チート級能力は学園では封印します。

紫水シズ

4

 今朝も蒼はいつものように登校していた。最近瑞穂といると他の男子からの視線が以前にも増して痛く感じる。静かな学園生活を望む蒼にとって、瑞穂というカリスマ的存在ははっきり言って邪魔な存在だった。しかしそんな蒼に突き刺さる視線も、彼女は全く気づいていない。ここ最近どうしたものかと悩んでいた。


 そんなこともあり、数日前から蒼はできるだけ一人で登校するようにしていた。その旨を伝えると今朝も瑞穂はふくれていたが、そのまま寮に置いてきた。そして教室についたわけだが、案の定、数名の男子からの鋭い視線を集めた。しかししばらくして、教室のドアからクラスのアイドル夜空瑞穂が入ってくるやいなや、その視線は優しく輝いた視線へと変わり、それは蒼から瑞穂へと移っていくのである。


 彼女が席に移動するとともに、その視線も彼女を追って移動する。彼女が席につくと、先程まで自分に向いた視線が一つ前の席に移動しただけのはずなのに、こんなにも違いがあるのかと思うほどに皆の表情は違っていた。


 チャイムと同時に、今度は教室のドアから担任の松風がやってきてホームルームが始まった。そういえば、今日は『健康診断』があるらしい。蒼は、クラスメイトとどうすればいい付き合いができるのかばかり考えていて、健康診断のことなど忘れていた。健康診断はただ身長や体重やその他諸々を測るだけなのだが、校舎内外を行ったり来たりして正直面倒な行事だ。


 ホームルームが終わると、女子だけ教室を出て更衣室へと向かった。健康診断中女子は、上半身の下着を外すことを強制されている。学内には思春期の男女がいるわけで、男女別々に測定することは当然の配慮である。そういうわけで女子は先に測定へ向かうわけなのだが、女子が教室を出て行くやいなや、先程の恨みでも込めたような視線が再び蒼を突き刺した。やはり瑞穂と親しげなのが他の男子的には気に食わないのだろう。学園生活に安寧を求める蒼にとって、瑞穂は天敵なのだ。別に何をしたわけでもない蒼は、恨みのこもった視線にただ苦笑いをすることしかできなかった。そんな気が重くなるような視線の中でも診断は実行され、蒼は最後に渡される診断シートを手に教室へ戻っていった。


「身長172センチ、体重57キロか……。ちょっと痩せ気味かな……」


 身長は周りの男子の中では高い方だが、特別目立つほどの高身長というわけではない。それどころか、どちらかというと見た目は根暗で地味な雰囲気、むしろ影は薄いほうだろう。『夜空瑞穂』さえいなければの話だが……。体型も太っている方ではなく、見た感じからして『もやし』や『木偶の坊』という言葉が似合いそうな感じだ。不本意ながら自分でもその言葉があっていると思っている。


 教室へ戻ると、先に診断を終えた出席番号が蒼より若い男子、つまりは男子全員が教室で自由に話し込んでいた。しかし当然のごとく蒼が戻れば、三度あの目へと切り替わる。するとさらに、見るからにガラの悪い三人のヤンキーが蒼に近づいてきた。真ん中のリーダー格の男が顔を近づけ、鋭い目つきで蒼を睨んだ。


「おい、てめえ。夜空に気にいられてるからって、調子乗ってんじゃねえぞ。あいつがてめぇみたいな貧弱やろうに気があるわけねぇだろ」


「僕はそんなこと、全然……」


 蒼は萎縮しながらも、男を両手で遮るようにして苦笑いを浮かべた。すると廊下の方から女子の話し声が聞こえ、教室の方に近づいてきた。どうやら女子も着替えまで終わらせて帰ってきたようだ。


「ちっ……。おいお前、後で面貸せや。屋上に一人で来い」


 断る隙も無く男たちは席につき、それとほぼ同時に教室のドアが開き女子たちが帰ってきた。面倒くさいことには巻き込まれたくないというのに、早速面倒なことになったものだと蒼は頭を抱えた。自分が原因で、蒼が大変なことになっているとも知らず、瑞穂は席に着くやいなや早速楽しげに蒼に話をかけた。そんな瑞穂に蒼は心の中で「もう勘弁してください……」と涙を流していた。

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