旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

3-3「その男、賢者につき」

二人はメインストリートを歩き、帝都の中心にある王宮へと足を踏み入れた。カイウスは本当に騎士団長のようで、門番にはお疲れ様と声をかけるだけで門が開き、王宮へは顔パス。召使い達もすれ違う時は必ず頭を下げていた。

そんな騎士様と何かを話したかと言えば、帝国のグルメな話だった。

名物屋台や、シャルルが迷ってまで行きたかった地元の人しか知らないお店等々お腹が空くような話しかしていない。

そして気が付けば王宮にいて、ここまで来たというわけだ。



客室へと入ると、二人は対面し椅子に腰をかけた。流石王宮...椅子と言うよりベッドに近い気がする。フカフカ過ぎて逆に違和感を感じるほどだ。そして辺りを見ると誰が描いたのか分からない様な大きな絵が、壁に飾られていた。

「さて、どうでしたでしょう?ケルト帝国のメインストリート。楽しんで頂けたでしょうか?」

「まぁ、それなりには。後で一つ一つ食べてみようかなーと!」

「そうですか、それなりにでも楽しんでくれたなら良かった。シャルロット様の口に合う物が有れば良いんですがね。」

「ところであの、カイウス...様?」

「様は付けなくても大丈夫ですよ。お気になさらず」と笑顔で答えた。なんとも騎士の鏡のような人である。

それでも一応目上の人だ。しかも会って間もない初対面。急に呼び捨てには出来ない。

「それじゃあカイウスさん、聞きたいことがあるんですけど...何で私の名前を?それにここに招待されるような身分でもないですよ?私。」

「はは、それは簡単なお話ですよシャルロット様。あの飛行艇を襲ったとされる魔物の目撃者として、ブルースカイからの伝書に書いてあったから。と言うのが一つ目の質問の答えとなりますね。」


あぁ、なるほど。
つまりあの警備兵の人が報告していたと。確かに、騎士団へと連絡しておくと言っていたから、名前を知らない事は無いだろう。他の乗客には秘密だと言っていたから...一応は極秘のお話となるのだろうか。


「それともう一つ。ここにお連れした理由ですね。それもあの例の魔物についてのお話です__。」

カイウスの表情が変わった。
優しい口調に変わりが無いが、部屋の空気というかなんというか...。

「飛行艇があの魔物に襲われてから、ブルースカイと伝書で交信した後、我々は事件の疑いもあるとして、調査団を派遣したのです。」


「事件の疑い...?誰かが飛行艇を襲ったとか魔物を操ったとか?」


「えぇ。何らかの作為により飛行艇を襲った輩がいる可能性もあったのですよ。飛行艇は空の上。見張る者は警備兵のみ。そんな中で飛行艇が堕とされた、としたら...。犯人は目撃者として魔物に襲われているのを見たと言えば、それが通る可能性も十分にあった。」

「確かに...。でも結局は あの魔物の仕業だったってことでしょうか?」

「はい。我々はそう断定しました。あの海域一帯と、何とか辿り着いた壊滅状態の飛行艇を細かく調査したのですが...。滅多に折れることの無い支柱がねじ曲がり、船内まで届くほどの大きな噛み後がしっかり残されていました。あまり語りたくない光景も、見受けられましたがね...。」

「うわぁ...あんまり想像したくないなぁ...」

「...その方が賢明でしょう。でも御安心を。いずれ、あの魔物に関しては討伐隊を編成した後、討伐作戦を決行する予定です。その為にも情報を。シャルロット様が知るあの魔物について、何でもいい。教えて頂きたいのです...!」

「そうなんですか...私の知ってることで良ければ。役に立つかどうかは分からないですけど」

シャルルは鞄から手帳を取り出して絵を見せた。ブルースカイで描いた空飛ぶ魚の魔物の絵だ。

「んー...黒いですね...」

「その日は星が綺麗で、月も出ていたんですけど...何故かその魔物は黒かったんです。黒いと言うよりは...影のような...、黒色の靄が出てるような感じだったかな...」


