは……………………消えた。
そこに衣服と、刀のみを残して。

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