異世界無双の最強管理者(チートマスター) ~リセットマラソンで最強クラス【大賢者】に転生したら世界最強~
第3話:大賢者は日常を楽しむ
「どうしたんですか?」
訝し気に掲示板を見つめる俺が気になったのだろう。ミーシャが声を掛けてきた。
「いや、なんでもないよ」
初心者村を出ると、俺たちはマップを見ずに広大な平原を迷いなく歩いていた。
そういえば、まだミーシャには説明していなかったことがあった。
「ミーシャ、目の前に光の筋が見えているか?」
「はい。……ちょっと不思議でした」
地面の数センチ上を走る眩い光の筋は、クエストを受けた頃から出現している。
「これは長距離を移動する際のナビゲーションなんだ。地図を開かなくてもこの光の通りに進めば次の村まで移動できる」
「至れり尽くせりって感じですね!」
少し子どもっぽいミーシャが難しい言葉を使うのだから、俺は笑ってしまう。
「ど、どうして笑うんですか!?」
「ちょっとツボにはまってな。まあよくあることだから気にするな」
「ゲーマーの人ってみんなこんな感じなんですか……?」
ミーシャがジト目を向ける。
「そうだな、俺みたいなのが普通だな。むしろヤバいくらいの変人も多いぜ」
「……どんな感じなんですか?」
「初心者村で延々と【ウルフ】を倒し続けたり、PVPでわざと死にまくるやつは有名だな」
「な、なんでそんな無駄なことするんですか!?」
ミーシャは意味不明と言いたげに声を荒らげる。
確かにある程度ゲームをやり込んでいる俺から見ても異質なのだが、理由を聞けばまったく理解できないということもない。
「ゲーム内のプレイヤーランキングってのがあるんだ。コマンドを確認してみろ、あるはずだ」
ミーシャはコマンドを出して確認すると、「あります!」と答えた。
俺は無言で頷き、
「カテゴリ別になっているが、【モンスター討伐ランキング】とか【死亡回数ランキング】があるだろう? つまりそういうことだ」
「弱いモンスターを延々と倒したり、わざと死んでランキングを上げるってことですか……?」
「そうだ。ランキングに名を残せば、神殿に設置されている石板に名前が載るからな。何を考えているのか知らんが、そういうやつもいる。それに比べれば俺なんて普通だろ?」
「た、確かにミナトさんは普通です!」
うまく誘導することができたようだ。
可愛い子に変人だと思われたくはないからな。
「さて、そんなところで飯でも食うか」
村から村へはそれなりの距離があるが、三分の一は超えたところだ。
現実時間は昼過ぎ。腹が減るのも当然だろう。
「ゲームの中でご飯食べて何か意味あるんですか……?」
「意味はないが、味は本物だぞ? ミーシャも食べてみればわかる」
「そんなに……ですか?」
ミーシャは唾を飲み込み、興味津々な目つきで俺を見つめた。
草原にはたくさんの岩が転がっている。その岩のグラフィックもきめ細かく、まるで本物のように見える。どこまでも手を抜かないのがこのゲームの良いところだ。
適当な石を椅子にして腰かける。ミーシャも俺のとなりに座った。
「昼食はどこでも食べられるようになっている。……まずはコマンドを開こう」
「はい!」
お馴染みになったコマンドだ。ミーシャもなれた手つきになっている。
「【ストア】ってのがあるはずだ」
順番的には、【キャラクター情報】【アイテム】【ワールドランキング】【ストア】なので、四番目だ。
ストアにはたくさんの課金アイテムやゲームマネーで買えるアイテムがある。
課金アイテムはどういうわけか、ページがごっそりと消えていた。
何か不具合があったのか?
