チート級能力は学園では封印します。

紫水シズ

6

 純也から屋上に呼び出されて数日が経過した。蒼は接触してくる瑞穂をなんとか避け続けている。少しでも仲良くしようものなら純也によって処刑されてしまうだろう。そんなスリルのある毎日を送っていた蒼。そして学園では、入学して最初のイベントがもうすぐそこまで近づいていた。そのイベントは『遠足』である。


 高校生にもなって「遠足かよ」と思ってはいたが、実際にその日が近づくと、皆その日が楽しみで仕方がないようだ。中には楽しみすぎて頭がおかしくなったものもいるようだが、そいつはもとから馬鹿なので、周りのクラスメイトもさほど気にせず安定の無視を決め込んでいた。もっとも、松風は「落ち着け安嶋。うるさいぞ」といつも通り軽めに叱りつけていたが。蒼もまた、その日を楽しみにしている生徒の一人であったが、ホームルーム中の松風の一言で一気に地獄の遠足へと変わるのだった。


「それじゃあ今度の遠足の班のことだが……」


「え!! 自由っすか!!」


「馬鹿なことを言ってるな。出席番号順だ」


 クラスはブーイングの嵐だが松風は「これは決定事項だ」と譲れない様子。まあそれも当然だろう。まだ月日の立っていないクラスで遠足の班を生徒に任せていては、確実に班を組めないものも出てくるだろう。もしそのあぶれてしまった生徒を他の班に入れてしまえば、班の他のメンバーは仲良しで自分だけ孤独、という状況になりかねない。この遠足はクラスの交友関係を広く深いものにするためのもの。この選択が最善であることは蒼にもわかること。


 ただ、蒼にとってこの班決めは他の問題を浮上させることになるのだ。それはもちろん、確実に夜空瑞穂と同じ班になるということ。番号がクラス最後の蒼とその一つ前の瑞穂が同じ班になることは、何人の班になったとしても変わることはない。


 これに気づき教室を見回しときには、男子の視線は痛いものになっていた。そして純也も「わかってんだろうな……」という目で蒼を睨みつけている。これはまた面倒なことになったと頭を抱えていると、前の席から「蒼くんよろしくね」という百店満点の笑みが向けられていた。普通の男子高校生ならばこの笑顔でイチコロなのだろうが、蒼にとってはこれ以上ない『平和な学園生活を脅かす、最凶最悪の女神の微笑み』であった。もう恐ろしくて周りを見回すこともできない。そんな蒼の心とは相反して、瑞穂にとってはより一層その日が待ち遠しい一日となった。


(絶対に蒼くんを振り向かせてやるんだから!)


 このままでは蒼を振り向かせるどころか、ますます蒼は瑞穂から離れようとするということは知る由もない。ホームルームでは、他に特別な連絡事項などもなく、その日の午後まではいつもどおりの時間が流れていた。しかし、今日の午後の授業はいつもとは違って、遠足の説明や班での役割決めなどの時間になっていた。


 はじめに遠足のしおりと書かれた手作りの冊子が配られ、それに沿って遠足での注意事項や予定を三十分ほどかけて説明された。そしてそれが終わると、班ごとに遠足の役割決め、遠足先での行動の予定を立てる時間だ。ちなみに班は六人班が七班あり、蒼たちの班は蒼と瑞穂のほかに男女二人ずつを加えた男女比一対一のバランスのいい班である。


「えっと、じゃあまずみんなやりたい仕事とかあるかな。」


 はじめに言葉を発し班を仕切るのは、クラスの委員長である『守谷もりや かえで』である。
 彼女は責任感が強い真面目な女性だ。
 学校が始まってすぐにクラス委員を決めることになったのだが、彼女は率先して自ら委員長に立候補した。
 他に誰も立候補者がいなかったため、このクラスの委員長は彼女で決定した。


 「あ、あの……。すみません、そもそもなんの役職があるんでしたっけ……。」


 おどおどして申し訳なさそうに手を上げたのは『桃井ももい ゆう』。
 女性のような名前をしているがれっきとした男子である。
 メガネをかけ控えめな性格をしている上に名前が女っぽいと、一部の男子にはいじめられることも多い。


