旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

5-2「巻き込まれた陰謀」

ギルドを後にしてシャルルが向かったのは、ヴェデルティア王国国営図書館だった。
旅人故に、本の貸りる事は出来ないが、本を読むことは誰にでも許可されているため、シャルルでも読むことは可能だ。


しかし図書館の一番奥にある大きな木の扉に掲げられた閲覧禁止書物庫と書かれた札の先に並べられた本は、特別許可証が無いと入れないし読むことは許されていない。

それは当然の話だが、閲覧禁止書物庫の扉に掲げられた立て札には「扉を開けた者は死ぬ」と書かれていた。


「...冗談にしても恐ろしすぎでしょこれ。」

とシャルルも苦笑を浮かべた。
そもそも、閲覧禁止書物を扱っていること自体がおかしいのでは?とも思う。

見られたら駄目な本なら、地下にでも隠しておけば良いのにと呟きながら、その扉を後にして歩き始めた。


何でも揃っていそうな図書館を、ゆっくりと歩いて回る。何せ凄まじい量の本が壁一面に並んでいるのだ。目当ての本を探すだけで一苦労。

「...魔女について...書かれた本は...あと魔物とか魔獣の図鑑とかあれば...」

散々探し回った結果、ある程度の本は見付かった。魔女の話の童話と、かつて同じように世界を旅した人の自伝を数冊。術式に付いての本数冊だ。

シャルルは机にこれらの本を積み上げた。
席に座り、魔女の童話の本を手に取る。
そしてゆっくり読み始めた。

「むかしむかし__。
悪い魔女がおりました__。」

かつて世界を闇の世界へと貶めた魔女は、国々から集められた英雄達により打ち倒され、もう2度と悪さが出来ないように、大地の巫女により封印された。と簡単な言葉と分かりやすい絵が描かれている。


闇に覆われた世界と、太陽の様に光が差す英雄達の絵。魔女について書いていると言うよりは、子供にはさぞ喜ばれそうな英雄の話に近い内容だった。


魔女について詳しい話は載っていなかった。
魔女の起源。何故魔女という存在が生まれたのか。とか、魔女の特技とか、その対策とかが分かればと思ったのだが...。まぁ子供向けの児童本に、それらの事を求めるのが間違っているのだ。

なのでこの本から分かるのは、魔女は世界を闇で覆ったと言うこと。そして英雄と呼ばれた人達に打ち倒された事。大地の巫女という存在に、亡骸を封印したと言うことだ。


話を読み終わり、後書きをざっくりと読みすすめる。後書きにも、あまり魔女の話は載っていない。最後に著者名に目を通した。

「著者...ローレンス・クラーク...?ローレンスって...ケルト帝国の賢者様?!」

意外な名前だった。まぁ当事者だったと言う証言はあったし、カイウスも魔女を倒した一人はローレンスだと話していたから、分からなくは無いんだけど...。ローレンスが絵本を描いていた事が以外な話だろう。



世界は案外狭いんだなぁと呟きながら読んだ絵本を置いた。そして2冊目に手を伸ばす。かつて旅人だった男の冒険譚だそうだ。

「旅人の先輩になる方の自伝...だよね。今後の約に立ちそうなことが書いてあれば良いんだけどなぁ」

ほんの少し期待しながら本を開く。
そしてゆっくり読み始めたのだが__。


残念無念とはこの事を言うのだろうか。


何の手掛かりにもならない事ばかり書かれていた。国の話は殆ど書いてはいなかったし、魔物の事もちらほらと書いてはいるものの、描写が曖昧で、どちらかと言えばこいつら倒して旅してた俺凄くね?!みたいな自慢話に似たような内容だった。


途中から嫌気がさしてパラパラと目で流し読みしていく。ゆっくり読んでいては永遠に自慢話が書かれていそうだったからである。そして本を閉じてため息をついた。


「はぁー...何これ...。こんな自伝的小説...今の私でも書けるんじゃ無いの...?てか最後に半分はフィクションですって書いてる!!?あーもう!」


シャルルは少しご立腹だった。旅に役立ちそうな事が書いてあるかと思ったのに。しかも最後の方は、最早投げやり。


世界の果ては君も旅人になって確かめよう!みたいな内容だ。シャルルも必然的に世界の果てを目指す事になるのだが...。答えを先に知ってしまうのは面白くないかも?でも少しくらい書いてくれてもと複雑な心境だった。


というか、フィクションが含まれるなら完全には信じられないじゃないかと、色々考えたのに結局最後の一文により全て曖昧。散々踊らされた自分に、また腹が立った。


そしてまた一つため息をつく。
自伝小説を読むのはやめた方が良いのかもと思いつつ、次の本に手を伸ばす。

「初心者でも分かる術式解説...ね。これもあんまり期待できそうに無いかなぁ...」

期待はしていなかったが、案の定。
初心者でも分かるとは、まるっきり初心者の話では無い。少し術式について分かってるけど、応用が出来ない人が読む本と言っても過言では無い。

シャルルは術式についてはまるっきりの初心者だ。いきなり、魔道書を媒体としてとか、剣や杖を媒体にと言われても知るよしが無い。そもそも媒体にってどう媒体にするの?!と言った具合だ。

魔力を剣に送り攻撃する。と言うのは実は術式に基づいて行われているのだが...その事はシャルルは知らない。ただ無意識に、と言う話だ。


「はぁ...結局どれもこれも、あんまり参考にならなかったなぁ...結局、魔女は封印されたって事しか分からなかったし...?」

山の様に積み上げた本は、あまり参考になる物は無く、結局無駄骨に終わった。またまたため息を一つ零すと、大きく背伸びをする。
今まで同じ体制だったために、パキパキと身体から軋む音が聞こえるが、それがなんとも心地よかった。