「わあ、これですね!」
ミーシャは俺が教える前に【料理】のページを開いたらしい。
数多のジャンルの中でも人気があるのが【料理】だ。
和洋折衷なんでもありの豪華なメニューが並び、その一つ一つがプロの料理人が作ったような味を楽しめる。
俺はカツ丼を選択した。
ゲーム内マネーで700円を支払うと、俺の手元にアツアツのカツ丼が出てくる。
ゲーム内マネーの単位は【円】で、課金に使うリアルマネーは【クレジット】として分けられている。
日本人にとっては【円】の方が馴染みが深いので、少しありがたかったりする。ストアの商品の相場は日本円の相場くらいに設定されている。
「美味しそうなカツ丼ですね! 私は……えーと、カレーにします!」
【カレーライス】のお値段は750円。チュートリアルでもらった【円】は五十万ほどなので、食べ物の値段は極端に安い。しかし、お金の使い方の満足度としては最上級だ。
ミーシャが【カレーライス】を購入すると、すぐにアツアツのカレーが出てきた。
ただし、このカレーは出来立てではない。
「トロみがあって美味しそうです! とても出来立てとは思えないような……!」
「ミーシャは勘がいいな。それは本当に出来立てじゃないんだ」
「え!? 食べても大丈夫なんですか……? お腹とか壊したりしませんか?」
本気で心配そうに言うミーシャ。
さっきは食べても意味がないと言っていたのだから、仮想世界で食べる食べ物が人体に影響しないことくらいはわかっているだろうに。
でも、そんな抜けているところも可愛いな。
「何を勘違いしているのかわからないけど、それは二日目のカレーだぜ?」
「二日目のカレー……?」
「カレーは二日目の方が美味いんだ。知らなかったのか?」
「そ、そういえば聞いたことがあります! それをいつでも食べられるんですか!?」
「そういうことさ。あえて出来立てじゃなく、二日目の美味いカレーを提供する。運営の粋な計らいさ」
「こ、このゲーム凄すぎます……!」
ミーシャの驚いた顔はなかなか新鮮だ。
購入したカレーライスをミーシャはガツガツと勢いよく食べた。
「これ、めちゃくちゃ美味しいです!」
一気に平らげると、名残惜しそうにスプーンに残ったカレーを舐めていた。気に入ったようでなによりだ。
俺もアツアツのカツ丼を頬張る。
……美味い!
食レポは上手くないのでこの美味さをどう表現すればいいのか迷うが、とにかく美味い!
ホカホカの白米に、中は油でジュワジュワ、外は衣がサクサク。その辺の食堂で食べられるカツ丼の何倍も美味しい!
俺はカツ丼を勢いよくかきこみ、すぐに食べ終わった。
「さて、そろそろ行くか」
◇
食後はミーシャとの談笑を楽しみながら、光の筋に従って歩いた。
その道のりは平穏だった。
……不気味なくらいに。
普通、初心者村を出ると赤ネームのキャラクターと遭遇するものだ。
赤ネームとはプレイヤーキラーである。普通は鑑定しない限り他のプレイヤーの名前を見ることはできない。だが、他のプレイヤーを殺した者は別だ。
頭上に赤い名前が表示され、危険があることを示す。
初心者は赤ネームのプレイヤーを見つけたら触らずそっと迂回するのが正しいプレイングである。
何が楽しいのかわからないが、LLO2には初心者を狙ったプレイヤーキラーが生息している。
……そのはずなのに、今日は一人も遭遇しなかった。
そして、目的地【カレリーナ村】に到着した。
カレリーナ村は中規模の村だ。それなりに高レベルの狩場が存在するため、高レベルのプレイヤーも多数いて、賑わいを見せている。俺の知っているカレリーナ村そのものだ。
だが、その賑わいはいつものそれと違っているようだった。
空気がピリピリしているような気がした。
「何かあったのか?」
歩いていたそれなりに高レベルのプレイヤーに話しかける。
鑑定は使っていない。装備の種類から判断した。
「アンタ初心者か? そうか……災難だったな」
そのプレイヤーは可哀想な目で俺とミーシャを見た。
「俺が口で説明するより自分の目で確かめた方が早い。……ログアウトしてみるといい」
「ログアウトだと?」
「そうだ。やってみればわかる」
意図することが読み取れないが、この男は真剣そうに言っている。
俺はやれやれと思いながらコマンドを出して、ログアウトボタンを探す。今までに何度も何度も使った機能だ。忘れているはずがない。
だが見つからなかった。
……配置が変わったのか?
