異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??
第54話『私盟』
喫茶店『FERTILIZER』は、聖アニュッシュ学園の生徒たちの憩いの場である。
営業時間は朝9時から夜10時まで。勉強をする生徒、部活仲間と談笑する生徒。様々な生徒でいつも賑わっている。
だが、夜7時を過ぎると生徒たちは翌日の授業の準備や、家事のために帰宅していく。
そんな静かな店内に二人、男女が向かい合って座っていた。少年はティーカップに注がれたストロベリーティーを、少女は湯呑みに注がれた緑茶を啜っていた。
「それで、相談ってなんだ?」
「今日の6限で、簑田先生が仰っていたことだが…」
「あの、糸魚川の連続傷害事件か?」
新潟県糸魚川市で、連続して傷害事件が発生している。被害者は高校二年生が多数で、いずれも肉体の一部を切断されている。
証言によると、犯人の身長は175cmほど、恵まれた体格で、高確率で武道経験者。また、犯行の際に鏡のようなものを使っていたとの証言もある。
「左様だ。あの事件、才華による犯行だと我は睨んでいる」
「…なんだと?」
「犯人は恐らく、何かしらの才華を得た。そして、その才華で犯行に及んだ」
やけに強く、確信に満ちたサナエの口調にコウジは尋ねた。
「そう思う根拠は?」
「被害者は皆、体の一部が斬り落とされていた。だが、その切断面があまりにも滑らかすぎた。どんな刃物でも再現できないほどに」
それに、とサナエは続けた。
「厳密には切断ですらなかった。断面積が一致しないのだ。切断ではなく、一部を抜き取られたという方が適切だ」
「なるほど……」
肉体の一部を抜き取り、切断に見せかけ、且つその断面はこの世のどんな刃物でも再現できない滑らかな切り口。
犯人が才華を持っているというのも頷ける。
「それだけじゃない、これを見てくれ」
そう言って、サナエがタブレット端末を手渡してきた。
その画面は真っ暗で、その上に赤い文字が羅列されている。
その羅列を、コウジは半ば無意識に読み上げた。
「……業報サイト…?」
その不穏な響きに、サナエはこくりと頷いた。
「このサイト。怨んでいる人間の名を書き込むと、その人間に何かしらの罰を下すらしい。簑田先生に調べてもらったが、このサイトの設立はつい二週間前。そして、被害者の名前は犯行以前にこのサイトに名前が書き込まれていた」
「じゃあ犯人は…」
「…このサイトの管理人である可能性が高い」
だが、まだ最大の謎が残ったままだ。コウジはその疑問を口にした。
「────なんで、それを俺に?」
そのような推測は学園側に言うべき情報であり、コウジに告げたところでメリットはないはず。
サナエは「そうだな」と、一度視線を伏せ、もう一度力強くコウジの目を見た。
「…………我に…力添えしてくれぬだろうか」
「…と言うと?」
「既に学園は、サイト管理人に学園への招待状を送っている。だが、犯人は拒否するどころか、これ以上自分に干渉するなら大勢の人を犠牲にすると言っている」
犯人は好戦的な性格だ。
大勢の人を傷つけるという発言も嘘ではないだろう。
「我々が保護された時と同様、犯人も保護するべきだ。だが、才華の内容が不明であるが故に、単独で保護へ向かうのは危険なのだ」
「だから、俺に頼んだのか?」
「左様だ。尤も、嫌なら他を当たるが」
「いや。俺で良ければ力に───」
言いかけて言葉が詰まる。脳裏を過った少女に、口を塞がれた。
ヒカリだ。今の彼女は、表面上こそ普段通りかもしれないが、母親という、ヒカリを構成する上で重要な要素が欠損した状態にある。そんな少女を一人残して良いのだろうか。
答えは否。先刻、家を出る時に背中へ刺さった視線の悲しさを無視できない。
「─────ヒカリも。城嶺も、一緒で良いか?」
「ああ、勿論だ。人手が多いほうが、こちらも心強いからな」
サナエは、嫌な顔をするどころか喜ぶように快く頷く。
「よし。それならこの3人で犯人を保護しよう」
「うむ。突然の相談で悪かったな」
二人は固い握手を交わすと、店主に礼をしてから店を出た。
