旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

3-3「宿探しは慎重に」

「あの、そう言えばなんですけど...魔女って一体...?」

二人は目を丸くしながらシャルルを見た。

「おやシャルロットやら。魔女について何も知らんのかの?どの世代でも、魔女については誰もが知っとるものだと思っていたのじゃが...」

「ローレンス殿、シャルロット様はこの若さで旅人になろうと言う御方です。きっと歴史を学ぶ時間などは無かったのですよ。」

「成る程のう。それじゃあ簡単に魔女について話してやろう。」

そう。シャルルには魔女についての知識は、ハッキリと言えるが全く持っていなかった。なにせ文献などは読ませてもらえていないし、図書館などの立ち入りは禁止されていた。

シャルルの師匠から教えてもらった事と言えば、自然の中で生き抜く術と軽い剣術。肝心な教養は全くと言っていいほど教わっていない。
 
ローレンスとカイウスが話していた魔女についてはかなり緊迫していた様子だった。しかもシャルルは、冗談とはいえ魔女を名乗った女性と出会っている。知っていて損はないし、これはチャンスかもしれない。

ローレンスは紅茶を一口飲んでから、魔女についてゆっくりと話し始めた。

「魔女とは悪魔の力に魅入られた女性のことじゃ。魔法使いの女性と勘違いする子供が多いのじゃがそれは違う。」

「魔女って聞いたとき、魔法使いの女性ってイメージだったけど違うんですね...。悪魔の力に魅入られた女性...ですか。」

「左様。悪魔の力とは闇の力...。深い悲しみや憎しみにより、闇の力はより増大し力を増す。まぁそれだけでは魔女にはならんのじゃがな。簡単に魔女の事を言うので有れば、闇の力を授かった者と思えば良い」

「闇の力...。」

「そうじゃ。暗黒や闇ほど強く禍々しい力は無い...。その昔じゃが世界を覆う程の闇が襲った時代もあった...。じゃが安心せい。とうの昔に魔女は全員打ち倒され封印されておる。国民の皆が知っておる魔女の話というのは魔女と勇者の戦いじゃ。真実を知るものは、もう少なくなってしまったがの。」

「え?真実を知るって事はつまり__」

「ローレンス殿が賢者と呼ばれる由縁で御座います。つまり、ローレンス殿は魔女討伐隊に参加されていたのですよ。魔女を聖剣で見事打ち倒した一人とされていますね。」

「成る程ー...そりゃ賢者と呼ばれる訳か。てっきり大魔法使いとかそんなのかと。」

「知識があるのと使えるのとでは、話は違いますからね」

「余計な事は言わんでよいわカイウス!」
 
それからシャルルとカイウス、ローレンスの三人は談笑しながら紅茶を嗜んだ。先程の緊迫した様子は無いが、なんとなくシャルルは少しだけ居たたまられない様子だった。


今にして思えば、話相手はケルト帝国の騎士団長様と賢者様。二人には慣れている光景なのかもしれないが、シャルルからしたら異例の光景だ。さっきのメイドが隣に待機していたり、ケーキとかもあるし...。田舎から出て来たばかりのただの小娘が、こんな場所で優雅にお茶を飲んでいるとは...。


そんなシャルルの居たたまれない様子をいち早く察するのがやはり騎士たる性なのだろうか?それとも人の事を見る力に長けているのか。カイウスは時折シャルルの様子をうかがいつつ話題を振った。


「そういえばシャルロット様、今後の御予定は?随分と御時間を頂いているので、少し心配ではあるのですが」

「いいや、この後は特に何もないんですけどね。強いて言うなら、宿探しをしないといけないなーって」


「あらら、まだ宿は見つかっていなかったのですね。てっきり、先に宿を見付けてから迷っていたのかと」


「あはは...」


そりゃそうだ。旅の基本の一つ、街に着いたらまずは宿の確保!!である。宿の確保をおそろかにすると、宿が見つからずに野宿せざるおえない状況になる。...まさに、ここをキャンプ地とする!だ。


「夜になると、ケルト帝国で宿を取るのは難しいでしょうね。メインストリートの周りは特に。メインストリートから少し離れた民宿
ならば、宿は空いているとは思いますが...」


「まぁきっと何とかなりすよ。いざとなれば野宿でもしますし__。」


「野宿はやめた方が良いと思うぞ、シャルロットやら」ローレンスは一口お茶菓子として出ていたビスケットを食べながら言った。


「この付近は盗賊や魔物が多いのじゃ。人が集まる所には当然悪い奴らも集まってくる。外で寝よう物なら、一晩で丸裸にされるじゃろう。」


そうなのかと甘く見ていたのを後悔した。旅人として、初の大陸を渡り此処まで来たが、キャンプをするのにも充分警戒が必要なようだ。始まりの森でキャンプをしたときは、本当に遊びのような感覚だったが__。


