チート級能力は学園では封印します。

紫水シズ

7

 放課後の教室は、まだ下校していないクラスの生徒たちでいっぱいだった。
 しかし、それだけの人数がいながら、その教室は静寂に包まれ物音一つ聞こえなかった。


 蒼の口から赤い液体が流れた。
 体と一緒に吹き飛ばされた椅子にもたれかかり、起き上がろうとふらついていた。
 突然胸ぐらをつかまれ、強い力で引っ張られた。
 純也は蒼の耳に顔を近づけつぶやいた。


「言ったよな……?夜空に近づくなって……?」


 蒼は以前、瑞穂に近づくなと純也に脅されていた。
 そして今日、たしかに遠足で同じ班になってしまった瑞穂と言葉をかわしたが、それは班にとっても必要な話し合いで避けることはできない。
 それは純也も承知のはずだが、彼は胸ぐらをつかんだまま蒼の顔面を殴り続けた。


 固く握った拳は、高く振り上げられ重い一撃となって何度も蒼の頬を殴りつけた。
 教室にはたくさんの生徒がいたが、野次馬も集まり更に人数が増えているようだ。
 しかしそれだけの人間がいるにもかかわらず、血が床や壁に飛び散っても誰も純也を止めようとするものはいなかった。
 その目は同情の色を写すばかりで、自分が巻き込まれまいと数歩離れた距離から眺めるだけだった。


 しかし、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりの視線の群れの中から、一人の女性が現れた。


「蒼くん!!」


 背後から大きな声が聞こえた純也は後ろを振り向いた。
 その声の主を確認するや、掴んでいた胸ぐらを投げ捨てるように離した。


「蒼くんしっかり!」


 瑞穂は横たわる蒼に駆け寄り、そっと体を支え呼びかけた。


「なんでこんなこと……。」


 背後で去ろうとする純也に、背を向けたまま問いかけた。
 順屋は足を止め一瞬遅れて口を開いた。


「目障りだからだ……。」


 つぶやくと純也は教室のドアに向かって歩き出した。
 廊下まで続く野次馬の群れは、純也が近づくと返り血まみれの彼に道を譲るように彼を避けた。


「早く保健室に……! 誰か手伝って!」


 瑞穂が呼びかけると何人もの男子が彼女に手を貸し、蒼を保健室まで抱えていった。
 瑞穂もそれに付き添い、保健室まで足を運んだ。


 残された野次馬たちは瑞穂の姿が見えなくなると、ようやく閉ざしていた口を開き始めた。


「怖かったー……。」


「G組は危ないな。」


「あの子大丈夫かな……。」


「あの女の子よく止めてくれたよ。」


「てかあの子めっちゃ可愛くなかった?」


「それな。何組の子?」


「G組の子じゃないっけ?」


「G組か……。G組にはもったいないな……。」


 この事件から騒ぎの中心になった三人は、クラスでも注目される存在になった。
 特に瑞穂はもともとクラス内で信頼するものも多かったが、今回の件で噂が噂を呼び学年でも知るものはいないほどの有名人になった。


 蒼と瑞穂はその日、放課後に迎えに来てもらったはるさんの車で帰宅することになった。


 そして次の日の朝──。


「ふあ〜……。おはようございます、たきさん。」


「あらおはよう瑞穂ちゃん。」


 ぼさぼさの髪に半開きの目で、階段から降りてきたのは瑞穂だった。
 瑞穂が降りてきたのを確認すると、たきさんは朝ごはんをよそうために席を立った。


「たきさん……蒼くんは?」


「まだ降りてきてないよ。」


 瑞穂は昨日のことを思い出すと、蒼のことが心配になり席を立った。


「……ちょっと様子見てきます。」


 勢い良く階段を駆け上がり、一番奥の蒼の部屋のドアをノックした。


「蒼くん……。起きてる……?」


「…………。」


 返事はなかった。
 瑞穂はゆっくりドアの取っ手に手をかけた。


(……開いてる。)


 ドアを開け部屋を覗くと部屋の隅にベッドがあり、布団が少し盛り上がっていた。
 部屋に入り布団に近づくと、一定の間隔で布団が膨らんではしぼんでいた。


(寝てるのかな……。)


 瑞穂が布団を覗くと、蒼は気持ちよさそうに眠っていた。
 一日しか時間は経ってないが、すでに腫れは収まり痛みも引いてきているようだった。


 あれだけやられて反撃は全くできなかったが、回復力だけは一人前のようだ。
 少し驚いたというか呆れた様子だったが、瑞穂は蒼の寝顔を見ていると安心した。


「蒼くんはどうだった?」


「気持ちよさそうに寝てました。もう大丈夫みたいです。」


「良かったわ。傷だらけで帰ってきたときは本当に心配したわよ。」


 たきさんもあのあと、蒼がぼろぼろの状態ではるさんの車から降りて来たのを見て顔を真っ青にしていた。
 保健室で手当は済ませてあったので、蒼は帰るやいなやすぐに床についていたが、瑞穂の言葉を聞いてたきさんも一安心といった表情だ。


「瑞穂ちゃんは今日はどうするのかしら?」


「特に予定はないですけど。なにかあるんですか?」


「今日は私もはるちゃんも外に出るから、蒼くんのことお願いしたいの。」


 そう言いながらたきさんは手元にあった小さな手提げバッグをひょいっと上げてみせた。


「わかりました、任せてください!」


 瑞穂は自信満々に胸を叩いて見せた。
 それとほぼ同時にはるさんがたきさんを迎えにやってきた。


「たきさん、車の準備できましたよ。」


「わかったわ。じゃあ瑞穂ちゃん、あとのことは任せたわね。」


 先に外へ出たはるさんの後を追って、たきさんも手提げを持って外へ出た。


 窓から車が出るのを確認して部屋に戻ろうとしたとき、階段から丁度蒼が降りてきたところだった。

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