ななさんの地球録

夜ノ灯

○3ページ目


最近、何かがおかしい気がする。
自分がおかしいのか、ななさんがおかしいのか分からないけど。
どこか噛み合わない、どこかが違う感覚。かといって具体的に違う所が分かっているかと言えばそうでもない。胸にモヤモヤとしたものが溜まっていく一方だ。

例えば、「今日は寒いね」と僕が言うと動揺したような様子で「風邪か?暖炉に火を入れるか?それともコートを持ってくるか?」と顔をじーっと見つめながら問いかけられたり、別の日に僕が「今日は外が明るいね」と話しかけると狼狽えて「そうだな」と言ったきり黙りこくられたり…あ、柱に足をぶつけたときは過剰に心配されて包帯でぐるぐる巻きにされたあと、木の板みたいな物で固定されたこともあった。

距離がどんどんと離れていくような気分。
もちろん心配されるのが嫌とかじゃなくて、前なら足をぶつけたって言ったら「馬鹿だなぁ」って笑われただろうし、寒いって言ったら「日頃から体を動かさないのが悪い」って呆れられただろう。ガラス玉みたいな瞳が僕に向くと泳ぐ、あわあわと動かされる細くて白い手に、ななさんが知らない誰かになっていくような不安感だけが募る。

「ミロク?」
そんなに不安そうな顔しないでよ。
すでに泣いているんじゃないかと思うほど目を潤ませて、座った僕に目線を合わせるななさん。どうやら長い時間ボーッとしてしまっていたようだ。


大丈夫だよ。


言葉は体の中に残ったままで、外に出てこない。声が出ない。大丈夫、大丈夫。ななさんの顔を見て確かに言う。ただただ空気が漏れるだけ。話せない。何で?どうして?

泣きそうな目に、泣きそうな僕の顔が映ってるのが分かった。声を出すのは諦めていつの間にか抱き締めてくれていた白い腕を落ち着かせるように優しく撫でる。


もう置いていかないで、心の中で叫ぶ声がした。

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