「...聞いておいて良かったです...。肝に銘じておきます」 

「ほほほ、それがいいぞシャルロットやら。それに、街中でも襲われておった事を忘れる出ないぞ?気を付けてな」

グハッ...胸に突き刺さる言葉だ。
そう言えばそうだ。カイウスさんが来なければ本当に...最悪殺人を犯すことになっていた。

カイウスは壁に掛けられた大きな時計を見た。いつの間にやら昼を過ぎていた。

「さてさて、そろそろお開きに致しましょうか。昼ももう過ぎる頃ですし。シャルロット様の御時間をこれ以上奪うわけにもいきませんから」


カイウスのその一言により、今回の事情聴取はお開きとなった。まぁ後半は殆どお茶を飲んでいただけなのだが。


王宮入り口まで、カイウスに案内され別れを告げる。別れ際、もしも泊まる場所が見つからなければ、また訪ねてください。王宮の客間の一室を御用意致しますので!と言われたが、流石にそれは気が引けた。何か恩が有るわけでも無い。どちらかと言えば、助けられた方だ。

それだけシャルルの情報は役にたったのだろうか?それならば良いのだけどと心で思う。


シャルルはまたメインストリートをのんびりと歩いた。途中、宿の看板を見ては料金を確認していくのだが...

「はぁー...高いよねーやっぱり...ぱーっと泊まっても良いけど今後の事を考えたらそうも言ってられないし...。」

看板に書かれた値段を見ると、げんなりするような値ばかりだった。シャルルの手持ちでは数日泊まれば無くなってしまう。希望としては、折角泊まるなら2~3日は泊まりたい。

半ば諦めかけていたその時、一件の宿屋に目がついた。

「冒険者の宿...?」

古めかしい木の看板にはそう書かれていた。値段は書いていないが、もしかしたらとシャルルは冒険者の宿の戸を開く。

受付には、いかにもな男が座っていた。
壁には様々な剣や斧などが飾られている。
まさに、冒険者の宿...。

「いらっしゃい、ここは冒険者の宿だよ。」 

「あの、何日か泊まりたくて来たんだけど...部屋は空いてる?」

「お?!てことは嬢ちゃんは冒険者かい?」

「いいや...冒険者じゃなくて旅人...かな」

「そうかい、ここは冒険者専門の宿なんだがなぁ...」

ごもっとも。看板には冒険者の宿と書かれている。しかし折角この店に入ったのだ。はいそうですかと諦めるわけにもいかない。
...とはいえ、そこまで固着する必要も無いのだ。お金はある。高くても泊まればするから適当に選んでも問題は無い。

しかしシャルルの意思は堅かった。
まぁ宿探しが面倒になったのが、ここに泊まりたい要因なのだが__。
その事は心に秘め、シャルルは交渉に出た。


「えっと...2、3日だけでも良いんだけど...。それに私で良ければ、泊めてくれた御礼に冒険者のお仕事もお手伝いするし!」

「んー...確かにそいつはありがたい。冒険者の仕事が多いから助かるっちゃ助かるんだが...でも嬢ちゃんは旅人だろ?」

こうなったら奥の手だ。
喰らうが良い店主よ。

「駄目...かな?」
涙目作戦、決行。シャルル渾身の上目遣いが店主に向けられる。

「はぁ、分かった分かった。今回は特別だぜ嬢ちゃん?」

「本当?!ありがとう!」
なんともしてやったり!シャルルの作戦は見事成功だ。少なくとも数日宿無しは回避出来る。

「しかし交換条件だ。今日から3日後になるんだが、一つ仕事を頼まれて欲しいんだ。それを引き受けてくれるんなら、この宿に泊めてやるよ」

泊めてやると言ってからの交換条件。
冒険者の宿の店主も中々のやり手である。
しかしシャルルは宿が決まったことにほっとしていた。つい気が緩んでしまっていた。

「うんうん!全然OKだよ!それで三日後の仕事って何?」

「それは三日後の朝になってからのお楽しみだ。冒険者なら直ぐにでも教えてやるが、旅人だからな。しっかり働いて貰うぜ?依頼主にも伝えておくから、逃げ出すんじゃねーぞ?」

「もう、そんな事しないってば。私約束だけは絶対に守る主義よ?」

「はは、そいつは結構な心構えだ。んじゃ、こいつはお前さんの泊まる部屋の鍵。それから宿代だが、そいつは後払いだ。勿論仕事をこなせたなら、報酬から宿代は差し引いてやる。俺もこう見えて商人だからな。」

「分かった、それじゃあ三日後の朝に此処に来るからね」

「あぁ、よろしく頼むぜ」

こうして、やっと?の思いで宿を確保出来た訳なのだが...。三日後、シャルルに課せられる仕事が、今後とんでもない事件に巻き込まれるなど知るよしも無かったのだった。

__________________。。_○。



少し魔女の話を追加しました。


「旅人少女の冒険綺譚」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く