旅人少女の冒険綺譚
「自由への足枷」
翌朝。
シャルルの泊まる部屋の中で、ナーシャの喜びの声と怒りの声が響いていた。
当然の事ながら、怒られている相手はシャルルである。
「もう!にゃーしゃが寝た後に、勝手に居なくなってるなんて!!しかも血だらけで倒れてなんて!もー!あのおねーさんが助けてくれなかったら大変な事になってたんだよ?」
「あはは...だから謝ってるじゃない。ごめんってばー。もうそんなことしないからね?約束するから!」
「だめー!元気になってくれたのはすごーく嬉しいけど!!もう抱き着いてスリスリしたいけどだめー!」
「あーもー、どうしたら許してくれるのさー。頭撫でてあげよっか?ほらおいでー?」
「むむむー...!」
ナーシャはシャルルの膝にちょこんと座り、じぃとシャルルを見詰めた。
シャルルも見詰め返しながら頭に手を触れて優しく撫でる。
「ふにゃ...ナャル...」
先程の怒りの顔は何処へやら。
蕩けた表情を浮かべながら、シャルルの手にすり寄りシャルルを抱き締めた。
「...本当にもう駄目だから...にゃーしゃを一人にしないで...?」
それが本心なのだろう。
ナーシャはシャルルに身体を預けながらそう耳元で呟いた。シャルルはごめんねと小さく零しながらナーシャの頭を撫でつつ身体を寄せる。
「あら、お楽しみ中だった?」
不意に声が聞こえ、扉の方へと目をやるとケイの姿があった。
「いや、その聞き方だと色々まずいんじゃ」
「ふふ、まぁ良いじゃない。大丈夫?シャルちゃん。傷はもう平気?」
「はい、お陰様で。」
「妖精を扱える医療魔法の人が居れば、回復も早いんだけど...。うちのギルドには居ないからね。兎に角元気そうで良かった。」
ケイはシャルルの横に座ると、手に持っていた数枚の紙を手渡した。シャルルは紙を受け取ると、さっと目を通して行く。名簿帳だろうか。そこにはナーシャの名前が記されていた。ナーシャも紙に目を通していくか、頭の上にハテナマークが飛び交っている。
「これって...」
「そう、これが誘拐された人の名簿帳。そして...その組織の正体が分かったわ。もう一枚の紙に、それが書いてあるから...。」
シャルルはもう一枚の紙に目を通す。
そして内容を読み進めて行くと、シャルルは言葉を失った。
「そ、そんな....」
そこに書かれていたのは、ビーストを奴隷として売る為の許可証だった。しかも了承の印は見たことがある。
入国窓口に掲げられた旗だ。
紛れもなく、ヴェデルディア王国騎士団の紋章だ。
「...シャルちゃんを襲ったのは、騎士団直属のギルドかもね...。奴隷市をやってる組織が雇った暗殺ギルドかも。...となると、もしかしたら一刻を争う事態かも知れないわ。裏取引でヴェデルディア王国の騎士団が絡んでいるとなると国を出るのも困難になるわ。」
「ど、どうしよう...今すぐにでも逃げた方が良いかな...?!国の外にさえ出られれば、そのまま迷いの森まで駆け抜けちゃうけど。」
「迷いの森?貴女達迷いの森に行くの?成る程ね...それなら丁度良いかも」
「え?」
「良いアイディアを思いついたわ、シャルちゃん。多分此処に騎士団が来るのも、時間の問題だし...。それに今日なら一番都合が良いわ。よし、作戦の決行は夕方ね!作戦は後で伝えるから、いつでも出発出来るように準備だけしておいて!」
「う、うん...」
ぽかんとした表情を浮かべた二人を置いて、ケイはそそくさと部屋の外へと出て行く。
ナーシャは少し心配そうにしながらシャルルに問いかけた。
「逃げるの...?」
「うん、私たち追われる身になってるから...。大丈夫、私がついてるからね」
心配そうな表情を浮かべるナーシャを優しく撫でた。ナーシャの抱き着く力が少し強くなる。
「ごめんにゃさい...」
ナーシャの小さな言葉。
それに答えるように、シャルルはまた優しく抱き締めたのだった。
_____。_______。。。。。__
夕刻。
夕焼けに照らされるヴェデルディア王国の市民街の一角に、フードを被ったシャルルとナーシャの姿があった。
そして二人の前に、大きな馬車が止まっている。シャルルは見覚えがある馬車に、もしかしてと思考を巡らせた。まぁもしかしても何も、シャルルが護衛した馬車と同じだ。
と言うことは__。
「ガハハ、久しぶりだなシャルロット!!」
「やっぱりガルドさんだったか...お久しぶりです。」
出会った頃と変わらず、大きな声だ。
名を呼ばれたら少しまずいんじゃないかと言う気もするが__。
ナーシャはガルドの大きな声に驚いてシャルルの後ろに隠れてしまった。心配そうな表情を浮かべながらシャルルを見上げる。
まぁ無理も無いかとシャルルは苦笑を浮かべた。
「久しぶりって程でもねぇけどな!今回のま作戦について、ケイから話は聞いてるぜ!安心しな!」
「う、うん」
少しの不安と期待を込めて、シャルルは決意を固めた。大丈夫、きっと上手くいく。後ろで小さく怯えるナーシャを優しく撫でたのであった。
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