俺はありとあらゆるウィンドウを立ち上げ、ログアウトボタンを探す。
しかし、見つからなかった。
「ミナトさん……ログアウトってどうすればいいんですか?」
ミーシャが血の気が引いた顔で尋ねてくる。むしろ俺が聞きたいくらいだ。
いや、もしかしてログアウトしてくれっていうのは――。
俺は改めて男の顔を見る。
「おい……まさかとは思うが」
男はゆっくりと首肯した。
「どうやら、俺たちはゲームの中に閉じ込められてしまったようだ」
その声音は重々しかった。
訝し気に掲示板を見つめる俺が気になったのだろう。ミーシャが声を掛けてきた。
「いや、なんでもないよ」
初心者村を出ると、俺たちはマップを見ずに広大な平原を迷いなく歩いていた。
そういえば、まだミーシャには説明していなかったことがあった。
「ミーシャ、目の前に光の筋が見えているか?」
「はい。……ちょっと不思議でした」
地面の数センチ上を走る眩い光の筋は、クエストを受けた頃から出現している。
「これは長距離を移動する際のナビゲーションなんだ。地図を開かなくてもこの光の通りに進めば次の村まで移動できる」
「至れり尽くせりって感じですね!」
少し子どもっぽいミーシャが難しい言葉を使うのだから、俺は笑ってしまう。
「ど、どうして笑うんですか!?」
「ちょっとツボにはまってな。まあよくあることだから気にするな」
「ゲーマーの人ってみんなこんな感じなんですか……?」
ミーシャがジト目を向ける。
「そうだな、俺みたいなのが普通だな。むしろヤバいくらいの変人も多いぜ」
「……どんな感じなんですか?」
「初心者村で延々と【ウルフ】を倒し続けたり、PVPでわざと死にまくるやつは有名だな」
「な、なんでそんな無駄なことするんですか!?」
ミーシャは意味不明と言いたげに声を荒らげる。
確かにある程度ゲームをやり込んでいる俺から見ても異質なのだが、理由を聞けばまったく理解できないということもない。
「ゲーム内のプレイヤーランキングってのがあるんだ。コマンドを確認してみろ、あるはずだ」
ミーシャはコマンドを出して確認すると、「あります!」と答えた。
俺は無言で頷き、
「カテゴリ別になっているが、【モンスター討伐ランキング】とか【死亡回数ランキング】があるだろう? つまりそういうことだ」
「弱いモンスターを延々と倒したり、わざと死んでランキングを上げるってことですか……?」
「そうだ。ランキングに名を残せば、神殿に設置されている石板に名前が載るからな。何を考えているのか知らんが、そういうやつもいる。それに比べれば俺なんて普通だろ?」
「た、確かにミナトさんは普通です!」
うまく誘導することができたようだ。
可愛い子に変人だと思われたくはないからな。
「さて、そんなところで飯でも食うか」
村から村へはそれなりの距離があるが、三分の一は超えたところだ。
現実時間は昼過ぎ。腹が減るのも当然だろう。
「ゲームの中でご飯食べて何か意味あるんですか……?」
「意味はないが、味は本物だぞ? ミーシャも食べてみればわかる」
「そんなに……ですか?」
ミーシャは唾を飲み込み、興味津々な目つきで俺を見つめた。
草原にはたくさんの岩が転がっている。その岩のグラフィックもきめ細かく、まるで本物のように見える。どこまでも手を抜かないのがこのゲームの良いところだ。
適当な石を椅子にして腰かける。ミーシャも俺のとなりに座った。
「昼食はどこでも食べられるようになっている。……まずはコマンドを開こう」
「はい!」
お馴染みになったコマンドだ。ミーシャもなれた手つきになっている。
「【ストア】ってのがあるはずだ」
順番的には、【キャラクター情報】【アイテム】【ワールドランキング】【ストア】なので、四番目だ。
ストアにはたくさんの課金アイテムやゲームマネーで買えるアイテムがある。
課金アイテムはどういうわけか、ページがごっそりと消えていた。
何か不具合があったのか?
