世界に裏切られた勇者は二度目の世界で復讐する

美浜

第8話  椿との契約

「はい、あーんっ」

「んぅ! ふぁめぇえほぉ!」


強制的にいわゆる膝枕をさせられ、脇に置いておいたカバンから今日のために買っておいたポーションを口に突っ込まれている。

息が苦しいというのとまだやるべきことがあるということで、非常に残念なことではあるが体を起こす。


「もう起き上がって大丈夫なの?」

「ああ、まだやることがあるからな」

「そ、それって······」


頬を赤らめる椿。
何を勘違いしているんだ?
いや、まて。何か重要なことを忘れている気が······


「目、閉じて」

「? お、おう」


(思い出せ俺。何かあったはずなんだよ。何か重要なことが)


「これは契約のために必要な行為であって決してそういう意味ではないんだからね」


(だから何なんだよ!)


今すぐ目を開けたい衝動に駆られるが俺の本能がそれを制してくる。


「後で後悔したって知らないからね」


(だからな──)


頬にひんやりとした感覚を覚える。
少し力が入ったと思うと次に感覚を覚えたのは唇だった。

驚いて目を見開くとすぐ目の前には顔を真っ赤にした椿の可愛らしい顔が。

体を引き離そうともがっちりと掴まれていてとても離せそうにない。

尚も唇を合わせたまま。
今度は強引に口の中に舌を入れてくる。

ここで思い出した。
まだ早いと思ってたから意識していなかったけれど、これは契約だ。
マスターとパペットによる契約。
一部の感覚を共有し両者の繋がりを強固なものとして能力の向上を計るもの。

もっと絆を深めてからやるもののはずなのにどうしてこんなに早い段階でするのか?


「んぅ······ちゅっ、じゅるる、じゅる······」


唾液が混ざり合って不思議な感覚に襲われる。
ただ、決して嫌なものではなくむしろ好意を持っている女の子にされると嬉しい気持ちが勝る。

このまま快楽に溺れていたいところだが俺にはやるべきことがある。
だから最低限契約に必要なことは済ませる。




やっとのことでお互いの唇が離れる。

途中から頭がぼーっとしてどれ程の間唇を合わせていたのかあまり覚えていない。


(しっかりしろ俺。俺は復讐をするんだ。前の世界で俺たちを裏切ったやつらに復讐してやるんだ)


契約の具合を確かめるために話しかけようとすると彼女の異変に気付く。

顔は先ほどとは対称的に真っ青になり額からは脂汗を流している。 
そして突然苦しみ出した。
まるで悪夢を見ているように彼女はうなされ倒れ込んでしまう。


「椿!? どうした! 大丈夫か!」

「な、何かが、体に入ってくるの······黒くて熱いものが。これは······かん、じょう? これが、サトル君が抱えているものなの?」


契約とは一部の互いの感覚を共有するもの。
だから俺の中にある復讐心が椿と強制的に共有されてしまったのだろう。

この前は復讐なんて考えてなかったから椿は苦しむことがなかっただけ。 


「すまん。椿、俺は······」

「サトル君が謝る必要はないよ。私から契約をしたんだもん」

「でも、椿を苦しめてしまってる」

「これくらいなら、耐えられなくもないよ。それに、ひとつ分かったことがあるんだ」


まだ辛いだろうに椿は俺に笑顔を見せてくる。それが無理やりのものだと俺には分かってしまった。
けれど、その笑顔には前の椿と重なるものを感じた。


「私たちって前に一度、いや、ずっと一緒に居たんだよね?」


それは俺の度肝を抜いた。
この世界で俺と椿はまだ出会ったことがないはず。なのにどうして?


「サトル君から流れてくるものに私を感じたんだ。私に対するサトル君の気持ち。私というよりも『椿』に対する、の方が適切かな」

「思い······出した、のか?」

「やっぱり会ったことがあるんだね。もしかしてそれとサトル君のこの復讐心は関係したりしている?」

「っ······」


俺は何も言えなかった。
前の世界のことも、仲間に裏切られたことも、椿が殺されたことも。

記憶までは共有されてないからそこは知られていないはず。


「言えないんだね......本当は私はサトル君を止めないといけないんだろうけど、復讐心と同時にこの暖かな気持ちも知っちゃったの。『椿』に対するサトル君の気持ち」

「俺は······悪いことをしようとしてるんだ。例えどんな理由があろうと復讐なんてしてはいけない。それは分かってるけど、俺は······俺にはこれしか分からないんだ。『椿』のためにできることが」

「私はサトル君のことを信じるよ。こんなに暖かい心を持ってる人なんてそんなにいないもん。だから、復讐をするというなら私はそれを手伝う」

「いい······のか?」

「うん。でも······」


そこで彼女は一呼吸置く。
真っ直ぐと俺の瞳を見つめその決意を語ってくれる。


「やるのは必要最低限だけ。もしもサトル君が道を外れそうになったらその時私はそれを全力で止めるから」

「ああ、ありがとう」


(これで準備は全て整った。予定外のこともあったけどむしろ好都合だ。これであいつに復讐することができる。まだ賭けのところもあるけど、そこは踏ん張りどころだな)






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