旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-8「旅立ちの時-1」

目が覚めてから数日後。
シャルルは定期検診を受けていた。

魔法による診察が主になるのだが、魔法による診察は容易な物ではない。

魔法医師会ギルドの規定があるのだ。
かなり高い水準の魔力がないといけないし、魔法により得た情報を理解する知識も必要だ。

ちなみに、魔法医師会ギルドはどの国にも存在している。言わば、国境なき医師団...のようなものだ。魔法医師会ギルドに入っていない医師は、どれだけ知識や魔力、技術を持っていてもヤブ医者と呼ばれることになる。

つまりは、魔法医師会ギルドからの許可がなければ、診療所は開けないのだ。


シャルルのお世話になっている、アストール村のこの魔法医師はヤブ医者ではない...と信じたい。シャルルは目の前に居る医者のことが半信半疑だったのだ。

どうしても第一印象としてだが、怪しいように見えてしまっていた。

丸眼鏡だし診察室には、沢山の試験管が並んでいて、試験管に入った液体が、ポコポコと音を立ててるし...。ビーカーには緑色の薬があるし、色々な薬草や木の実、昆虫など、様々な物が置いてある。変な実験でもしてるんじゃ無かろうか...?

と疑いつつ、医師の言うままに、シャルルはベットに座った。


「はーい、仰向けで横になってねぇ...。」
指示に従い、仰向けで横になる。魔法医師は、シャルルに手を翳した。

すると、シャルルの身体をぼんやりと青白い光が覆った。感覚的には、くすぐったいような、そうでも無いような。やんわりと包み込まれる不思議な感覚だった。


しばらくして光が消えると、魔法医師はシャルルのカルテに今日の診察結果を書き加えた。少しだけ不安そうに、その様子をシャルルは見守る。

羽根ペンを台に乗せて、魔法医師は此方を向いた。特に悪いところは無いと思うが、やはり緊張してしまうものだ。


今まで病院や診療所は、シャルルには無縁だったから、余計に緊張してしまうのだろう。


「もう大丈夫そうだねぇ。明日には、退院でいいだろうねぇ...。もうあんな無茶はしてはいけないよぉ?シャルル君?」

「はい...、気をつけますです...はい。」

いかにも怪しく見える魔法医師は、怪しい素振りで眼鏡をあげた。シャルルは苦笑を浮かべながら一言御礼を伝え、診察室を後にした。

シャルルが診察室をでた後。
魔法医師は、シャルルのカルテを手に取り、一番下に書いている、とある項目を見てポツリと呟く。

「ふーむ...誰かの為に...か。珍しい能力だねぇ...。あの子らしいと言えばあの子らしいか...。」

魔法医師はシャルルのカルテを棚に直すと、次の患者の診察を始めたのだった。

______。

診察が終わり、明日には退院と聞いてシャルルはご機嫌だ。いつもよりニコニコしながら、自分の病室へと足を運ぶ。色々な事があったけど、今の所は順調だ。


廊下を歩きつつ外に目をやると、子供達が走り遊ぶ姿が見えた。外にあるベンチに座り、話をしている老人たちや、散歩をしている若い女性もいた。


あまり意識してなかったが、人の集まる診療所となっているようだ。それでもあの魔法医師は怪しいなと思いつつ、自分の病室へと入った。

「さーて。明日退院なら色々準備しないと...」

軽く背伸びをしながら呟くと、シャルルは病室にあるクローゼットを開けた。中には、赤いコートと革製のベルト。フリル付きのYシャツやスカート、スカーフ等、あの時着ていた服が綺麗に掛けられている。


洗濯をしてくれていたようだ。土汚れはついていないし、目立った汚れは無い。

コートを手に取る。シャルルのトレードマークである赤いコートは、やはりボロボロだった。数日前の記憶が頭をよぎる。


コートを掛け直すと、クローゼットを締めて、クローゼットに立て掛けられていた剣に手を伸ばした。

ゆっくりと引き抜くと、ガリガリと削れる音が響く。刃を見て、シャルルはため息をついた。

「はぁー...やっぱりこれもボロボロだよねー...折れてないだけ奇跡かも...」

剣の刃は、度重なる戦いで悲鳴を上げていた。剣に魔力を注くことは、剣にとっては長持ちしない使い方とされている。それだけ負荷をかけることになるのだ。

しかし適正な魔力を注げば別だ。より強い切れ味を発揮できるし、技を繰り出しても刃が折れる事は無い。強度を上げたり、切れ味を良くしたり、属性を付与したりとメリットも多い。


しかしシャルルは魔力を注ぎすぎたのだ。
適正以上の魔力は、剣にとっては致命傷となってしまう。内側からボロボロになり、直ぐに折れてしまう。シャルルの剣は、外側までボロボロになっていた。


「まだ直せば使えるかなぁ...愛着あったんだけど」

今にも折れそうな剣を、ゆっくりと鞘へと収めた。元から剣術は得意ではない理由の一つだった。

鞄の中身をチェックし、退院する準備は整った。明日になるまでまだ時間がある。
シャルルは立ち上がると、診療所の外へと散歩に出掛けるのだった。



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