旅人少女の冒険綺譚
3-1「ケルト帝国へようこそ!」
次の日。
朝食を終えてから身支度を整えた。デザートにグラシアの実を食べたのはいつもの事である。
何がともあれ、これでいつでも出られる体制だ。シャルルは、外へ出て景色を眺めていた。
雲を切り抜けて空が開けると、ブルースカイの飛ぶ先に大きな大陸が見えてきた。緑に覆われた中に、人工物で溢れた街の輪郭が浮かび上がる。
「あれがケルト帝国...!」
そう、今見えているのがケルト帝国だ。
シャルルは胸を躍らせながら瞳の先に景色を焼き付けるのだった。
_________。○○○。。。____
飛行艇がケルト帝国へと着港した、とアナウンスが流れた。荷物を持ち、ブルースカイからゆっくりと降りてゆく。
振り返りつつ、変な思い出が多かったけど、楽しかったと心で思で呟く。ブルースカイは悪くない。悪いのは魔物や変な大人のせいだ。
久し振りに地上へ舞い降りたシャルルだが、妙に足がふらふらとしていた。たった二日の空の旅だが...。空の旅は風の影響で揺れやすいため、その感覚がまだ残っていたのだ。
そんな初めての感覚を楽しみつつ当たりの景色や町並みを見渡した。町並みはそこまでデオールと変わらなかったが、一つ大きな違いがある。
「大きな川...、それに大きなゲート!」
飛行艇ブルースカイの着港した港のそばには、大きなゲートがあった。そこの奥には、ブルースカイとはまた別の飛行艇が停まっている。
そしてまた圧巻の景色だ。
街の上から流れ出る川が、一直線に海へと流れ出ていたのだ。整備されてこうなったのか、それとも自然の賜物なのかまでは分からないが、一直線に伸びる川と言うのは初めての光景だった。
そんな景色を眺めながらシャルルは入国するための関所へと足を運んだ。入国の手続きをシャルルが知っているかと言われれば....。
「えっと、チケットを見せて...ん?何するんだろ?自己紹介でいいのかな?」
知るよしも無かった__。
_※_ここでも簡単な説明をしておくと、街や村に入るのには手続きは必要ないのだが、それを納める国や帝国などの王宮や帝都がある場所には、入国の手続きが必要だ。
因みに今回はブルースカイからの入国の為、身分証明はチケットを見せるだけでOKである。
何故なら、デオールの街でチケットを買う際、既に身分証明を済ませているからだ。
まぁ今回は師匠がチケットを買ったため、保護者として入国の手続きを済ませてくれていた形となる。
シャルルがその事実を知っているかと言えば心許ない。そんなシャルルが何故関所へ自信満々に歩き出しているのか...。簡単な話だ。他の乗客達がそちらへと歩いて行ったからである。
典型的な知ったか振りを発動中なわけだ。
素直に聞けば良いのだが__。
今後別の国や帝都で恥をかくことになるのは間違いない。
「見様見真似で何とかなるもんね!さーて、初めての大陸で初めての国!ケルト帝国を楽しむぞぉー!」
とお気楽なシャルルだったのだが__。
「ここ...何処?」
土地勘は無ければ、知り合いもいない。
完全孤立の状態でシャルルは路地裏に居た。
「さっきまでメインストリートを歩いてて...それでーえっと...、左...いや右だっけ!?それからお花の咲いてた道に入ってー...えっとー...」
思い出せ!どうやってここまで来たのかを!
なんとか先程まで歩いていた道を思い出そうとするも...思い出せるわけも無かった。帝都は広く、メインストリートを逸れてしまえば後は見渡す限りの民家街だ。
至る所に川が流れている上に、町並みはメインストリートを除けば似たような景色ばかり。目印もあると言えばあるが、それはメインストリートからしか見えない。
迷子になるまで、5分とかからないだろう。
「メインストリートを逸れたのが間違いだったぁ...!観光地以外の地元名物とかお店とかに行きたかったのに...。」
グルメの帝都と謳われていたために、ご当地の美味しい物を!でも折角なら地元の人が行くような場所へ__。と食い意地を張った結果だ。
もう一つシャルルの運が悪かった事がある。
それは__。
「おいねぇちゃん、こんな所でなーにやってんの?暇なら今から俺達と良い所へ遊びに行かねぇか?」
どんな街でも居る物だ。ゴロつきやチンピラと言うやつは。しかも此処は見知らぬ土地で見知らぬ場所。さらに悪いことを上げるなら、袋小路で逃げ場が無い。そして三人相手と手詰まりだ。
「はは...。最悪だぁ...」
苦笑を浮かべ、先程までの自分の行動を呪いたいと強く願った。
「なぁ、ねぇちゃん。いいだろぉ?俺達そんな悪い奴じゃねーからよぉ」
「私、今貴男たちに構ってる暇ないんだよね。当たるなら他を当たってくれないかな」
「嘘つくなよぉ、道に迷ってんだろぉ?だから俺達が案内してやるってんだよぉ」
と、三人の中の二人はナイフを取り出し此方に向けた。真ん中の一人は腕を組み、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべている。
「はぁー、結局は力尽くでやろうって?それでも貴方達男なの!男ならバーッと熱いハートでアタックしてみなさいって!」
謎の力説をシャルルは語る。
出来れば騒ぎを起こしたくないのだが...。
入国早々に、ケルト騎士団に掴まるのも嫌だし...。いやまて私が捕まるのか!!?
