チート級能力は学園では封印します。

紫水シズ

8

 土曜日──。


 薄暗い森の中に佇む古い寮で、蒼と瑞穂は一日二人きりという
状況。
 今日はたきさんもはるさんも二人揃って外泊らしい。


「おはよう蒼くん。」


 階段から降りてくる蒼に声をかけた。
 昨日の痛々しかった傷は一晩で随分と回復し、腫れも痛みも随分と引いているようだ。


「おはよう瑞穂さん。」


「待ってて、今ご飯ついであげる。傷はどう?」


 席を立ち、キッチンへ向かいながら蒼に問う。


「まだ少し痛むけど随分良くなったよ。瑞穂さんたちのおかげだね。」


 そう言って、蒼は笑いながら頬に貼られたガーゼを押さえた。
 昨日の出来事を思い出すと、たった一晩でここまで傷が癒えたことが信じられないほどである。
 しかし、瑞穂にとっては蒼がいつもどおりでいてくれればそれでよかった。


「あ、そういえば今日はたきさんもはるさんも帰らないみたい。」


「え?どうして?」


 蒼は座ろうと椅子を引いた手を止めて瑞穂に聞き返した。


「ごめんなさい。そこまで聞いてなかった。」


 そう言って瑞穂は、蒼の朝食をお盆にのせ蒼の座る席へ置くと、その正面の椅子に腰を掛けた。
 寮の朝食はいつも和食で、今日も味噌汁に漬物、納豆、鮭と和食の定番メニューだった。


 はるさんの料理は質素だが、これでなかなか美味しいのだ。
 簡単に合掌をして手に箸を持つと、目の前の席に座った瑞穂が満面の笑みを向けていた。


「な、なに?」


「なんにも。」


 と言いつつも顔はそうは言っていない。
 何をしたわけでもないのに一方的に笑顔を向けられ、恐怖さえ感じていた。
 食べづらい雰囲気の中、焼き魚を一口サイズ掴み口へ運んだ。


「……。」


「……。」


 変わらず無言で笑う瑞穂に、違和感を感じながらも咀嚼を続ける蒼。
 その空気に耐えきれずに蒼が口を開いた。


「えっと……おいしいよ。」


「ほんと?! よかったあ! あ、おかわりもあるよ!」(うふふ。私の笑顔に癒されて。)


「う、うん。ありがとう……。」(瑞穂さんが作ったわけじゃないのに、なんであんなに嬉しそうなんだろう……。)


 互いに相手の思考を探りながらの食事という異様な光景が目の前に広がっている。
 瑞穂の笑顔はさらに明るいものになり、ますます意図が読めなくなる蒼であった。


 食事を終え、二人はそれぞれの部屋へ戻り布団に潜っていた。


「かなり治ってる。休み明けの学校には問題なく通えるかな。」


 傷の心配はなくなったが、数日後、蒼には別の問題が待ち構えている。
 入学して最初のイベントで、クラスメイトや同級生間の仲を深める意味で行われる遠足。


 学園生活において、瑞穂は蒼にとっての天敵と言える存在。
 ただでさえ存在するだけで目立つ瑞穂は、穏やかな学園生活を脅かす存在であるというのに、この度瑞穂に近づけば純也の重い拳を喰らうというオプション付きなのである。
 特に今回の遠足では瑞穂と同じ班で、蒼にとっては入学早々地獄行きツアーとなってしまったのだ。


 つまり、今の蒼が抱える問題というのは、いかに瑞穂と関わることなく学園生活を送るかということなのだ。
 しかし、避けようとしているはずなのに、何故か気がつけばいつも瑞穂は蒼の隣にいるようになってしまったのだ。


 ベッドに寝転がったまま腕組みをして唸り超えを上げていると、扉をノックする音が聞こえた。


「蒼くん。お昼はなにがいい?」


 どうやら昼食のリクエストを聞きに来たようだ。
 自分のことで目の前の男が悩んでいるなど考えもしないのだろう。


「瑞穂さんに任せるよ。」


「んー。それが一番困るんだけどなあ。」


 そう言いながら扉を閉めると、ぶつぶつとつぶやきながら階段を降りていった。


 しばらくして、寮の玄関の扉が閉まる音が聞こえ窓から外を覗くと、瑞穂が買い出しへ行くところだった。
 この寮は深い森の中に孤独に佇んでいる。
 食材の調達は街まで降りる必要があり、普段ははるさんが車で買い出しへ行くのだが、今日ははるさんがいないため瑞穂が食材の買い出しへ行っている。
 これから食材を買いに行くのであれば、昼食を食べるころには午後になっているだろう。


「お昼まで怪我人はおとなしく寝ておかないと。」


 誰に語るわけでもなくそうつぶやいて蒼は目を閉じた。

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