氷結のテルラ

茶ノ助

プロローグ 誕生の刻

 ――ここはどこだろう。


 ――私は誰?


 少女は何も知らない。
 気がつくとそこには一面の銀世界。
 それ以外には何もない。
 あるのはうっすらと銀に映る少女の影だけ。


 そこに一筋の光が射し込む。


「なに……?」


 少女が尋ねるとどこからか声が聞こえる。


「目を覚ましたみたいだね、おはよう」


 声の主の姿は見当たらない。


「あなたは誰? どこにいるの?」


「私は君の母親みたいなものだ。どこにいるかはそうだね、ずっとずっと高い所とでも言っておこうかな」


「私のお母さん? ということは私が誰か知ってるの?」


「もちろん知ってるとも。報われぬ者達に救いの手を差し伸べることが使命である天使という存在だ」


 少女の周りに銀色の風が吹く。
 その風は少女の美しい髪をゆらゆら靡かせた。


「手を差し伸べる? 私が? どうやって?」


「やれやれ、質問が多い子だね。他の子はもうちょっと大人しかったのに」


「だって私、何も知らないよ。そんな私が手を差し伸べるなんて出来るの?」


「出来るとも。君はその為に生まれたのだから」


 少女は自分の使命を知らされる。
 だが、いきなりそんなことを言われても困惑してしまう。少女は何も分からない。


「使命の為ならどんな方法でも構わない。自分に合う手の差しだし方を見つけ出すといい」


「自分に合う、差し出し方……」


 少女は自分の真っ白で小さな、それでいてしっかりと動く右手の平を眺める。


「そうだね、とりあえずそのまま真っ直ぐ進むといい。そこはひどく冷えるだろう?」


「そこに行けば、手の差し出し方、分かる?」


「それはどうかな。分かるかもしれないし、分からないかもしれない。でも、どんな場所でも行く価値はあると私は思うな」


「分かった。じゃあ私、そこに行ってみる」


 少女はその小さな足でこの銀世界から旅立つのだ。自分の存在を見つける為に。


「可愛い私の子の為に、最後に何か一つだけ答えてあげよう。何がいい?」


 少女は目を瞑って考える。
 そして、


「お母さんとはどうやったら会えるの?」


「そんなことでいいのかい?」


「うん」


「そうだね、君が何よりも大事で、大切で、失いたくないものを見つけたら、それと共にこの世界で一番高い所に来てごらん。そうすれば、もしかしたら会えるかもしれない」


「分かった。絶対私、お母さんに会いに行くよ」


 そうして少女は、遠く果てしない道への一歩を踏み出した。

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