異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

第46話『専行』

「意外だねー。高いところは苦手?」
愉快そうに笑いながらレンタが尋ねる。
「苦手じゃなくてもあんな不意打ちされたらビビるだろ……」
コウジはレンタのおかげで淵江高校の屋上に着陸できたわけだが、まさか人生初のスカイダイビングがカウントダウンも無しとは思ってもみなかった。
が、そんなことに意識を割く余裕は殆ど無くなった。
「なんだよ………コレ…」
それは、その視界があまりにも凄惨に過ぎたからである。
鉄筋コンクリートの瓦礫が其処彼処そこかしこに散らばり、アスファルトは大きくひび割れ、ガラスの破片がそれを覆っていた。
そして、そこを闊歩かっぽする巨躯きょくの生命体。
排斥対象イントゥルージョン】だ。
「いいかい?コレから僕らがやるのはとても単純なことだよ」
レンタは続ける。
「できるだけここに留まって、できるだけ【排斥対象イントゥルージョン】を殺す。それだけだよ」
コウジのこれまでの人生の中でここまで重みのある「殺す」と言う言葉を耳にしたのは初めてかもしれない。
コウジは生唾を飲み込んだ。
すると、背後から力強い声が通る。
これより、我らSSランクの生徒は此処ここおとりり、防衛をる。臨戦態勢に入れ」
声の主はサナエだ。
そして、その声に呼応するように、生徒一人一人が固有武器を取り出し、才華さいかを発動する。
SSランク2位、桐咲きりさきソウタは双剣を。
SSランク3位、譬聆ひれいアツシはアーミーナイフを。
SSランク4位、初由ういよしテルヒコはヌンチャクを。
SSランク5位、舵咫散かじたばらトモキは戦輪を。
SSランク6位、鵞糜がびサナエは日本刀を。
SSランク7位、平佐名ひらさなレンタは大鎌を。
SSランク8位、萩澤キョウカは弓矢を。
SSランク9位、塚田コウジはナックルダスターを。
SSランク10位、城嶺ヒカリは双銃を。
各々が各々の固有武器を取り出し、首に巻かれたアテスターを瞬かせる。
再びサナエが声を発する。
「では、作戦通り防衛を────」
が、バッ。と、人影が校舎から飛び降りる。
その人影の正体は……………城嶺ヒカリだ。
「────んなっ!何をしている!城嶺!!」
サナエが思わず素っ頓狂な声を出していたが、実際、その場にいる誰もが動揺していた。
例え周波数を操る能力を持っていようと、高さ10メートルを超える校舎から飛び降りれば、命の保証はない。
それに、もとよりヒカリは、高所から飛び降りられるような人間ではない。それは、コウジを保護する際に、民家の屋根から飛び降りられなかった ことから推察できる。
では、なぜそんなことができたのか。
「コレは……パラシュートの紐?」
フェンスに付けられたそれを見て、レンタが呟く。
ヒカリは屋上のフェンスに、パラシュートの紐の端にあるフックを掛けていた。
そして、もう一端の紐を自身の体に括る。そうすれば、肉体とフェンスを直線で結ぶロープになる。
それを利用し、ヒカリはバンジージャンプの要領で屋上から身を投じたのだ。
ある程度の知能があればできる発想だが、それは褒められたことではない。
「まずいな。作戦の乱れは命に関わる」
SSランクの才華を持った生徒を失うのは学園にとっても痛手であるし、この状況下での勝手な行動はS+ランクの生徒にも多大な迷惑をかけることとなる。
「平佐名。2秒以内に城嶺を捕獲してくれ」
サナエがレンタに告げる。
「う、うん。わかっ───」
「なあ…………」
 だが、レンタの承諾の返事は、コウジの声によって阻まれた。
刹那の沈黙。
コウジは続けた。
 
「 俺に…………行かせてくれないか……?」

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