旅人少女の冒険綺譚
1-8「旅立ちの時-5」
シャルルが飛行艇乗り場がある街、「デオール」に着いたのは、昼の3時を回った位だった。アストール村から伸びる道を東へ進むとある大きな街だ。
シャルルの居る大陸...と言うよりは島なのだが、意外に小さい。島を一周歩こうとすれば、5日間もあれば一周出来てしまう広さだ。
魔力を使い走り続けたなら、2日間と半日で島を一周走破出来てしまうだろう。まぁ大抵の人はそこまで魔力を持続的に使えないのだが...。
そんな島の一番大きいデオールの街は、海に面しており漁港としても有名だ。新鮮な魚や魚介類が屋台でも売られている。
それよりも有名なのは、この街が誇る大きな飛行艇、「ブルースカイ」だろう。
一日に数回、飛行艇ブルースカイは海を渡り、島と大陸を繋ぐ役割を果たしている。
勿論チケットが無ければ乗ることは出来ないし、チケットを買うのにも色々手続きが必要だ。
勿論、人以外の物も運んでいる。
特産品である果実や魚介類、その他様々多種多様だ。
そんな街に、シャルルは一度だけ来たことがあった。あの時は師匠からのお遣いだったから、ただ飛行艇を見ただけになったのだが、飛行艇を初めて見た感動は、今でも鮮明に覚えている。
しかも今度は見るだけで無く、あのブルースカイに乗って海を渡るのだ。胸の高鳴りはシャルルの表情を見れば、一目瞭然だ。
さてさて。
テンションが上がりっぱなしのシャルルがメインストリートを瞳を輝かせつつ歩いていると、沢山の出店が並んでいた。どこからも美味しそうな匂いと、活気に満ちた声が響いている。
お祭りではなく、この光景がデオールの日常だ。ブルースカイから降りてきた人たちを出迎える役目もある。
シャルルは、沢山ある出店の中から果物屋の前に立ち止まった。
「いらっしゃい。何にしやす?」
「んーっと。グラシアの実ってある?」
ちなみに!グラシアの実とは、大きな木からなる赤い果実のことだ。こちらの世界で言う林檎のようなものなのだが、果汁は梨のように溢れ出て、味もさっぱりしている。そのかわり、少し小さいのが残念な所ではあるのだが、シャルルの好きな果実の一つだ。
「グラシアの実ね!はいこれ。一袋で200ルピだよ」
「はい、これお金。ありがとうおじさん。」
お金を支払い、紙袋を受け取る。
「嬢ちゃんはお遣いでこの街に来たのかい?」
「いや、これから大陸の方へ行こうと思って」
「おぉー海を渡るのかい!そいつは大変だなぁ。てことは?ブルースカイに乗るって事かい?」
「うん、私この島を離れて、旅人として生きていくからね!」
「旅人に?!そうかいそうかい!そいつは驚いたな!嬢ちゃんの新たな門出だ!これはオマケだから取っときな!」
果物屋のおじさんは、シャルルの持つ紙袋に、二つグラシアの実を入れた。気前のいいおじさんである。
「ありがとう!」
「あぁ、いいって事よ!冒険者より旅人を選ぶとはなぁ...。」
___________。。_______
※補足説明すると、冒険者と言うのは人がまだ未開拓の大地や土地を冒険する職業の事だ。当然危険を伴うため、国からの援助がある。
一般的には様々な王国からの派遣や、ギルドぐるみの大人数パーティーが多いのだが、少人数で冒険するパーティーも少なくない。
冒険者は国に属しており、冒険者は立派な職業として扱われる。その国々にある冒険者ギルドに登録すれば、冒険者として扱われることになる。国に仕える冒険家達ということだ。
それに比べ旅人は、世界を旅する人の事を言う。基本的には一人旅となる。世界を回るには実力が無いと、冒険者よりも危険が伴う。
旅人は国には属さないので国々からの援助は無く、未開拓地へ足を踏み入れても報酬は出ない。
その代わりに、国からのしがらみは無く、様々な場所に自由に行き来出来るというわけだ。しかし全ては自己責任なのだが。
国に属して未開拓地を冒険するのが冒険者。
国に属さず、様々な場所を冒険出来るのが旅人。という認識でOKだ。
ここまでお疲れ様。
お話に戻ろう。
______________。。____
「大変だけど、冒険者より旅人の方が自由だからねー。変に縛られるのも、私苦手だし」
「そうかいそうかい。立派だねぇ...。それより嬢ちゃん。あんたブルースカイに乗るんだろう?ここ最近の話だが、ブルースカイの航路に魔物が出るって言われてるからよ...。」
「ふーん?そうなの?」
「何しろ、空飛ぶ魚の形をした魔物なんだと!見たこたーねぇが、最近この街じゃーその魔物の話で持ちきりよ」
「空飛ぶ魚ねぇ...いざとなれば、ギルドの人達が討伐してくれるし大丈夫でしょ!色々ありがとね!おじさん」
「おう、嬢ちゃんも気を付けてなー!」
手を振り果物屋を後にすると、メインストリートから少し離れた公園へと足を運んだ。
公園と言うよりは広場なのだが、真ん中には大きな噴水があり、それを囲むようにベンチが並べられている。
ここにも、大陸から来る人を楽しませる工夫がなされていた。
シャルルは一角のベンチへと腰掛けると、先ほど買ったグラシアの実を一つ取り出し一口頬張った。
「空飛ぶ魚の魔物ねぇ...。」
グラシアの実を食べながら、一体どんな魔物なんだろうと想像する。
魚が空を飛ぶ?しかも飛行艇の飛ぶ高さまで?と、シャルルの頭の上には沢山のクッションマークが飛んだ。
一度見てみないと分からないなぁと考えつつ、グラシアの実を一つ食べ終わると立ち上がった。
シャルルはまだ、この街でするべき事がある。試練の洞窟や始まりの森で得た沢山の結晶を換金しなければ。
換金場へとシャルルは足を運んだのだった。
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