錬金術師の転生無双 ~異世界で勇者になった錬金術師は【魔法錬金】で万能無双~

蒼月幸二

第11話:錬金術師は新歓会を楽しむ sideリーゼ

 シュンの歓迎会が始まりました。
 場所はごく一般的な酒場。値段が安くて料理が美味しいので、冒険者に人気のお店です。私はお酒を飲めませんが、エルゼとエレナはとても美味しいと言います。

「どうですか? シュン、料理は美味しいですか?」

「ああ、見たこともない食材ばかりだけど食べてみると美味しいよ」

 シュンはどこか遠い場所から来たのだと思っています。なにか事情があるかもしれないので安易には聞けません。もっと仲良くなったらいずれ聞いてみたいと思います。

 四人掛けのテーブルで、配置は私とシュンが隣同士。目の前にはリーゼとエレナが座っています。
 リーゼはもう酔っぱらっていて、エレナもほんのり顔を赤くしています。
 私だけお酒が飲めないので酒場は苦手だったのですが、今日は違います。シュンもお酒は苦手だということです。シュンの故郷ではお酒は20歳からなのだそうです。

 どこの国でもそんな規則を聞いたことが無いので、シュンは私たちの知らない国から来たのかもしれません。

 隣で座ってシュンを見ていると、とても綺麗な手をしています。腕もほどよく筋肉がついていますが、ゴリゴリのマッチョマンというわけではありません。食べ方もとても行儀が良いです。
 もしかしたら貴族の出身なのでしょうか、気づけば私はシュンに見惚れていました。

 そんな私をエルゼとエレナはニヤニヤしながら見ています。幸いと言うべきか不幸と言うべきか、シュンは気づいていないようです。

「――まあったく! それにしても私の盾を修復したあの魔法……いったいチミは何者なのだ?」

「俺はただの錬金術師ですよ。ちょっと色々なスキルを使えるみたいですけど」

「チミがただの錬金術師で通るかーーー! 錬金術師は最弱! 生産では有能だが戦闘はまったく苦手なのだ! 何か秘密があるはずだぞぉ?」

 すっかりエルゼは酔っぱらって呂律が回らなくなってしまっています。
 これには素面の私とシュンは苦笑いを浮かべるしかありません。もっとも内容自体は私も気になるところです。

「俺も不思議には思ってるんですけどね。どうもこの世界では評判が悪いらしいですし……」

「私は戦力になるならなんでもいいと思っているわ。祝いの場で色々と詮索するのも悪いし、そろそろ別の話に移りましょうよ」

 エレナの提案で、話題はこれからの方針に移りました。
 私たちは既に内容を共有しているので、シュンへの説明です。

「一応軽く説明したとは思うけれど、どの勇者パーティも共通して目的を同じくしています。『魔王』と『真なる王』――『魔王神』の討伐が最終目標です」

「魔王はなんとなくわかるんですけど、魔王神ってなんなんですか?」

「魔王神は全ての魔王を統括する真の魔王と言ったら理解しやすいと思うわ。魔王神は伝説の七職業と呼ばれる特殊な職業を持った魔王を召喚することができるの。つまり魔王は魔王神の手先のようなものだけれど、個々の能力も侮れないわ」

 常識のようなことですが、シュンはとても興味深そうに聞き入っていました。

「魔王神が伝説の七職業以外の魔王を召喚することはないんですか?」

「それはないはずよ。もうずいぶん歴史が長いけれど、先代勇者たちが手に入れた情報によれば、魔王神は伝説の七職業以外を召喚できないの。その後呪従刻印を首に刻まれる。この刻印が刻まれることで魔力の性質が変わり、さらに強化される仕組みになっているとのことよ」

「なるほど……無視できないわけですね」

 シュンは何か他に聞きたいことがありそうな顔をしていましたが、エレナに話の続きを促します。
 エレナは気にする酔いつぶれたエルゼの絡みを避けながら話を続けます。

「魔王神はここから海を隔てた大陸に国を持っているの人類は大陸からやってくる魔物と魔王を処理するのに苦労していますが、いずれ海を渡り、魔と付くものを根絶やしにする――そのために勇者は特権的な扱いを受けているの」

「特権……ですか?」

「冒険者は勇者と同じく魔物を倒すことを生業にしているけれど、基本的に国を渡り歩いて冒険するということはない。その代わりに、魔王と遭遇した際には戦う義務は課されていないわ」

「逆に勇者は魔王と遭遇したら戦う義務があると……?」

「努力義務と言った方が正しいでしょうね。罰則は設けられていないけれど、勇者の誇りにかけて逃げることは許されないわ。……もちろん仮勇者の段階でそこまで求めることはないけれど」

「特権の内容については今日のところは割愛するとして……実際の活動としては、ここアリシア王国の首都アリシに移動することになるわ。もしかしたら魔物との戦闘があるかもしれない。その時はシュンの力を借りることもあると思うわ」

「わかりました。もちろん俺にできることがあったら協力します!」

 こうして、シュンの説明が終わると酒場の閉店時間が迫ってきていました。
 急いで料理を平らげて退店したころには、外は真っ暗です。
 明日からシュンと一緒に冒険できると思うと、今から楽しみでなりません。

 でも、その前に今日は休まなければいけません。
 今から宿の部屋を取れるわけもありません。
 だから、私たちは仕方なく、シュンを同じ部屋に招くしかないのです。
 男の子だからと差別するのは良くないですから!

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