旅人少女の冒険綺譚

野良の猫

1-7「試練を超えて-1」

魔物を退けながら、シャルルは出口を目指して歩き続けた。

満身創痍とまではいかないが、もう戦う気力も体力も、魔力すら残っていない。

時折。洞窟に流れる綺麗な水を飲み、休憩を挟んだ。

目的の薬草は手に入れたのだ。ここで倒れるわけにはいかない。旅において自分の身を守ることも、また大切だ。

「はぁ、流石に疲れたぁ。これで変なボスとか出て来たら逃げるしかないかも」

座りながら、そんな事を呟いたそんな時だ。
衝撃振動で水面が揺れた。遠くから地響きが聞こえてくる。

シャルルはゆっくりと立ち上がる。
そして地響きの聞こえる方向をジッと見詰めた。

予感的中。当たって欲しくない予感だ。
嫌な予感ほど良く当たるとは、誰が言い出したのか。

そんな事を思いながら、ゆっくりと後ずさりして距離を離そうとしたのだが__。

こういう時に限って忘れ物だ。
中に大切な薬草が入っている鞄を置いてきてしまっている。

またまたゆっくり鞄に手を伸ばし、手に取った時には、地響きの元凶である魔物は直ぐそばに迫っていた。

ふと横に目をやると、緑色の大きな巨人がこちらを見詰めていた。手には大きな棍棒を持っている。間違いない、ゴブリンの親玉だ。

視認されなければ、簡単に逃げ切れる相手だし、歩きも鈍いため早めにこちらが動けば相対する事も無い。

しかしながら、シャルルは目を合わせてしまった。しかも目と鼻の先に相手は居る。最早色々と手遅れだ。

「あ、あはは...本日はお日柄も良く__」
と話しかけてみるも、当然の如く失敗だ。
ゴブリンは雄叫びを上げると、ゾロゾロと子分である小さいゴブリンが姿を見せる。

シャルルは剣を片手で構えつつ鞄を背負い直すと、出口へ向かって走り出した。
それに釣られてゴブリンも走り出す。

親玉だけならまだ逃げ切れるのだが、問題は子分達だ。親玉に比べて足が速い。

「もー!!何でこうなるの!!」
なんでってそりゃだって試練の洞窟だ。


試練がなければ、奥には綺麗な花の咲き、貴重な薬草が採れる安全で平和な、はじまりの森唯一の名所となっていただろう。


シャルルの悲鳴とゴブリン達の地響きは、洞窟中を響かせた。少しでも速く走れるように、魔力を足に送る。


せめて洞窟の外までもってくれればいい。
逃げ切れますようにと、シャルルは心の中で祈りながら、必死に出口へ向かい走り続けるのだった。

________...

「遅いなぁ...。」
ぽつりと空を見上げながら、シャルルの帰りを待つ少年は呟いた。

「もしかして倒れてたりはしてないよね...大丈夫だよね...?でももしもの事があったら..」

少年は子供ながら、シャルルが心配になっていた。直ぐに戻ると言い残して洞窟へと踏み入れてから、かれこれ数時間はたっている。

日は少し傾きかけているし、後数時間で日が沈むような時間だ。

少年は図鑑を取り出すと、ページをめくり始めた。もしかしたら、シャルルが怪我をしているかもしれないと思ったからだ。

始まりの森は、薬になるような野草や木の実が豊富にとれる場所だ。

女神の加護がある周辺なら、魔物はよって来れないし、手に届く範囲なら傷薬の材料は集められると考えたのだ。

少年は図鑑を見ながら、野草や木の実を集め始める。自分にも何か出来ることがあれば手伝いたい。そう考えた末に辿り着いた少年の行動だった。

少年がポケットに木の実や野草を採取していた途中。試練の洞窟から何やら地響き聞こえてくる。そして聞き覚えのある声。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全力疾走で走ってくるシャルルを見て、少年は嬉しそうに出迎えようとしたのだが....

後ろからとんでもない魔物が向かってきたのが見えた瞬間に表情は一気に青ざめた。

「ギリギリセーフぅぅ!!」
一気に滑り込むように、シャルルは女神の加護がある外へとダイブした。土埃が舞い上がると少年は噎せながらシャルルに近付いた。

「だ、大丈夫?シャルお姉ちゃん」

少年の心配そうな顔を見て、シャルルは立ち上がり軽く頭を撫でて笑顔で答えた。

「大丈夫大丈夫!目的の薬草も採ってきたから」

少年は撫でられながらシャルルの服を見た。
傷だらけの穴だらけでボロボロになっているし、魔物の噛み後もある。

ふと洞窟の方へと目を向けると、ゴブリン御一行は女神の加護により外に出れられず、此方を威嚇した。何度か突撃をしてくるも、しっかり守られているために突破は出来ない。

少年は安堵し、ポケットの中に手を入れた。

「あ、そうだ。シャルお姉ちゃんに、これ渡そうと思って__」

少年がポケットから木の実や薬草を取り出そうとしたとき。試練の洞窟からゴブリンの親玉が出てこようとしていた。

こちらに出てこようと棍棒を振り回して、大暴れしている。

「ね、ねぇシャルお姉ちゃん...」

「な、何かな...?」

「まさかとは思うんだけど、出てこないよね...?」

「それは大丈夫な筈だよ?女神の加護がる限りは出てこられないはずだし__」

フラグは立てる物ではない。
フラグはへし折る物だ。

と誰かが言っていた気がするが、今回の場合。フラグは回収されるものになってしまったようだ。

洞窟の入り口付近でゴブリンは棍棒を振り回していた。そして勢い余り、手から棍棒が離れる。

高速回転しながら飛んでいった棍棒の先は、見事女神の加護に直撃し、シャルルの貼った結界が破れてしまった。

加護により、当たりを覆っていた光が消えると、ゴブリン御一行は洞窟の外へと姿を見せた。

何故通れたのか不思議そうにしていた が、シャルルの姿を見て、また雄叫びを上げる。

「こ、これはまずい!!逃げよう!」
シャルルは少年の手を取ると、走り始めた。
当然、ゴブリン御一行も追いかけてくる。

まだ比較的安全な始まりの森は、驚異の森へと変わった瞬間だった___。












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