異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??

頤親仁

対峙

その日のベッドの上でコウジは静かに考えていた。
この能力を使って、誰かを救えると思い学園へ転入した矢先に、能力者同士で戦うことになるなんて考えていなかったのだ。そして、【排斥対象】と戦うということも衝撃であった。
一体、今後の俺の人生はどうなってしまうのか。
そんなことを深く考えていたら、そのまま呑まれるように眠りについていた。
目覚まし時計の音が鼓膜を叩き、暗がりの中にいた意識を陽光の元へと引きずり出す。
手早く身支度を済ませ、眠気が取れない体のままコウジは決闘場へと向かった。
そこには昨日の堅いスーツではなく、動きやすいジャージに身を包んだ浜曷が立っていた。
「おはようございます、浜曷先生」
「おはようございます。今日は塚田君の基礎的な身体能力を調べたいので、簡単な体力テストを行います」
すると浜曷は、そのまま背を向け歩き始めた。
「ちょっ、どこ行くんですか」
「五十メートル走の記録を取るためにグラウンドへ向かいます」
振り返らずにそう答えた。
そのまま五十メートル走、握力、上体起こし、持久走など、普遍的な体力テストを行いコウジは疲弊していった。やがてすべての種目の測定が終了した二人は、体育館で結果のコピーが出来上がるのを待っていた。
数分すると、結果のコピーを持った浜曷がコウジに結果を伝えた。
「結論から言うと、あなたの記録は全国平均を少し上回る程度です」
結果のコピーを片手に浜曷がそう告げた。おそらくホワイトルームで僅かながらトレーニングをしていた効果だろう。
「筋力に関して文句はありませんが、柔軟性や持久力はやや不足気味です。これから行うトレーニングを毎日寝る前に三セットずつ実践して下さい」
そう言うと浜曷は床に伏せ、両肘とつま先で体を支持し、頭からつま先までをまるで棒のように一直線に伸ばした姿勢をキープした。
「体幹トレーニングですか?」
「はい、これはフロントプランクと呼ばれる基本的な体幹トレーニングの一種です」
コウジも浜曷の体勢を真似てみるが、三十秒と持たずに体制が崩れてしまう。
「これを毎日一分間やってください」
「えぇ………」
三十秒でもこれだけ応えるというのに一分とはまた鬼畜である。
その後も鬼のようなメニューを続々と出されたが、これで自分自身が強くなるのならまだ良しとしよう。
それからというもの、毎日のようにトレーニングと勉強をさせられた。勉強は主に理数系科目を重点的に、トレーニングは主に体幹を鍛えさせられた。手を抜こうものなら厳しく叱責された。
「私が指導する以上、絶対にあなたを負かす訳にはいきません。何が何でも勝ってもらいます」
「いや、だからって厳しすぎませんか…?」
「今は筋肉痛程度で済みますが、決闘当日は流血や骨折は当たり前です」
「そんなに激しいんですか!?」
「当然です。決闘する際、基本的に手加減という概念は存在しません。両者、純粋に強さのみを求めて戦います」
「でも、勝っても何の利益もないのになんでそんなに勝とうとするんですか?」
コウジは自分の中に生まれた疑問を率直に口にした。
「利益ならあります」
当然のような顔で浜曷は言った。
「え、どんな…?」
「生徒たちは駆除した排斥対象の数に応じて賞金が与えられます。そして、排斥対象一体あたりの金額はランクが高いほど上昇していきます。厳密に言うとランク内の順位に応じているのですが、学園の第1位にもなると一体あたり20~50万円程度与えられます」
「そんなに!?稼ぎ放題じゃないですか!」
「ええ。ですが、最初は一体倒すだけでもかなりの苦労です。あまり思い上がらなでください。それに、それだけ稼ぎたいのであれば尚更、あなたはより鍛える必要があるということです」
「な、なるほど…」
とは言いながら、頭の中では大金で何が買えるかを考えていたコウジだった。
そして、月日は流れ三週間が経った。決闘前夜の仮寮室前。
「今日まで、ありがとうございました。浜曷先生」
まっすぐな瞳で浜曷を見つめ、コウジは言った。
「明日は決闘です。万全の腹構えで臨んでください」
「はい!」
気合の入った返事をする。
「くれぐれも、寝坊なんてしないでくださいね」
「大丈夫ですよ」
浜曷の一言で張り詰めた空気感が一気に解かれた。緊張していることが馬鹿馬鹿しいとさえ思えてしまう。
「きっと、あなたなら勝てますよ。頑張ってくださいね」
そのまま頷き、解散した。
寮室に戻った直後に、コウジは風呂に入り夕食を済ませてベッドに入ったが、なかなか寝付けなかった。
それもそうだ。明日に大切な決闘が控えていれば、誰だって寝付けなくなる。
やがて陽は昇った。時間にすれば8時間程度だったが、コウジには長い長い夜が明けたように感じた。
目を覚ましたコウジは洗面所へ向かい、軽く顔を洗った。
「この勝負で、俺のクラスが決まる」
鏡に映った自分の顔を見つめ、そう呟く。
身支度を整えて、仮寮室を後にする。
緊張を踏み殺すように、決闘場へと足を運ぶ。
やがて、入場ゲートが見えてきた。
幸いなことに、ゲート前にベンチがありそこに腰掛けて準備をすることが出来たが、あまり効果はなかった。というのも、体のコンディションが回復しないという意味ではなく、芽生えてしまった緊張感は結果を迎えるまで決して消えることはないという意味で。
やがて、軽快なファンファーレの音とともにアナウンスが入る。
「両選手!入場です!!」
閉まっていた入場ゲートが機械音を立てながら、ゆっくりと開いていく。反対側の入場ゲートも同様に開いていく。
そこには、腕組みをしてこちらを見据える城嶺ヒカリの姿があった。

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