旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-8「旅立ちの時6」


「いやはやー、頑張ったなぁ私!これだけあれば、旅も十分なんとかなるかも!」


デオールの街を見渡せる高台広場にある、換金場から出て来たシャルルは、街に着いてから一切変わらずご機嫌だった。魔物数十匹と、ゴブリンの親玉を倒した際に出た結晶を全て換金したのだ。安い宿なら、一ヶ月泊まれる程の収入だ。


ちなみに魔物の結晶の換金は、国営ギルドが結晶の質や量を測定し、ルピに換金してくれる仕組みになっている。結晶の使い道は様々あるが、主な使い道として魔法道具の動力源だ。


時計の動力も、噴水も、電気も、日常生活で使われる道具は魔物の結晶が使われている。
どのように結晶を動力に変えているのかだが、それはまた別のお話だ。


魔物の結晶の価値は、その街の規模や魔物の結晶の量によって変動する。高い時期に換金すれば、それだけ多くのルピを手に入れられると言うわけだ。


「さてさて、お金も手に入ったし、あと何かやっておかなきゃいけないことは...」


街でしたいことは、思いつく限り終わったはずだ。大好物のグラシアの実を買うことと、魔物の結晶を換金すること。

あぁそうだ。あともう一つあった。
でもそれをするには時間が足りない。
アストール村の命の恩人に、挨拶をと思ったのだ。しかしこの街からアストール村まで行くには、出航時間に間に合わない。

のんびり話す時間もなさそうだ。


「...アル君に一言伝えてから街に来た方か良かったかなぁ...少し失敗したかも。」

高台の橋に、寄りかかりつつ頬に手を当てながらデオールの街を見下ろした。港には沢山のが並んでいる。漁船もあれば、旅の船もある。

少し横に目を向ければ、大きな飛行艇ブルースカイの姿が見える。船の出航は五時頃だっはずだ。今の時間は四時を過ぎ。そろそろブルースカイに乗り込んでも良い時間帯だ。乗船は一時間前から可能と、チケットにも書いてある。


「なんなんだろう。このモヤモヤ。凄く楽しみなはずなのに。旅へ行きたいって頑張って来たのに。妙に...寂しい気持ち」



シャルルは何とも言えない気持ちになっていた。この時の為に、数々の苦悩と痛み、激戦を超えて此処まで来たはずだったのに。やっと苦労して手に入れた筈のチケットなのに。


後ろめたさと言うか、心残りというか。
何か大切な物を忘れているような気がして、少し複雑な気持ちになっていた。


そんな気持ちとは裏腹に、高台の広場では大道芸を行うパフォーマー達が、楽しげな曲を演奏していた。シャルルはしばらく、ぼんやりと流れてくる音楽を聴きながらデオールの街を見下ろす。


大きな鐘の音が鳴った。
四時半を知らせる鐘の音だ。
そろそろ行かないと。


シャルルはブルースカイの船乗り場へと足を運んだ。チケットを見せ、ブルースカイへの乗り橋を渡っていく。乗り橋を歩いて行くにつれて、どんどん飛行艇は大きく見えた。

ブルースカイは木造で出来ている飛行艇なのだが、その規模は明らかに大きい。しかも見た限り、アンティーク調の彫刻やランタンなど、かなりお洒落な作りになっている。

流石、デオールの街が誇る飛行艇だ。

乗船口に着くと、甲冑を身に纏った二人の警備兵が立っていた。背筋がビシッと伸びていて微動だにしない当たり、大陸を渡った先にある、これから向かう王国の兵士なのだろうなとシャルルは想像した。


うー...なんだろう。何もしていないのに少し罪悪感のあるこの感じ。いや何もしてないぞ?!とシャルルは気持ちを改め、堂々と歩いていく。

「「この度は、ブルースカイを御利用頂きありがとうございます。約二日程ですが、良い旅を!!」」

すれ違いざま。二人の警備兵に急に声をかけられドキッとしつつも、シャルルは軽く頭を下げた。にしても息がピッタリな二人だ。感心するべきはもっと別な場所にあるのだが、シャルルから見れば、この二人は仲が良いのだろうなと言う印象だった。シャルルの後について歩く乗客にも、しっかり背筋を伸ばしながら挨拶をする。


楽な仕事ではないだろうなぁ...と、シャルルは心の中で呟いた。



乗船口を越えれば、もうブルースカイの甲板だ。歩く度に木が軋むような音がするが、それはそれでお洒落な物だ。アンティーク調の雰囲気に良く合っている。船内を軽く見て回り、また甲板へ出た。

ブルースカイの甲板から、デオールの街を見下ろす。沢山の人で溢れているのが見える。先程まで居た高台も、ここからなら丸見えだ。飛行艇に乗る為の橋を渡る乗客も、ここからならよく見えていた。


そんなデオールの街を眺めていると、時計塔の鐘が鳴った。時計の針はもう五時を指している。鐘の音が響き渡ると、警備の二人はそそくさと移動し、乗船口を封鎖する。


出航の時間。

この街とも、この島ともお別れだ。

次に訪れるのはいつになるのか。
そんな事はシャルルにも分からない。

静かに飛行艇は動き出した。
大きなプロペラが回ると、飛行艇ブルースカイは速度を上げてゆく。

空に浮かび上がると、もうあっという間にデオールの街は小さくなってしまった。

黄昏の時間。
日は沈みかけ、空は黄金色に輝いている。
シャルルは初めて見る光景に瞳を輝かせた。


「...何処までも行こう。世界の果てまで」




シャルルの壮大な冒険綺譚は、
そんな黄昏の時から始まったのだった。








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