物音が聞こえ、ふと後ろを振り返る。
そこには閲覧禁止書物庫からカイウスが出て来た所だった。またまた意外な人物の登場に、シャルルは椅子からこけそうになりつつ、カイウスに走り寄る。

「カイウスさん...!」

「あら、シャルロット様ではないですか。こんな所でお会いするとは...。此方からまたお迎えに上がろうかと思っていたのですよ。また入れ違いになる所でしたね」

カイウスは苦笑を浮かべた。

「シャルロット様...あれから、大丈夫ですか?色々心配になるような事を聞いていたので私は大変心配だったのですが...」

「うーん...まだ何とも言えません。でも身体は大丈夫です。怪我もそんなに無いですし」

心配をかけないように微笑みを浮かべながら言った。カイウスはじっとシャルルを見下ろしている。

シャルルが無理をして笑っているのが明白だったのだ。しかしカイウスはシャルルの気持ちを察して笑顔を向けた。

「シャルロット様...いいえ、今は止めておきましょう...。所でシャルロット様。このような場所で何か調べ物ですか?」

「うん、魔女の事とか術式の事とか。色々調べてたんですよ。まぁあんまり参考には成らなかったですけど」

「そうですか...。実は私も、今閲覧禁止書物から色々調べ物をしていたのです。魔女について...そしてギルドのマスター様の受けた術式について__。ローレンス殿からの指示でも有りましたからね。」

「ローレンスさんが...?でもローレンスさんは魔女と戦ったんですよね...。魔女の事なら色々知ってそうだけど...、カイウスさん?」

カイウスは辺りを見渡していた。
何やら視線を感じたようで、その視線の先をジッと睨む。2階にある本棚にあった人影が、すっと奥へと消えていた。

「あぁ、すいませんシャルロット様。少し場所を移しましょう。此処では他の方に迷惑になりますからね」

「え?は、はい...」

シャルルは机の上に置いていた本を片付けると、カイウスと共に外へ出た。図書館から然程離れていない場所にあったカフェの中へと入る。そしてお店の一番奥の席へと座る。

シャルルは、別に図書館の中でも良かったんじゃないか?と思いつつ、カイウスの言うとおり奥の席へと座った。

「ご注文は何にしますか?」

「紅茶二つと、木の実のケーキを一つ下さい。」

さらさらと注文をとり、畏まりましたと店員が離れる。その様子をカイウスは見ていた。

「あの...カイウスさん?何かありました?」

人を警戒している様子だ。もしかしたら、何かあったのでは?と問いかける。

「...いえ、此処数日の間。何者かが着けているような気がしているのです...。私の思い過ごしなら良いのですが...」

「なんだか穏やかじゃ無いですね..。」

「そうですね...」
神妙な面持ちで、カイウスは目を伏せている。シャルルはこのようなカイウスの姿は見たことが無かったために、少し心配になっていた。

「シャルロット様。魔女について、どのような所まで御存知ですか?」

「んーと...絵本に出て来るような所だけですよ?英雄によって倒された魔女は大地の巫女に封印されたーとか。」


「そうです。大体は史実と一致しております。今魔女の死体は大地の巫女により封印されているのですが、...実はですね。詳しく言えませんが...魔女の復活を企む者達が動き出していると言う情報が入ったのです。」

「魔女の復活...?!」

「えぇ。シャルロット様。その可能性が高くなりました...。魔女の特徴は、不気味なほどに濃い赤い瞳を宿すと言われています。そして闇の霧を纏うとも。シャルロット様達を襲った椿という女性もまた、赤い瞳を宿していた...。故に、椿はまだ生きている__。」

息を飲んで話を聞いていた。
まさか、あの人斬りも魔女だと言うのだろうか。そしてもう一人、シャルルには思い当たる人が居る。その者の名は__。


ルーシェ__!
やっぱり、あの女性は。
ルーシェはやはり魔女なのか__?
はやり伝えるべきなのだろうか。ルーシェと言う女性に会ったことを。


そしてもしかしたら、あの飛行艇を襲った犯人なのかも知れないと。しかしいざ言おうとしても、シャルルは言えなかった。


「あのねカイウスさん...もしも...仮に封印が解けたら...どうなるの?ただ死体が出て来ておしまいになりそうな物だけど...」

「悪魔の魔女は、ある種次元が違います。不老不死と言っても過言では無い...。今は極限まで魔力とマナを削り、動けなくしたそのままの状態で封印しているのです。」

「つまり封印が解けたら...時間が経てば元気に戻るって話だよね...。倒したと言ってるけど、正確には倒し切れては居なくて...もう悪さ出来ないように封印したと__。」

「仰る通りです。」

「....それでもしも魔女が復活したら...世界はやっぱり__。」
 
「さぁ...検討もつきませんね...。___シャルロット様。...貴女には魔女の復活を企む者が居る事を知っておいて欲しかった。それと、椿という人斬りはまだ生きていると言うこと。この二つは、あのギルドマスターの闇の術式を解く鍵になるとローレンス殿も言っておられます。」

「マスターの助ける鍵...」

お待たせしましたと店員は二人の前に紅茶とシャルルの前に木の実のケーキが置かれた。
シャルルは頭の中を整理しようと精一杯だ。その様子を見ながらカイウスは言った。

「少し話に夢中になりすぎましたね。折角ケーキも紅茶も来たのです。甘い物でも食べて少し休憩しましょう。」

シャルルは目の前に置かれた木の実のケーキをぼんやりと眺めた。ケーキに手を着ける前に、紅茶を飲み一息つく。


そして思う。
本当に嫌いだ...魔女なんて...。

そんな事を思いながら、目の前に置かれたケーキを半ばヤケ食いしていったのだった。







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