「というと、元々が黒色の魔物という訳でもなさそうですねぇ...。」


「多分ですけどね。それで、その黒い影がこっちに近付いてきたんです...。でもまた離れていっちゃって。それから雲に包まれて消えてしまった感じです。」

「その魔物は...やはり大きかったですか?」

「はい、ブルースカイに突進されたら一溜まりも無いなって思いましたから...。」

「ふーむ...」

少しの間、沈黙が続く。
カイウスはどう討伐するかと悩んでいるのだろうか。シャルルはこんな事が役にたつのかなと心配していた。

そんな沈黙を破るかのように、客室の扉が開いた。顎髭を蓄えた老人が、杖をつきながらゆっくりと歩いてくる。この方もケルト帝国のお偉いさんなのだろうか。老人の羽織るローブには、ケルト帝国の紋章が刺繍されていた。

「おほほ、随分と難しい顔をしとるなぁカイウス」

「これは、ローレンス殿...!」

カイウスは立ち上がり、膝をついて頭を下げた。シャルルは相変わらず、え?なに?!といった表情であたふたしている

「ほほぉ、これが噂に聞く魔物の絵かのぉ...。どれ、ちと見せて貰うよ?」

杖をポンと床に着くと、フワリと手帳は宙を舞い、ローレンスの前へ飛んで行く。開かれたページに描かれた魔物の姿をローレンスは眺める。

「「...」」
カイウスは息を飲みながら、ローレンスを見ていた。シャルルは誰だろうこの人?とキョトンとしていたが。

「ふむ...。空飛ぶ魔物...それにこの形...これは...ワシの憶測が正しければ....精霊魔法使いの仕業かもの__。」

「え!?」

「精霊魔法...で御座いますか...。」

「お主は精霊魔法は知っておろう...?あの魔物は魔物では無いのかもしれん...精霊の可能性がある。本来であれば、精霊を具現化したとき。その精霊の姿形で現れるのじゃが...。この絵を見るに、姿は黒く、黒の霧に覆われておるようにも見える...。暗黒魔法により呼び出された精霊の特徴と一致しておるの。」

「つまり、その暗黒魔法?の使い手が精霊を呼び出して飛行艇を襲わせたって事...なのかな?」

我ながら冴えてるのかも!とシャルルは脳天気に思いながら言った。

「うむ、簡単に言えばその通りじゃ。」

「ちょっとお待ち下さいローレンス殿...。仮にあの魔物が暗黒面に落ちた精霊魔法だと仮定すると...それは魔女が蘇ったと仰るのですか__?」

「...え?」
今...魔女って...?

「そう言うことになるのカイウスよ。」

「し、しかし!魔女は全員__!」

「...あくまでもこれは仮定の話じゃよカイウス。本当に蘇ったとまだ断言は出来ん。」 
_____。

シャルルは二人の会話の中に、魔女の言葉が出て来たことに驚いていた。聞き間違いなんかじゃない。確かに魔女と言った。そしてあの日の出来事を思い出す。

自らを魔女と名乗った女___。

今まで関係ないただの目撃者だと、楽観的に聞いていたシャルルだったが、まさか...。
色々な可能性が脳裏を過ぎる。

あの女が飛行艇を襲った...?さらにもしかするとブルースカイを襲うつもりだった...?
いや、襲うつもりで精霊魔法を使ったんだ...!

冷や汗が、頬を流れる。

「シャルロット様...?大丈夫で御座いますか?」

声を掛けられ、はっと我に返る。

「あ、あぁ...ごめんなさい。少し考え事をしてしまって」

「こちらこそ、シャルロット様を置いて話に熱中し過ぎてしまいました...。少し落ち着きましょう...。それに、お客様にお茶を出すのも忘れていましたね。私としたことが失礼しました。」

カイウスはパチンと指を鳴らした。
それが合図なのか、召使いがいつの間にか隣に居て、失礼致しますと紅茶を入れる準備を始める。慣れた手つきで、ぱぱりと目の前にティーカップが置かれ紅茶が注がれた。

「この人何処に居たんだろう__。」
素朴な疑問を抱きつつ、頂きますと一口飲んだ。素朴だが、そこまで渋みも無く飲みやすい。花に抜ける紅茶の風味がなんとも心地よかった。

「所でそちらのお方は?」

「そうじゃった、まだ自己紹介がまだじゃったの!ワシの名はローレンス。皆からは賢者と呼ばれとるよ。」

シャルルは、また凄い人が出て来たなぁと、苦笑を浮かべるのだった。











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