コウジと別れたサナエは、暗い夜道を一人で歩く。
そして、ふと呟いた。
「……………待っていろ、マサタ」
営業時間は朝9時から夜10時まで。勉強をする生徒、部活仲間と談笑する生徒。様々な生徒でいつも賑わっている。
だが、夜7時を過ぎると生徒たちは翌日の授業の準備や、家事のために帰宅していく。
そんな静かな店内に二人、男女が向かい合って座っていた。少年はティーカップに注がれたストロベリーティーを、少女は湯呑みに注がれた緑茶を啜っていた。
「それで、相談ってなんだ?」
「今日の6限で、簑田先生が仰っていたことだが…」
「あの、糸魚川の連続傷害事件か?」
新潟県糸魚川市で、連続して傷害事件が発生している。被害者は高校二年生が多数で、いずれも肉体の一部を切断されている。
証言によると、犯人の身長は175cmほど、恵まれた体格で、高確率で武道経験者。また、犯行の際に鏡のようなものを使っていたとの証言もある。
「左様だ。あの事件、才華による犯行だと我は睨んでいる」
「…なんだと?」
「犯人は恐らく、何かしらの才華を得た。そして、その才華で犯行に及んだ」
やけに強く、確信に満ちたサナエの口調にコウジは尋ねた。
「そう思う根拠は?」
「被害者は皆、体の一部が斬り落とされていた。だが、その切断面があまりにも滑らかすぎた。どんな刃物でも再現できないほどに」
それに、とサナエは続けた。
「厳密には切断ですらなかった。断面積が一致しないのだ。切断ではなく、一部を抜き取られたという方が適切だ」
「なるほど……」
肉体の一部を抜き取り、切断に見せかけ、且つその断面はこの世のどんな刃物でも再現できない滑らかな切り口。
犯人が才華を持っているというのも頷ける。
「それだけじゃない、これを見てくれ」
そう言って、サナエがタブレット端末を手渡してきた。
その画面は真っ暗で、その上に赤い文字が羅列されている。
その羅列を、コウジは半ば無意識に読み上げた。
「……業報サイト…?」
その不穏な響きに、サナエはこくりと頷いた。
「このサイト。怨んでいる人間の名を書き込むと、その人間に何かしらの罰を下すらしい。簑田先生に調べてもらったが、このサイトの設立はつい二週間前。そして、被害者の名前は犯行以前にこのサイトに名前が書き込まれていた」
「じゃあ犯人は…」
「…このサイトの管理人である可能性が高い」
だが、まだ最大の謎が残ったままだ。コウジはその疑問を口にした。
「────なんで、それを俺に?」
そのような推測は学園側に言うべき情報であり、コウジに告げたところでメリットはないはず。
サナエは「そうだな」と、一度視線を伏せ、もう一度力強くコウジの目を見た。
「…………我に…力添えしてくれぬだろうか」
「…と言うと?」
「既に学園は、サイト管理人に学園への招待状を送っている。だが、犯人は拒否するどころか、これ以上自分に干渉するなら大勢の人を犠牲にすると言っている」
犯人は好戦的な性格だ。
大勢の人を傷つけるという発言も嘘ではないだろう。
「我々が保護された時と同様、犯人も保護するべきだ。だが、才華の内容が不明であるが故に、単独で保護へ向かうのは危険なのだ」
「だから、俺に頼んだのか?」
「左様だ。尤も、嫌なら他を当たるが」
「いや。俺で良ければ力に───」
言いかけて言葉が詰まる。脳裏を過った少女に、口を塞がれた。
ヒカリだ。今の彼女は、表面上こそ普段通りかもしれないが、母親という、ヒカリを構成する上で重要な要素が欠損した状態にある。そんな少女を一人残して良いのだろうか。
答えは否。先刻、家を出る時に背中へ刺さった視線の悲しさを無視できない。
「─────ヒカリも。城嶺も、一緒で良いか?」
「ああ、勿論だ。人手が多いほうが、こちらも心強いからな」
サナエは、嫌な顔をするどころか喜ぶように快く頷く。
「よし。それならこの3人で犯人を保護しよう」
「うむ。突然の相談で悪かったな」
二人は固い握手を交わすと、店主に礼をしてから店を出た。
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