旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

自由への代償『中』


作戦を思い出しながら覚悟を決め、シャルルはそっとナーシャの髪を解くように撫でた。

ナーシャはゆらりと尻尾を揺らしながらシャルルに身を擦り寄せる。

その様子を、ケイは少し離れた場所で見守りながら少しだけ微笑んだ。

人とビースト。

これが本来あるべき姿なのだと心でケイは呟く。
ケイは腰に下げた剣に触れ、そして強く握り混む。

二人の未来を守るのだと、静かに決意を固めた。

そうした最中、準備は着々と進んで行く。
大きな荷物が馬車へと乗せられ、がルドの声が響いた。

「準備は言いかー?!お前らー!」

「あぁ。問題ないぜ!あんたが納品書さえ忘れてなけりゃな」

「そんなわけあるか!!商売始めてどれくらい経つと思ってんだ!!」


「それでも、忘れもんは多いけどな。納品書とかもったかぁ?」

「んなもんここに……っ!」

慌てて取りに戻る情けない姿を晒し、笑いが起こった。シャルルとナーシャは少しだけ緊張感が解かれた。

このまま何事もなく目的地である月光花の丘とリアクト街道の分かれ道まで行ければ良い。

そんな事を考えていると、ケイが近付いてきた。
シャルルとナーシャに、声をかける。

「さてと、そろそろ出発よ二人とも。準備は良い?もしもまだなら、言ってちょうだいね!もう少しなら待てるから」

「ううん、大丈夫。準備は万端だよ!」
と笑顔で答えた。

「よし!それじゃあ馬車に乗ってちょうだい。馬車の奥の方は少しスペースを開けてあるの。簡易的なものだけど椅子とランタンが置いてあるからそれを使ってね!」

「色々ありがとねケイさん...。本当にありがとう」

「その言葉は全部うまく行ったらね!ほら、そろそろ行きましょ!」

背中を軽く叩かれつつ、二人は馬車へと乗り込んでいく。そして馬車の奥の方へと進み、大きな荷物の影に隠れつつ用意されていた椅子へと腰を掛ける。


シャルルが椅子へと座るとナーシャはシャルルの膝の上へと腰を掛けた。

シャルルは後ろから手を回し、ナーシャを後ろから抱き締める。

ケイは二人が乗り込んだのを確認すると辺りを見渡した。怪しい人影は今のところは見当たらない。

一応の安全は確保できたかと安堵したが、静かに深呼吸をして気を引き締めた。そしてガルドに合図を送る。

「よっしゃ、出発するぞー!!」

大きな声が響くと、ギルドのメンバーが馬車へと乗り込み腰を掛けた。そしてゆっくりと、馬車は動き出す。

動き出した馬車にケイが乗り込むと、少しずつスピードをあげていった。とは言え、まだ王国内であるため、そこまでのスピードは出ていないのだが。

ゴロゴロと車輪の音が馬車に響く。

シャルル達の座る位置からでは外の様子は伺えないが、今のところは止められる様子はない。

ナーシャは小さくなりながらシャルルに身を寄せた。
片手でしっかり、小さな身体を抱き締める。

もう片手は、剣を握る。

暫くして馬車が止まった。
どうやら関所へ着いたようだ。

外からケイの声と、関所の兵士だろうか。
あまりハッキリとは聞こえないが、出国の手続きをしているようだ。

箱の中身を手短に確認している様子も隙間から見える。

少し大きな声が聞こえ、馬車はまた動き出す。
どうやら上手く誤魔化せたらしい。

しばらく馬車は揺れ、街道を進む。
すると、ケイが馬車へと乗り込み、シャルル達のいる場所へとやってきた。

空いている椅子へと腰を下ろし、二人を見て笑顔を見せる。

「上手くやりすごせたようね。暫くは大丈夫な筈よ。シャルちゃん。ナーシャちゃん」

その言葉に、シャルルとナーシャは安堵の貯め息をついた。しかしまだこれからだ。無事に街道を抜けて、迷いの森と呼ばれる場所まで行かなければ。

そして馬車は、月光花の丘へと進んで行くのであった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品