旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

「託された約束」

シャルルが意識を失い数時間が過ぎた頃。
シャルルはゆっくりと目を開けた。
  

「...何処だろう...見覚えがあるような...ないような...」


シャルルが目を覚まして一番最初に目に飛び込んできたのは、見覚えがある天井だった。
ゆっくりと身体を起こすと、身体中に包帯が巻かれていたが、どうやら傷口は塞がっているようだ。


一つため息を零すと、辺りを見渡す。シャルルの隣にはナーシャの姿があった。身体を小さく丸めながら、寝息をたてて眠っている。

「よかった...ニャーシャ...無事だったんだね...」

眠るナーシャの頭を撫でる。よく見れば、目元は腫れていて涙の後が残っていた。ついさっきまで、泣いていたのかもしれない。

もう1度辺りを見渡すと、やはり見覚えがあった。部屋の壁に掛けられた絵や、部屋の隅に置かれた花瓶。クローゼットなども見たことがある。もしかして...私の記憶が正しければ__。

「...ここって...。」

「ギルドハウスよ。シャルちゃん」

「け、ケイさん?!」

空かれた扉の先に、ケイの姿があった。
手にはタオルと桶を持っている。シャルルの様子を見に来たようだ。シャルルは少し頭を下げながら、こちらに近付いてくるケイを見詰める。そうだ、ここはギルドハウスかとシャルルは思い出した。

護衛の後、椿との戦いの傷が癒えるまでお世
話になっていたマスターのギルドのギルドハウスだ__。

ケイは桶を机に置くと、タオルを濡らしてよく絞りシャルルに手渡した。シャルルはタオルを受け取ると、目覚ましにと顔を拭いていく。その様子を見ながら、ケイは椅子に座り、シャルルを見た。

「まったくもう。次はどんな無茶をしたの?今朝に出ていってから、その日の内にあんな重傷になって倒れてるなんて」

「私は...。その...。」

シャルルは目を反らしながら、ナーシャを見た。この子を守るために戦ったのだが...。
ナイフを持つあの男に敗れた事を思い出す。


「お前の敵だ__シャルロット」


意識を失う前に、わざわざ聞こえるように言われたこの言葉が頭に焼き付いていた。
刺された箇所が少し痛む。

そしてもう一つ、シャルルにとって身体では無く心が痛むことがあった。このギルドハウスを、お世話になりましたと出ていってから一日も経たずに、また帰ってくる事になるとは...。しかもまたボロボロの重傷で__。

申し訳ない気持ちと、情けない気持ちがシャルルの表情を曇らせる。そんなシャルルの様子をケイは見詰め、苦笑いを浮かべつつ言った。

「___無理に話せとは言わないけど...無茶しすぎよ?貴女は女の子なんだから、少し落ち着かないと...。変な所が彼に似てるんだから。」

シャルルはマスターの事だと直ぐに分かった。マスターもまた、誰かを守るために戦う誇り高き冒険者だったのだから。少し嬉しい気もするが...マスターはまだ目覚めていない。シャルルはまた少しだけ複雑な気持ちになっていた。

「うん...ごめんなさい」

「謝る事はないのだけどね...?あと、ナーシャちゃんにも、後で謝っておきなさいね?貴女が倒れてから、ずっと傍を離れないで泣き続けてたんだから...」

「ん、ナーシャ...?」

「あら、貴女が助けたその子ってナーシャじゃないの?」

「この子の名前はニャーシャだったと思うんだけど...。」

ケイが言うには、猫族は話す際に訛りが出てしまう事があるという。シャルルの事をニャルルやニャルと呼ぶように、ナーシャをニャーシャと名乗ってしまう癖があってもおかしくはない。

なんとなく、ニャルルやニャルと呼ばれた時点で察しは付いていたはずなのだが__。


シャルルは俯きつつ恥ずかしそうにしながら呟いた。

「た...多分ケイさんの呼び方であってると思います...」

「まぁシャルちゃんは猫族の子は初めてだろうし、無理も無いかもね」

「ケイさんは...猫族の事、知ってるんですか?」ケイが冒険者だと言うことに驚きはしなかった。表情を見るに昔に何かあったのは間違いない。

「あの、何かあったんですか...?」

「そうね...シャルちゃんは知っておくべき事かもね。この国が、ビーストを...。差別している理由を。」

「...はい、聞かせてくれたら嬉しいかも...」

「何年前の話になるのかな___。」



ーーーーーー。ーーーーー。。。ーーーー。
ケイは俯きながら、寂しそうな表情を浮かべながら。少しずつ話し始めた。その昔、人とビースト族は仲良く暮らしていたが、魔女との戦争の際。余りに強い力を持つビーストを人々が恐れたのだ。

