旅人少女の冒険綺譚
1-8「旅立ちの時-2」
次の日の朝。
シャルルは身支度を済ませ、診療所の受付へと向かった。診察はもちろんタダでとは行かない。ギルド直属の診療所だとしても、運営為ていくためにはお金が必要なのだ。
今回のシャルルの場合。
意識不明の緊急で運ばれてきた。と医者から伝えられていた。普通の診察ではない。
シャルルの頭はお金が足りるかどうかでいっぱいになっていた。
ちなみにだが、魔物を倒した際に出る小さな結晶は、それだけではお金にはならない。結晶を換金して、お金に換えなければならないのだ。
勿論、結晶を支払いで使える場合もある。
しかしグラム単位の計算になるし、お金に換金するための手数料も取られてしまう。
その手数料が意外に高いため、本来であれば換金してお金に換えてから使うのが一般的だ。
どうしようかと、頭を抱えつつ受付に着くと、少し不安そうにしながら受付の男性に話しかける。
「あ、あの。今日で退院のシャルロットですけど__。」
「あぁー、シャルルさんね。はいはい、今手続きさせて貰いますねー」
そう言えば皆、シャルロットとは呼ばずシャルルと愛称で呼んでいた。まぁ重傷で運ばれてきたし、アル君もシャルルお姉ちゃんと呼んでいたから、きっとそれでシャルルと呼ぶのだろうなと想像した。
受付の男性は、羽根ペンと受付にある名簿を手に書類を開いた。そしてシャルルへと向ける。
「ここにサイン、お願いします。」
「はい、分かりました。」
羽根ペンを受け取り、退院するための書類にサインを書くと男性に返した。
ここまでは良い。問題はこの先なのだ。一番気になっている治療費の話だ。結晶を払うか、今の財布の中にあるお金で足りるのか。
全ては、目の前の男性が指定する金額にかかっている。
しかし、男性はあっけなく言った。
「それでは、御大事に。気を付けてお帰りくださいねー」
「え?」
てっきり、治療費の値段の話になるのかと思っていたのだが...。シャルルは恐る恐る問いかける。
「あの、治療費は大丈夫なんですか?」
「ええ。治療費やその他もろもろのお金は、シャルルさんを此処に連れて来られた方から既に頂いております。ですのでお気になさらず!」
爽やかな笑顔で、受付の男性はそう言った。
そういえば、誰がここに運んでくれた?!
しかもお金まで払ってもらってるなんて!
「あの、もう一つお伺いしたいんですけど」
「はい?何でしょう?」
「私をここまで運んでくれたのって...アル君の両親でしょうか?」
一番に思いついたのはそれだ。いつまで経っても戻ってこないのを心配して、助けに来てくれたのかと思ったからだ。
「いいえ、もっと御年配の方でしたねぇ。てっきり、シャルルさんの知り合いかと思ったんですが。」
「そうでしたか...。」
御年配の方。シャルルが心当たりのある人が一人だけ居た。そうだ。きっとあの人しか居ない。
「それじゃあ、お世話になりました。」
シャルルは軽く頭を下げた。
「はい、お気をつけて!」
爽やかな笑顔は変わらずで、受付の男性は手を小さく振りながらシャルルを見送った。
シャルルは外に出るなり走り出す。
目的地はもちろん、今住んでいる我が家でもある師匠の自宅だ。アストール村から少し離れてはいるが、今から走れば昼頃にはつく。
「まったくもー...師匠ったら...!!」
シャルルはまたまた魔力を足に送ると、風のように速く、草原を駆け抜けて行ったのだった。
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