旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-8「旅立ちの時-3」

シャルルが師匠の家、もといシャルルの住む家に着いた頃には、昼を少し廻っていた。
走り続けるのはやはり大変だ。時折休憩を挟んでいたため、仕方がない。

シャルルはやや乱暴に家のドアを開けた。

「師匠!!居る?!」

シャルルの声が家に響いた。しかし返事は無い。いつもこの時間なら、書斎に居るはずなのだが。

「師匠ー?居ないのー?」
帽子と鞄を、玄関先にあるラックにかけて
部屋を一つ一つチェックしながら師匠を探した。出来れば御礼を伝えたいのだけど。そして依頼を失敗したと伝えなきゃなのだけども。

「出掛けたのかな...。」
部屋を一通り見て回るも姿は無く、一つため息をついた。一体何処へ?そんな事を考えながら、窓際にある椅子へと腰掛けた。

ぼーっと窓の外を見詰めていると、飛行艇が空を駆け抜けていくのが見えた。
あれに乗るのは一年後かと、またまたため息をつく。

「まったく、ため息の多い奴じゃのシャルよ」不意に聞こえた師匠の声に、ガタリと音を立てて振り返る。シャルロットの事をシャルと呼ぶのは師匠位しか居ない。

「し、師匠?!なんで此処に__。」

「何故って此処はワシの家じゃろうに。まったくしっかりせい」

杖で軽く頭を叩かれると、シャルルは叩かれた所を手で押さえた。

「叩くことはないでしょー?もう。師匠は毎回頭叩きすぎ!」

「叩いても軽い音しかせんじゃろうに。まぁよい。時にシャルよ。薬草は見つかったかの__?」

その質問に、シャルルの表情が曇った。
見付けたことは見付けた。ただ__。

「ううん、見つかんなかった。あれだけ探して見つからないんだもん。次見つけられるのは一年後くらいかも__。」

「まったく、嘘を付くのが下手じゃのシャル。」

シャルルはその言葉に、ドキッとした。
見透かされた?!

「シャル。お前に渡す物がある。付いてきなさい。」

「う、うん...」
師匠を追い掛けるように後に付いていくと、壁の前で立ち止まった。そして師匠は壁に円を描くように杖を沿わせる。

すると、壁はぼんやりと魔方陣を描き、古びた大きい木の扉が現れた。

「隠し部屋なんてあったの?」

「当然じゃ。お前に見られてはならん物も貯蔵しておる部屋じゃからの。」

「それってもしかしてエ」
とあるワードを口にする前に杖の鉄槌がシャルルの頭を貫いた。頭を押さえながらシャルルは悶える。

「まったく、下らん妄想しよって。さっさと着いてきなさい。」

「うぅ...はーい。」
軽く涙目。まだ全部言ってなかったのに。
シャルルは師匠の後ろを頭を押さえながら着いていく。

扉を潜り、地下へと続く階段を降りて行くと、小さな部屋があった。師匠はランタンに火を灯すと、ぼんやりと部屋の全体像が見えた。壁を覆う本棚や、見たことの無い剣。棚には魔物が落とす結晶や、生物の標本など、所狭しと並んでいる。

そして部屋の真ん中に机があり、机の上にも、見たことの無い物が沢山並べられていた。

師匠は机の前にある椅子に腰をかけた。
そしてシャルルも、対面するように椅子に座る。

「シャル。お前はもう知っておろうが、始まりの森で倒れていたお前を、アストール村の診療所へ運んだのはこのワシだ。」

「うん...。ありがとう師匠。あとお金、払ってくれてたんでしょ?助かっちゃった。」

「うむ、礼が言えるだけ十分じゃの。」
師匠は微笑むと、ゆっくりと語り出す。

「さて、じゃあ何故ワシがお前を助けられたのか。その理由とお前に薬草を探してこいと言った理由も、話しておこうかの」

シャルルは真剣な眼差しで話を聞いた。
ごくりと唾を飲み込む。

「薬草を探させた理由じゃが__。お前が助けたアルと言う少年。その少年からワシへの依頼だったのじゃ。」

えぇ...それ、面倒くさかったから私に回したんじゃ...と言いたかったが言葉を飲んだ。なぜなら師匠の目は真剣だったからだ。

「依頼をお前に託した理由。それはお前なら、もう試練の洞窟を制覇出来ると思っとったからじゃ」

実力を測るため。と言うよりは、旅に出ても大丈夫かどうかの確認のため...だったのかもしれない。

「うん...。」

「それともう一つ。ワシがお前を助けられた理由。それは__。」

「それは?」

「それは、とある街へ出掛けとった帰りに、お前が倒れているのを見付けたからじゃよ。シャル、これに関しては運が良かったのぉ」

ほほほと笑う師匠を、シャルルは申し訳ないようなそうでも無いような、不思議な感情に苛まれながら苦笑を浮かべて答えた。でも運が良かったのは間違いない。

倒れたまま、魔物に殺されてもおかしくは無いからだ。

師匠は真剣な眼差しでシャルルを見て話を続ける。


「全ては、あの少年。アルから全て聞いた。診療所でお前を預けた時じゃ。もう薬草は必要なくなったと。シャルルが持ってきてくれたとな。それと、アルを守るために戦ってくれたのだと__。」

師匠は机の上に置いていたパイプに火をつけた。甘い香りと煙が部屋に広がる。

「ふむ...シャル。お前に課した課題は合格だ」

「え?!ほ、本当?」

「あぁ。お前は試練の洞窟を制覇した。それに、ワシの依頼をも、こなして見せた。これを合格と認めない程、ワシは鬼では無い」

「それじゃあ__。」

「うむ、約束じゃったからの。」

師匠は懐から、一枚のチケットを取り出した。それをシャルルに手渡す。シャルルは受け取ったチケットを見た。間違いない。飛行艇へ乗るための乗船チケットだ。


「やったぁぁ!」
シャルルは両手を上げて喜んだ。この日の為に。このチケットのために頑張ってきたのだ。嬉しさのあまり、泣き出しそうになる。

「ほほ。良く頑張ったのシャル。それとこれも渡しておこう。此処に来たのはそれが理由じゃ」

師匠は壁に掛けられていた一本の剣をシャルルに手渡す。剣の装飾はシンプルだ。だが柄に何やら擦れて読めないが文字が掘ってある。


「その剣は、お前を守ってくれるじゃろう。使いこなすのには難しいかもしれん。じゃが___。お前が人のため、弱き民の為に歩みを止めぬ限り、その剣は決して裏切らん...。大切にな」

「うん...ありがとう師匠!」
シャルルは剣を抱き締め、満面の笑みで御礼を告げた。

「ちなみにじゃが__。」

「え?」

「後一日、お前が薬草を取ってこれなかったらワシが試練の洞窟に取りに行こうと思っとったんじゃ__。」

「それって...つまり...」

「ギリギリでセーフだったって事じゃ!。運が良かったのぉ!もしあの日に薬草を取れてなかったら、後一年は、このチケットが受け取れん所じゃったぞシャルよ!」

わははと笑った師匠。先ほどまで笑顔だったのに、シャルルの顔は一気に青ざめた。

本当に良かった。ありがとうアル君。あの日に出会えて本当に良かったと心の底から感謝したのだった__。


______。


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