「あらら〜? 優ちゃんはそんなことも把握してないのかい? 可愛いね〜。私がいい子いい子してあげるからこっちにおいで〜。」


 このおかしな女性は『水樹みずき 純子じゅんこ』。
 自他ともに認める変態であるが、草食系男子にしか興味がない。
 故に下ネタを連呼するような連中とは好んで関わろうとはせず、優のようなおとなしい男を狙っては反応を楽しんでいる。
 しかし面倒みはよく、変態という性格と整ったきれいな顔立ちに制服の上からでもわかるほどの巨乳の持ち主で、男子の間ではかなり人気が高い。
 しかし彼女は草食系の男子しか相手にしないので、みな自分から積極的にアタックできないというジレンマに陥るのだ。


「おいやめろ……。優がこわがってんだろ……。」


 静かに低い声で注意したのは『弥生やよい 翔太しょうた』。
 とにかくクール。何事にも冷静に取り組む。入学してから目立つようなこともなく、謎に包まれていて正直良くわからない男。


「い、いや……、いいんだ弥生くん。僕がちゃんと把握してないのがいけないんだし……。」


 優はうつむき自分を責めるように翔太を抑えた。


「キャー!優くんか〜わ〜い〜い〜!!」


「……く、くるしい。」


 純子は優に抱きつき、優は純子の胸に顔を押し付けられるような形になっていた。
 羨ましそうな野郎共の視線が集まるが、ほんとに苦しそうである。
 翔太は呆れ、蒼は優に同情していた。


 楓と瑞穂は興奮する純子を落ち着かせ、優を純子の胸の圧力から救い出した。
 優は顔を真っ青にして息を切らし、涙なのか鼻水なのかよだれなのか、全くわからないひどい顔をしていた。
 これだけの容姿とスタイルを持った女性の胸に顔を埋められたら男としてはこの上ないほどの幸せなのだろうが、優を見ていると同情する気持ちしか湧いてこないのはなぜだろうか。


「はいはい、じゃあ役割を決めるよ。とりあえ班長はどうせみんなしないだろうから私がやるけどいい?」


 他に誰もやらないだろうし、クラス委員長を務める楓ならば問題ないだろうと皆楓が班長になることに賛成した。


「はいじゃあ、副班長は?」


「じゃあ俺が……。」


 手を上げたのは翔太だった。
 同じ他にやりたいものも何か不安があるものもおらず、翔太が副班長となった。
 班長と副班長が決まり、残りの役割分担は二人のおかげですぐに決まった。


 優は記録係、純子は保健係、蒼と瑞穂はレクリエーション係となった。
 記録係は写真を取ったり旅先での出来事を記録すること、保健係は班員の体調管理と衛生管理、班員が体調を崩したときの連絡という仕事を任されている。


 そして蒼と瑞穂のレクリエーション係というのは、はっきり言うと余りくじ。
 遠足前に、バスなどの移動中クラスや班で何をするか決めるだけで、当日は保険や記録係の手伝いをする程度である。


「ごめんねみんな。大変な仕事任せちゃって。何かできることがあったら私達に言ってね。」


「ありがとう瑞穂。頼りにしてるわね。」


 瑞穂は男子の憧れの的であるが、女子からの信頼も厚い。それはクラス委員長である楓からも同様のようだ。


「瑞穂はいいやつだねー。蒼くんも瑞穂ばっかりに任せっきりじゃなくて、ちゃんと働くんだぞ?」


「うん、わかってるよ。」


 そう言った純子は、優を取り上げられ今度は瑞穂に抱きつきついていた。


「さて、じゃあ次は回るルートだけど──。」


 今回の遠足の場所は大型遊園地だった。
 時間の使い方やどのアトラクションに行くかは自由だが、その敷地の広さ故にある程度の計画を立てる必要があるらしい。
 と言ってもどの班も行きたい場所を一人ずつ挙げて、チェックを入れただけのようだ。蒼たちの班も同じく、地図にチェックを入れどのルートで回るかを簡単に記入した。


「あとは持ってくるものだけだけど、これも適当に決めちゃいましょう。」


 それぞれで持参するものもなんの問題もなく決まり、あとはそれを準備し当日を待つのみとなった。
 話し合いが終わると解散し、各々自分の席へ戻っていった。


 当日も何事もなく終わることを願っているが、蒼は先程から刺さる視線が気になっていた。
 それはクラスの問題児、純也の視線だった。


 朝のホームルームで班の発表があったときからその視線は向けられていたが、放課後ついに純也は蒼のもとへと歩み寄ってきた。


「おい……。」


「なにかな……?」


 次の瞬間、純也の拳が蒼の左頬を捉え、蒼は座っていた椅子ごと宙を舞った。

「チート級能力は学園では封印します。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く