世界に裏切られた勇者は二度目の世界で復讐する
プロローグ ~全ての始まり~
『サトル、これを持っていきなさい』
『これは?』
『お守りよ。必要なければいいんだけどね』
『そうか。ありがとう』
『ふふっ、勇者が魔王にお礼を言うなんて不思議なものね』
『それを言うなら勇者にお守りを渡す魔王も大概だろ』
『確かにそうだわ。サトル、あとは任せたわよ』
『あぁ、お前が命を張ってまで救おうとしたこの世界、俺が守ってやる』
『えぇ、お願いね。必ずやあの王女を倒して。あいつらが復活する前に······』
『わかったよ。だから安心して眠っていろ』
「いたぞ! 勇者だ! やつは弱っている。確実に殺すぞ」
王都の中をフードを目深に被った者が駆け巡る。
かつて彼は勇者と呼ばれ、今では勇者と呼ばれている。
王都のみならず周辺の街や村にも手配書が回っており休む暇もなく逃げ続けて王都に到着した。
その途中では民に裏切られ密告され。
王国警備隊による攻撃も受け。
協力的だった大商人にも裏切られ。
かつて仲間だった者たちの襲撃を受けたときは相棒の椿が俺の身代わりになった。
俺はこいつらを許さない。
けれど消耗した今の俺ではまともな攻撃は一撃できるかどうか。
ならば、全ての元凶である王女を殺すのが俺の役目。
魔王との約束を破るわけにはいかない。
「ここには······誰もいないな」
王国警備隊の追撃を避け、ついに王城までたどり着いた。
体力の温存のためにできるだけ戦闘は避けたいところだが、さすがに警備は固いだろうな。
「それでも行くしかない。これ以上時間はかけられない」
腰に提げた袋に触れる。
これは魔王からもらったお守り。彼女のためにも世界のためにも俺は王女を殺さなくてはならない。
正面からではなく外の窓から侵入する。
無駄に広い廊下には警備兵はおらず、部屋の中からも人の気配は感じられない。
「俺の捜索に人員を割いているのか?」
違和感を感じるものの足早に王女の部屋へと向かう。
誰もいない無人の廊下を進み、階段を上って部屋にたどり着く。
俺は手荒に扉を開ける。
「ふふっそんなにあわててどうされましたか? デートのお誘いならお断りですよ、勇者」
「そんなものは必要ねぇよ。お前はここで死ぬんだからなぁっ!」
勇者はボロボロの身体に鞭を打って王女を殺さんとばかりに飛びかかる。
鬼のような形相の勇者とは対照的に王女の顔には笑みが浮かんでいる。
「せっかちさんは嫌われますよ?」
ギィィィンッ!!
勇者の渾身の一撃は割って入った剣によって王女にはあと一歩届かなかった。
「リュウ、ありがとう」
リュウと呼ばれたのは俺の渾身の一撃を防いだ大柄な男。
その他にも真っ赤な紅蓮の弓矢を持った女と、杖を持っている女がいる。
「さ~て、勇者捕獲完了」
突然後ろから声が聞こえたと思うと同時に身体を地面に叩きつけられる。
こいつ、いつの間に後ろにいたんだ?
「こいつどうします? 俺ので殺しちゃってもいいですか?」
「ダメよハンス。あなたのでは時間がかかりすぎますわ」
「では私がやりましょう。完全に跡形もなく消し去ってあげます」
「イリスさんはまず杖を向けるのをやめましょうね?」
「私はパスで、弱いやつは興味ないわ」
「キサラさんはイリスさんを抑えておいてください」
「何をごちゃごちゃと······」
「あら、魔王から聞いてないの? だから私を殺しに来たのではなくて?」
魔王から聞いていた四人組ってこいつらのことなのか。
「あっ、そうだ! 確か妹さんのためにも元の世界に帰りたいのよね?」
「そうだが、どうせ帰すつもりはないんだろう?」
「別にいいわよ。帰しても」
「それは本当か!?」
「ええ。だって私は邪魔なあなたが消えてくれればそれでいいのです。死のうが、帰ろうが最終的にいなければそれでいい」
「だったら今すぐ俺を······」
いや、今俺が戻ったら魔王との約束はどうなるんだ?
あいつが命をかけてまで守った世界を俺が見捨ててどうする?
「まあ、戻ったとしてもあなたを待つ人はいないけどね」
「どういうこと、ぐはっ」
「こうやって踏んであげると部下が喜ぶのよね。これはご褒美ね」
王女は問いかけようとした勇者の身体を思いっきり踏みつけそのままの体勢で話し始める。
「魔法について詳しくなったあなたなら疑問は持たないの? 異世界から人を一人召喚するなんて莫大な魔力が必要になるわ。とても一人の魔力では足りない······そうね、例えば200人くらいの魔力を使えばどうかしら?」
「おい、まさかっ!」
「獣人を100人程生け贄にしたわ。それとあなたの世界からも相当の数が犠牲になったはずよ。妹さんも含めてね」
──俺がこの世界に来た時点で全て終わっていたのか?