「わあ、これですね!」
ミーシャは俺が教える前に【料理】のページを開いたらしい。
数多のジャンルの中でも人気があるのが【料理】だ。
和洋折衷なんでもありの豪華なメニューが並び、その一つ一つがプロの料理人が作ったような味を楽しめる。
俺はカツ丼を選択した。
ゲーム内マネーで700円を支払うと、俺の手元にアツアツのカツ丼が出てくる。
ゲーム内マネーの単位は【円】で、課金に使うリアルマネーは【クレジット】として分けられている。
日本人にとっては【円】の方が馴染みが深いので、少しありがたかったりする。ストアの商品の相場は日本円の相場くらいに設定されている。
「美味しそうなカツ丼ですね! 私は……えーと、カレーにします!」
【カレーライス】のお値段は750円。チュートリアルでもらった【円】は五十万ほどなので、食べ物の値段は極端に安い。しかし、お金の使い方の満足度としては最上級だ。
ミーシャが【カレーライス】を購入すると、すぐにアツアツのカレーが出てきた。
ただし、このカレーは出来立てではない。
「トロみがあって美味しそうです! とても出来立てとは思えないような……!」
「ミーシャは勘がいいな。それは本当に出来立てじゃないんだ」
「え!? 食べても大丈夫なんですか……? お腹とか壊したりしませんか?」
本気で心配そうに言うミーシャ。
さっきは食べても意味がないと言っていたのだから、仮想世界で食べる食べ物が人体に影響しないことくらいはわかっているだろうに。
でも、そんな抜けているところも可愛いな。
「何を勘違いしているのかわからないけど、それは二日目のカレーだぜ?」
「二日目のカレー……?」
「カレーは二日目の方が美味いんだ。知らなかったのか?」
「そ、そういえば聞いたことがあります! それをいつでも食べられるんですか!?」
「そういうことさ。あえて出来立てじゃなく、二日目の美味いカレーを提供する。運営の粋な計らいさ」
「こ、このゲーム凄すぎます……!」
ミーシャの驚いた顔はなかなか新鮮だ。
購入したカレーライスをミーシャはガツガツと勢いよく食べた。
「これ、めちゃくちゃ美味しいです!」
一気に平らげると、名残惜しそうにスプーンに残ったカレーを舐めていた。気に入ったようでなによりだ。
俺もアツアツのカツ丼を頬張る。
……美味い!
食レポは上手くないのでこの美味さをどう表現すればいいのか迷うが、とにかく美味い!
ホカホカの白米に、中は油でジュワジュワ、外は衣がサクサク。その辺の食堂で食べられるカツ丼の何倍も美味しい!
俺はカツ丼を勢いよくかきこみ、すぐに食べ終わった。
「さて、そろそろ行くか」
◇
食後はミーシャとの談笑を楽しみながら、光の筋に従って歩いた。
その道のりは平穏だった。
……不気味なくらいに。
普通、初心者村を出ると赤ネームのキャラクターと遭遇するものだ。
赤ネームとはプレイヤーキラーである。普通は鑑定しない限り他のプレイヤーの名前を見ることはできない。だが、他のプレイヤーを殺した者は別だ。
頭上に赤い名前が表示され、危険があることを示す。
初心者は赤ネームのプレイヤーを見つけたら触らずそっと迂回するのが正しいプレイングである。
何が楽しいのかわからないが、LLO2には初心者を狙ったプレイヤーキラーが生息している。
……そのはずなのに、今日は一人も遭遇しなかった。
そして、目的地【カレリーナ村】に到着した。
カレリーナ村は中規模の村だ。それなりに高レベルの狩場が存在するため、高レベルのプレイヤーも多数いて、賑わいを見せている。俺の知っているカレリーナ村そのものだ。
だが、その賑わいはいつものそれと違っているようだった。
空気がピリピリしているような気がした。
「何かあったのか?」
歩いていたそれなりに高レベルのプレイヤーに話しかける。
鑑定は使っていない。装備の種類から判断した。
「アンタ初心者か? そうか……災難だったな」
そのプレイヤーは可哀想な目で俺とミーシャを見た。
「俺が口で説明するより自分の目で確かめた方が早い。……ログアウトしてみるといい」
「ログアウトだと?」
「そうだ。やってみればわかる」
意図することが読み取れないが、この男は真剣そうに言っている。
俺はやれやれと思いながらコマンドを出して、ログアウトボタンを探す。今までに何度も何度も使った機能だ。忘れているはずがない。
だが見つからなかった。
……配置が変わったのか?
俺はありとあらゆるウィンドウを立ち上げ、ログアウトボタンを探す。
しかし、見つからなかった。
「ミナトさん……ログアウトってどうすればいいんですか?」
ミーシャが血の気が引いた顔で尋ねてくる。むしろ俺が聞きたいくらいだ。
いや、もしかしてログアウトしてくれっていうのは――。
俺は改めて男の顔を見る。
「おい……まさかとは思うが」
男はゆっくりと首肯した。
「どうやら、俺たちはゲームの中に閉じ込められてしまったようだ」
その声音は重々しかった。
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