魔女との戦いは終わったと言うのに、魔法の呪いは大地を覆ったままだったために、人々は恐怖したのだ。

その恐れ、恐怖は人を混乱させ、噂が噂を呼んだ_。


「あいつらは魔女の使い魔だ__。」



それから何が起こったかと言えば、人によるビースト狩りだ。恐れるか故に、ビーストを捉え、かつて共に戦った仲間を焼き討ちにしてしまったのである。

ビースト達は最後まで、人のことを信じ続けたが、結局悲劇は止められなかったのだ。


______。_____。。。___

「簡単に言えば、そんな昔話があったのよ」

俯き、悲しそうな目をしながらケイは話をさしてくれた。シャルルも、表情は明るくは無い。自然と布団を強く握っていた。

「ケイさんは...、ナーシャの事何とも思わないんですか?」

「....私ね。シャルちゃんと同じ事をしてた事があるの」

「それって...助けてたって事?」

「うん。その子は元気で明るい子だったわ。私が冒険者として、色々な場所へ行ってた時、その子に出会ったの。」

「...あの、今その子は...?」

その質問をしたとき。シャルルはしまったと思った。いつも優しく、微笑みを絶やさないケイの頬に、雫が流れたからである。

「...守れなかった。あの時...もう少し私に力が有れば良かったのにね...。」

「....。」

「シャルちゃん、一つお願いがあるの」

「...私に出来ることなら、何だってやるよ。私の命の恩人ですし」

その言葉を聞いて、ケイは立ち上がると棚へと向かった。そして棚から何かを取り出すとシャルルへと手を伸ばした。

「ナーシャを送り届けるって聞いたからね...そのついでに、これをね。あの子の両親に渡してあげて欲しいの。」

シャルルは差し出されたケイの手から、小さな首輪を受け取った。貝殻や動物の骨で作られている。装飾の施された牙の骨に、文字が掘ってあった。


『僕の一番のお友達へ___。』と。


「それね。冒険のお守りにって私に作ってくれたの。本来なら...私が届けに行かなきゃいけないんだけど...。どうしても怖くて...。」

「....分かりました。必ず届けます。」

「ありがとう...。」
ケイは涙を流しつつも笑っていた。

「ナーシャもしっかり届けてあげないとね...。」

シャルルはそう呟きながらナーシャの頭を撫でた。小さく丸くなりながら眠っている。
ケイは二人を眺めながら、いつものように優しく微笑みを浮かべていた。

「ねぇシャルちゃん。その子を襲ったって言う相手は...目星は付いてるの?」

「それが全く..。ナーシャに詳しく聞きたいけど...。あんまり思い出させたくないし..私がこの子を助けるには、敵の正体を暴かないと...。」


「そうね...。でも駄目よシャルちゃん?貴女は今怪我人なんだから。動けるだろうけど、無茶したら傷口開いちゃうからね?ここで大人しくしてること。良い?私も協力するから。」

あははとシャルルは苦笑を浮かべた。動けるなら直ぐにでも調査しようかと思っていたのだが。

「それと、シャルちゃんとナーシャちゃんは追われる身になってる筈だから、軽はずみな行動も禁止ね?勿論の事だけど、戦闘なんてしたらそれこそ次はないからね?」

「ぜ、善処しまーす...」

「良い返事!分かってくれたなら良いの。それじゃあもうお休みね。治癒を早める魔法を掛けてるから、早く怪我を治すならよく寝ること!いい?」

「はーい...。ねぇ、ケイさん」

「ん?なーに?」

「....ありがとね。」

「...お互い様よ」

そう言うとケイは客室を後にした。
シャルルは改めて布団に横になると目を閉じる。これからどうしようかと考えつつも、シャルルは眠りにつくのであった。









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