──なら、これまでの俺の努力はどうなる?
──俺は、何のためにこの世界で生きていたんだ?
「その顔、永遠に保存してたいわね。あなたの相棒さんと一緒にね」
いつの間にか王女の手にはサッカーボール程の布に包まれたものを手に取っていた。
それを俺の目の前に置く。
「もういい! やめてくれ! 殺すなら早く俺を殺せよ!」
「綺麗よね椿ちゃん。でも、あなたは好きじゃないわ。椿ちゃんは最後まで立ち続けたわよ。早く殺して、なんて彼女が聞いたら悲しむでしょうね」
確かにそうだな。
椿なら俺のために最後まで立ち向かってくれていたはずだ。
でも、もう俺には何も残ってないんだ。
帰りを待つ家族もいなければ、苦楽を共にした相棒もいない。
味方は敵に代わり、俺の命を狙う。
せめて俺ができることと言えば俺たちを裏切った者に天罰を、と願うこと。
もしももう一度この世界で生を受けたならば俺は復讐を果たすために人であることを捨てよう。
地獄の果てまで追い詰めて俺が味わった絶望を味わわせて殺したい。
「それじゃ、さようなら勇者。感謝するわあなたのおかげで裏の四天王を復活させることができたわ。せめて来世はまともな人生を送れるといいわね」
王女は手にした剣を逆さに持ち正確に俺の心臓を貫いた。
──すまない杏子。お兄ちゃん、お前を助けることができなかった。
──すまない椿。俺はお前の相棒失格だな。
──すまない魔王。あんたとの約束、守れなかった。
王女に心臓を刺された勇者はついに絶命する。
「さぁ、死体はさっさと処理してちょうだい。これで不安因子は全て取り除いたわ。んっ? な、何よこれ! まぶしいっ!」
死んだはずの勇者が突然輝きだす。
いや、正確に言うなら勇者の腰に提げている袋から淡い紫の光りが漏れだしていた。
その光りは段々と強く濃くなり、遂には袋を突き破って中から結晶が姿を現した。
「こ、これはなん、なんですの?」
紫に輝く結晶は真っ直ぐに勇者の心臓に向かい、身体に取り込まれる。
初めの光りとは比べ物にならない程の光量が辺りを覆い、桁違いの大きさの魔方陣が世界全体を包み込む。
【対象の死亡を確認。発動条件に従いスキルを実行します】
【対象の記憶を保持したままスキル、レベルをリセット】
【完了。これまでの取得経験値をマイナス経験値として追加】
【完了。スキル  完全消去を発動します】
『これは?』
『お守りよ。必要なければいいんだけどね』
『そうか。ありがとう』
『ふふっ、勇者が魔王にお礼を言うなんて不思議なものね』
『それを言うなら勇者にお守りを渡す魔王も大概だろ』
『確かにそうだわ。サトル、あとは任せたわよ』
『あぁ、お前が命を張ってまで救おうとしたこの世界、俺が守ってやる』
『えぇ、お願いね。必ずやあの王女を倒して。あいつらが復活する前に······』
『わかったよ。だから安心して眠っていろ』
「いたぞ! 勇者だ! やつは弱っている。確実に殺すぞ」
王都の中をフードを目深に被った者が駆け巡る。
かつて彼は勇者と呼ばれ、今では勇者と呼ばれている。
王都のみならず周辺の街や村にも手配書が回っており休む暇もなく逃げ続けて王都に到着した。
その途中では民に裏切られ密告され。
王国警備隊による攻撃も受け。
協力的だった大商人にも裏切られ。
かつて仲間だった者たちの襲撃を受けたときは相棒の椿が俺の身代わりになった。
俺はこいつらを許さない。
けれど消耗した今の俺ではまともな攻撃は一撃できるかどうか。
ならば、全ての元凶である王女を殺すのが俺の役目。
魔王との約束を破るわけにはいかない。
「ここには······誰もいないな」
王国警備隊の追撃を避け、ついに王城までたどり着いた。
体力の温存のためにできるだけ戦闘は避けたいところだが、さすがに警備は固いだろうな。
「それでも行くしかない。これ以上時間はかけられない」
腰に提げた袋に触れる。
これは魔王からもらったお守り。彼女のためにも世界のためにも俺は王女を殺さなくてはならない。
正面からではなく外の窓から侵入する。
無駄に広い廊下には警備兵はおらず、部屋の中からも人の気配は感じられない。
「俺の捜索に人員を割いているのか?」
違和感を感じるものの足早に王女の部屋へと向かう。
誰もいない無人の廊下を進み、階段を上って部屋にたどり着く。
俺は手荒に扉を開ける。
「ふふっそんなにあわててどうされましたか? デートのお誘いならお断りですよ、勇者」
「そんなものは必要ねぇよ。お前はここで死ぬんだからなぁっ!」
勇者はボロボロの身体に鞭を打って王女を殺さんとばかりに飛びかかる。
鬼のような形相の勇者とは対照的に王女の顔には笑みが浮かんでいる。
「せっかちさんは嫌われますよ?」
ギィィィンッ!!