変な騒ぎは起こしたくもないしあまり目立ちたくも無いのだけど...。
「な?!何生意気なことを言ってやがんだ!俺達の熱い思いは、誰にも負けやしねぇよ!と言うか立場分かってんのか?言うこと聞かねぇと丸裸でメインストリートを歩くはめになるぜ!!」
「はぁ...何を言っても無駄に終わりそうね...。仕方ないかぁ」
シャルルは腰に下げた剣に手を伸ばす。
出来れば人は斬りたくなかったのだけど...。峰打ちは...無理か。両刃の剣だし。と、どうすれば此方も相手も無傷で倒せるか、模索していた時__。
「女の子一人相手に三対一でカツアゲすか__。まったく、ケルト帝国の名にまた泥を塗るおつもりですか」
声が聞こえ、ゴロツキ達は振り返る。
「大きなお世話だ!!てか誰だてめぇは!! おめぇなんぞに用はねぇ!!失せやがれ!」
そこに立っていたのは、小柄な性別不明の人だった。性別不明、とは見た目では男性なのか女性なのか、見分けが付かなかったからだ。中性的な顔立ちで、声だけでもよく分からない。
「いえいえ、帝国騎士の端くれとしては、見過ごすわけにはいきませんよ。それにその子を連れて行かれては困ります。大人しく引くのであれば私としては大助かりなのですがねぇ。極力手荒な真似はしたくないのです。」
「一端の一騎士が何様だ!!こちとらこの街の裏を取り仕切るガルド様だぁぁ!!」
「な?!ケルト帝国の国民でありながら、私の顔を知らないとは...!愚か者め!」
一気に騎士は剣を抜く。シャルルは剣筋を見ることすら出来ず、中を舞うチンピラの大男を眺めた。
土埃が舞い、ガルドと名乗った大男が倒れる。残りの二人は顔を青くして言った。
「ま、まさか...あの男女...!やべぇぞ!相手が悪すぎる!ずらかるぞ!」
「ようやく思い出したか...。全く__。分かったらさっさと立ち去れ!」
そそくさと、チンピラ達は大男のガルドを抱えて立ち去っていく。シャルルはと言えば、終始ポカンとしていた。そんなシャルルに、騎士はゆっくりと近付いて膝をついた。
「お怪我はありませんか?シャルロット様」
「わ、私は大丈夫だけど...貴方は?」
「あぁ、申し遅れました。私、ケルト帝国騎士団長カイウス・ラベラードと申します。以後お見知りおきを!」
え、今騎士団長って言った?!
それに何で私の名を___。
あと男の子なのか女の子なのかどっち!?
「あぁ、色々と混乱されているようですね。申し訳ありません。本来であれば、入国ゲートでお迎えに上がるつもりだったのですが...」
カイウスは当たりを見渡した。
そしてシャルルを見て笑顔で告げる。
「ここではあまり、長話はしない方が良さそうだ...。シャルロット様、帝都の方まで案内致します。その道中、色々とお話致しましょう。」
シャルルは頷き、ケルト帝国騎士団長と共にメインストリートまで歩いてもどった。内心、やってしまったかなと思いつつ、ついて歩く。
「さっきはありがとうございました、一事はどうなることかと...」
「はは、お気になさらず。それにそんな畏まらなくても大丈夫ですよ。取って食いはしませんので」
まぁその心配はしていないのだけど...何故私の名前を?それに、もう一つ。何故私を迎えに?!そして男なの?!女なの!?様々な疑問が頭をよぎる。
「あの、私...」
「はは、ついさっきまで、あんな目に遭っていたのです。無理もありません。細かい話は後で致しましょう!折角海を渡ってきてくれたのです。今はケルト帝国を楽しまないと」
騎士団長カイウスは、シャルルの前に立ち止まると振り返り、微笑みながら言った。
「ようこそ!グルメと飛行艇の国
ケルト帝国へ__!」
シャルルはペコリと頭を下げたのだった。
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