勇者の渾身の一撃は割って入った剣によって王女にはあと一歩届かなかった。
「リュウ、ありがとう」
リュウと呼ばれたのは俺の渾身の一撃を防いだ大柄な男。
その他にも真っ赤な紅蓮の弓矢を持った女と、杖を持っている女がいる。
「さ~て、勇者捕獲完了」
突然後ろから声が聞こえたと思うと同時に身体を地面に叩きつけられる。
こいつ、いつの間に後ろにいたんだ?
「こいつどうします? 俺ので殺しちゃってもいいですか?」
「ダメよハンス。あなたのでは時間がかかりすぎますわ」
「では私がやりましょう。完全に跡形もなく消し去ってあげます」
「イリスさんはまず杖を向けるのをやめましょうね?」
「私はパスで、弱いやつは興味ないわ」
「キサラさんはイリスさんを抑えておいてください」
「何をごちゃごちゃと······」
「あら、魔王から聞いてないの? だから私を殺しに来たのではなくて?」
魔王から聞いていた四人組ってこいつらのことなのか。
「あっ、そうだ! 確か妹さんのためにも元の世界に帰りたいのよね?」
「そうだが、どうせ帰すつもりはないんだろう?」
「別にいいわよ。帰しても」
「それは本当か!?」
「ええ。だって私は邪魔なあなたが消えてくれればそれでいいのです。死のうが、帰ろうが最終的にいなければそれでいい」
「だったら今すぐ俺を······」
いや、今俺が戻ったら魔王との約束はどうなるんだ?
あいつが命をかけてまで守った世界を俺が見捨ててどうする?
「まあ、戻ったとしてもあなたを待つ人はいないけどね」
「どういうこと、ぐはっ」
「こうやって踏んであげると部下が喜ぶのよね。これはご褒美ね」
王女は問いかけようとした勇者の身体を思いっきり踏みつけそのままの体勢で話し始める。
「魔法について詳しくなったあなたなら疑問は持たないの? 異世界から人を一人召喚するなんて莫大な魔力が必要になるわ。とても一人の魔力では足りない······そうね、例えば200人くらいの魔力を使えばどうかしら?」
「おい、まさかっ!」
「獣人を100人程生け贄にしたわ。それとあなたの世界からも相当の数が犠牲になったはずよ。妹さんも含めてね」
──俺がこの世界に来た時点で全て終わっていたのか?
──なら、これまでの俺の努力はどうなる?
──俺は、何のためにこの世界で生きていたんだ?
「その顔、永遠に保存してたいわね。あなたの相棒さんと一緒にね」
いつの間にか王女の手にはサッカーボール程の布に包まれたものを手に取っていた。
それを俺の目の前に置く。
「もういい! やめてくれ! 殺すなら早く俺を殺せよ!」
「綺麗よね椿ちゃん。でも、あなたは好きじゃないわ。椿ちゃんは最後まで立ち続けたわよ。早く殺して、なんて彼女が聞いたら悲しむでしょうね」
確かにそうだな。
椿なら俺のために最後まで立ち向かってくれていたはずだ。
でも、もう俺には何も残ってないんだ。
帰りを待つ家族もいなければ、苦楽を共にした相棒もいない。
味方は敵に代わり、俺の命を狙う。
せめて俺ができることと言えば俺たちを裏切った者に天罰を、と願うこと。
もしももう一度この世界で生を受けたならば俺は復讐を果たすために人であることを捨てよう。
地獄の果てまで追い詰めて俺が味わった絶望を味わわせて殺したい。
「それじゃ、さようなら勇者。感謝するわあなたのおかげで裏の四天王を復活させることができたわ。せめて来世はまともな人生を送れるといいわね」
王女は手にした剣を逆さに持ち正確に俺の心臓を貫いた。
──すまない杏子。お兄ちゃん、お前を助けることができなかった。
──すまない椿。俺はお前の相棒失格だな。
──すまない魔王。あんたとの約束、守れなかった。
王女に心臓を刺された勇者はついに絶命する。
「さぁ、死体はさっさと処理してちょうだい。これで不安因子は全て取り除いたわ。んっ? な、何よこれ! まぶしいっ!」
死んだはずの勇者が突然輝きだす。
いや、正確に言うなら勇者の腰に提げている袋から淡い紫の光りが漏れだしていた。
その光りは段々と強く濃くなり、遂には袋を突き破って中から結晶が姿を現した。
「こ、これはなん、なんですの?」
紫に輝く結晶は真っ直ぐに勇者の心臓に向かい、身体に取り込まれる。
初めの光りとは比べ物にならない程の光量が辺りを覆い、桁違いの大きさの魔方陣が世界全体を包み込む。
【対象の死亡を確認。発動条件に従いスキルを実行します】
【対象の記憶を保持したままスキル、レベルをリセット】
【完了。これまでの取得経験値をマイナス経験値として追加】
【完了。スキル  完全消去を発動します】
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